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第九巻 子狐の栞

書いた文字だけで、全てを表現できるだろうか。この世は文字で作られている訳ではないし、文字は人間が作った枠の中でしか動けない。それなのに、どんな妄想だろうが文字を羅列すれば思いは伝わるんだ、なんて信じているのなら、それこそ妄想ではないか。ねぇ、君はどう思う? #twnovel




通り雨が降ってきた。そこで傘を忘れたことに気付いたが、もう遅い。道行く人々はパサリパサリと十人十色の傘を開いていく。まるで天が人間の傘の色を確かめているようだ。その時、通りすがりの人が俺を傘の中に入れた。「風邪引いちゃいますよ」その傘の色は今でも忘れない。 #twnovel




人気のピエロは笑って言った。「僕には才能がないんです」確かに、彼は真剣に玉乗りをしても、必ず尻から落っこちるのだ。それで客は大爆笑。そんなある日、彼はついに、お粗末ながら玉乗りを成功させた。その時、客席から返ってきたのが拍手と涙であることは言うまでもないだろう。 #twnovel




私は幽霊が見えてしまう。今朝も、出かけようとして玄関を開けると、そこに変な奴が立っていた。こういう時は気付かないふりが一番だ。目を合わせずに行こうとしたが、そこで私は服を掴まれた。霊が物を掴めるはずがない。動揺する私に、そいつは声を荒げた。「家賃3ヶ月分!!!」 #twnovel




マウスの右クリックが反応しなくなった。もう潮時かと思い通販サイトでマウスを探していると、リンクをタブで開こうとして、うっかり右クリックしてしまった。もちろん開くはずがない。開かせたくないのだろうから。俺はクローズをクリックして、電器量販店へ向かうことにした。 #twnovel




川面に水紋が揺れている。同じような波が何度も岸辺へ寄っていき、その度に岸辺は濡れた。それは百年後も千年後も変わらない光景だ。しかしそれで何も変わらない訳ではない。岸辺は少しずつ波に削られている。きっと百年後も千年後も、全く違う川の形を見ることができるはずなのだ。 #twnovel




「そういや後藤は?」同窓会にあいつが来ないはずはなかった。「お前知らないのか。あいつは、お星様になっちまったんだよ」「そんな……俺より先に行くなんて」「えっ?」「えっ?」友人が指さす先には、テレビに映る今話題の一発芸人の姿が。「ジョニー後藤のショ~トコント!」 #twnovel




苔むした石垣が続く山道を、誰かと過ごすべき休日に歩いているのは私くらいのものだった。蝉の歌が、ずっと頭の中を回っている。まるで、この道が終わらないような気がした。だがそれを遮るように、声がする。「あの、落とし物……」どうやら世界には、似た人間がいるらしい。 #twnovel




そこには綺麗な押し花の栞が挟まっていた。きっと持ち主が気付かないで、この古本屋に売ってしまったのだろう。店主に話すと、その本を買うなら一緒にくれるとのことだった。その夜、居間でそれを眺めていると母が口を開いた。「あら、それ私の栞じゃない。勝手に使わないでよ」 #twnovel




「なぁ、俺たちこの本屋じゃ立ち読みできねぇみたいだぜ」「ハァ? 何言ってんだ。俺たちはいつでも読み放題だろ」「いや、あの張り紙を見てみろよ」「張り紙?……ウワッ、恐ろしいねぇ。一体、いつ気付かれたんだ?」その張り紙には、明朝体でこう書いてある。「立ち読み減菌」 #twnovel




久しぶりに帰省した僕は、昔馴染みのちょっと変わった本屋の前を通りがかった。「大安売り」という看板と共に、「大安」さんの書いた本が並んでいる。変わらないな、と思いながら僕は店主に声をかけた。「お久しぶりです。僕が小説家の『大安真吾』だって、誰から聞いたんですか?」 #twnovel




あの勉強熱心なクラス会長が、一人で漫画コーナーにいるのを見つけた。しかも周りの目を気にしている様子が、あからさまで微笑ましい。しかし、彼女はどんな漫画を読むのだろう。彼女が去った後にそこへ行った瞬間、俺は反射的に踵を返した。BLの二字が、そこにあるはずがない。 #twnovel




ここでバイトを始めてから、本屋は人生の窓ではないかと思うようになった。ある時、児童書を大量に買っていく男がいた。きっと父親になったのだと思っていた。だがその一週間後、その男がレジに持ってきたのは「脳死は人の死か」という本だった。その本を受け取る手が、震えた。 #twnovel




あの人はいつも学校帰りにこの本屋へやって来る。それが私の毎日の楽しみだった。いつもは奥の文芸コーナーに行ってしまう彼だったが、なんと今日はこっちへ来る。私は内心大喜びしたが、それも束の間。彼の手提げの中に電子辞書が見えた。あぁ、紙なんかに生まれなければ良かった! #twnovel




この本屋には奇妙な店員がいる。いつもレジで本を受け取るたびに手を震わせるのだ。ある日、その店員に声をかけてみた。「本が怖いんですか?」「えぇ、バレてましたか。以前は本を読むが好きだったんですが、それに値段をつけて売るようになってからは何だか本に申し訳なくってね」 #twnovel




私には神様が見える。それは、本の神様だ。本屋の店員をしていると、私にお話を聞かせてくれる神様もいれば、もっと大切に扱ってくれれば早く出ていけたのに、と罵って買われていく神様もいる。そんな出会いと別れは辛いけれど、だからこそ私はこの仕事を続けられるのかもしれない。 #twnovel




見知らぬ町の本屋に行くのが僕の趣味だ。今日訪れた本屋には、何とも珍しい黒表紙の本があった。それは開くことが出来ず、中身を知る由はない。「これは何の本なんですか?」すると店主は言う。「それは人生だ。開いてみなきゃ中身は分からん。でも君には、分かるんじゃないかい?」 #twnovel




この部屋の中にいても頭には何も浮かばない。逆さまになってやれば新しい顔でも見せるのかとも思ったが、自分はこの部屋で寝起きしている訳で。詰まるところ、インドアというのは同じフィギュアを角度を変えて眺めて楽しんでいるのに過ぎないのだろう。このついのべも、また然りか。 #twnovel




ありふれた言葉も

良心を付け忘れた文章も

頑張ってツイートすれば

届くところには届くんだなんて

嘘だと思っていた自分が恥ずかしい

#twnovel #ありがとう




それにしても悪いことをしてしまった。昨日山に入ったら、目の前で子狐が倒れて苦しんでいたんだ。つい悪戯をしたくなって、薬だと言ってドロップをやると、子狐はそれを大事そうに抱えて、元気に跳ねていっちまいやがった。恐らくは母狐の病気か何かで薬が欲しかったんだろうさ。 #twnovel

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