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おにぎり屋ふくふく

おにぎり屋ふくふく|あったかい、おにぎり

作者: 絵宮 芳緒
掲載日:2026/03/28

その日、クロはいつものようにおにぎりの入ったカゴをくわえて歩いていました。


トコトコ、トコトコ。


町の通りを抜けて、角を曲がって――


ふと、足を止めます。


ベンチに、ひとりの女の子が座っていました。

うつむいて、じっとしています。


クロは少しだけ近づいて、

そっとのぞき込みました。


「にゃ」


女の子は、顔を上げます。

少しだけ赤い目をしていました。


「……ねこ」


クロは、持っていたおにぎりをそっと差し出します。


女の子は、びっくりした顔。


「いいの……?」 


クロは、こくんと小さくうなずくみたいにしっぽを揺らしました。


女の子は、おにぎりを受け取ります。

まだ、ほんのりあたたかい。


「……あったかい」

ひとくち、ぱくり。


「おいしい……」


その瞬間、女の子の顔が

ふわっとゆるみました。


ぽろり、と涙がひとつ。

でもそれは、さっきまでの涙とは少しちがうものでした。


「今日ね、学校で……」


ぽつり、ぽつりと話しはじめます。

クロは、となりに座りました。


何も言わずに、ただそばにいます。


女の子は、ゆっくりおにぎりを食べながら少しずつ笑顔を取り戻していきました。


「ありがとう、ねこさん」


食べ終わるころには、さっきよりずっとやさしい顔になっていました。


クロは、しっぽをふわりと揺らします。


トコトコ。


また歩き出しました。


ふくふくへ帰ると、ふくさんが言いました。


「おかえり、クロ」


クロは、空っぽになったカゴを見せます。


ふくさんは、にっこり。


「ちゃんと届いたみたいだねぇ」


ミケが言いました。


「どうだった?」


クロは、少しだけ目を細めて――


「にゃ」

それだけでした。


でも、そのしっぽはいつもより、やさしく揺れていました。


その日もまた、ふくふくのおにぎりは誰かの心を、そっとあたためていました。

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