第十三巻 放課後の猫
それは知人の論文原稿を読んでいる時だった。突如、文字が一斉に動き出した。まるで紙の上を這い回る虫のように。もう論文が読めなくなったことは、どうでもいい。早速この現象を書き留めなければ。だがその殴り書きさえも、すぐに走り出してしまう。これは一体……? #twnovel #文字の反乱
仕事が無くなって一週間が経った。仕事が来なくなったのではない。できなくなったのだ。機械の故障だとか、天候不順だとかは無い仕事のはず、だったのだが。「事実は小説よりも奇なり」原稿用紙に書いたその字が目の前で踊りだすのを、ただ眺めるしかできなかった。 #twnovel #文字の反乱
「もう駄目だ!」相棒が匙を投げかける。「落ち着け」「でも流石に無理だよ」爆弾の解体は、あと暗証番号を入れるだけだったのだが、それをメモした数字が突然バラバラになってしまったのだ。でも俺たちは運が良かった。「おい、見てみろ! 残り時間の数字も……」 #twnovel #文字の反乱
「お爺ちゃん。この骨董品は何?」「それはパソコンっていう、昔の機械さ」「まだ動く?」「ハハハ、動かんよ」「なんで捨てないの?」「壊れてはないんだ。プログラミング言語というのがダメでねぇ。無事に動いてくれれば、久しぶりに婆さんの顔を見れるんだが……」 #twnovel #文字の反乱
「ドードーって鳥がいただろ? 進化して飛べるようになった鳥が、進化して飛べなくなった。あれと同じさ」「それは退化だ」「じゃあ海へ帰ったクジラは退化か? 違うだろ? で、ヒトは文字を無くした。これも意思伝達の変化への見事な適応だよ。これは必然なのさ」 #twnovel #文字の反乱
旅は良い。道中で出会った人に声をかけ、道を教えてもらう。まるで素朴な野花を見かけたような、そんな嬉しさがある。昔、文字が使えた頃は地図で道が分かったそうだが、その時代の人々は本当に旅を楽しんでいたのだろうか。次に出会った人とはそんな話をしてみよう。 #twnovel #文字の反乱
「私の頃は良かったなぁ。友達が頭の良い奴のノートを写したのを写してテストに持ち込んでたよ。それも前日に借りてさ」「先生、ノートって何ですか?」「そうか、今の子は知らないか。先生が黒板に書いたりしたことを書き写すための紙だよ」「黒板って何ですか?」 #twnovel #文字の反乱
目が覚めた途端、頭の中に記憶が蘇った。夢の中で私は小説を読んでいた。面倒臭がりな探偵とドジな助手のコンビが活躍する、最高のミステリーだ。まだ文章は目に焼き付いている。これは書き留めなければ。だがそこで気付いた。もう文字を書いても意味を成さないのだ。 #twnovel #文字の反乱
前を歩く子供達はサンタの話をしている。だが、その中に暗い顔があるのに気付いた。「サンタさんには何をお願いする?」「ううん。お願いなんかしない」「何で?」「僕ん家は貧乏だからサンタさん来ないって」「じゃあその日はお泊り会しようぜ! 俺ん家なら来るはずだもん!」 #twnovel
「もうダメだ。さよなら」そんなメールが突然来た。驚きが焦りで消える。考えろ、自分。時間に脅されるようにキーを打った。「Don't be evil」幸いにして返信がある。「悪になるな、ってどういう意味?」「evilの逆だってことさ」するとすぐに返事が来た。「バカ」 #twnovel
「テトラポッドってどう思う?」それにすぐ答えられるのは、造っている人くらいだ。「奴らは4本の腕で波を受けるだろ? でも受け切れない。なら2本腕の人間には到底ムリだと思う訳さ」「人は無力ってか?」「いや。奴らを見習え。集まるんだ」「男二人で海に来てる奴が言うなよ」 #twnovel
寒い、寒い。しかし今は手袋をはめている時間も無い。バスが出発してしまう。マフラーの巻加減は妥協してしまったから、隙間風が首に刺さる、刺さる。でも間に合った。走ったせいか、バスの空気は暖かい。だが腕時計を見遣り、思い直した。「運転手さん、ありがとうございます」 #twnovel
放課後の、誰もいない音楽室。ピアノが哀しい旋律を奏でている。俺は廊下に立って、その音色に聞き蕩れるのが日課だった。でもそれも今日で終わり。卒業というやつだ。だから最後にちょっとだけ、悪戯をした。最後に叩かれる鍵盤が動かないように。その曲が終わってしまわないように。 #twnovel
その猫はいつも同じ場所にいる。でも毎日会う割に、目が合うとすぐに逃げ出しやがるのだ。面白い奴である。だがある日、近づいてもそいつは動かなかった。これは、と思ったが次の瞬間、近くに植木鉢が落ちてきた。いつも通り歩いていたら直撃だ。ふと見ると、奴はもういなかった。 #twnovel
三枚目を演じることに後悔はない。海の底に宮殿があったと法螺を吹いておき、開けた贈り物から噴き出す煙に紛れて翁と入れ替わる。それで伝説を作れば、村は観光地になれるのだ。だが、その事実を隠すために若者役の俺は隔離されることになっている。「浦島」という名の孤島の中に。 #twnovel
ビルの隙間の路地に怪我をした小鳥が眠っていた。ちょうどいい。男は小鳥を拾い上げた。「あなたは命の恩人です」「勘違いするな。お前は食料さ」「あなたにそんなことができるはずがない」ホームレスは無視して食ったが、それは間違いだった。「この体は寄生するのにちょうどいい」 #twnovel
おかしな話だが天使の翼が一枚、片側だけ落ちていた。それだけなら知らぬふりをしてもよかったが、それをめぐって二人の天使が喧嘩をしていた。どちらも片方の翼が無い。「二人で手をつないで飛べばいいじゃないか」「お前バカだろ。どっちも同じ側が無いんだよ」バカで悪かったな。 #twnovel
その美しい姫君は舞踏会から霞のように消え去ってしまった。そして残されたのがこの鍵。そこで王様は鍵に合う鍵穴を探すように命令した。やがて発見の知らせがあり王様は喜んだ。だがそれを見て愕然とした。それはかつて王位継承の際に王様が謀殺した、幼かった従妹の棺だったのだ。 #twnovel
バナナの皮を階段にポイ捨てしてみた。そこから始まる男女の恋を観察して、小説にしようという試みだ。モテた経験のない自分が情けない。「階段にゴミを捨てたらダメじゃない」これはチャンス。「それを投げつけてから言ってくれた方が良い描写になるなぁ。最初からやり直し!」 #twnovel
エレベーターの中には自分独り。壁に寄りかかると、肌に金属の冷たさが伝わってくる。今日一日の疲れと入れ替わっていくようだ。こうやってエレベーターはみんなの疲れを吸い取ってくれているのかもしれない。疲れを力に変えて、どこまでも昇っていくんだ。もうすぐ、扉が開く。 #twnovel