第8話 「姫様はシャープペンシルが欲しいそうです」
「本当に見ていて飽きないな、このコンビニとやらは!!」
お菓子コーナーの横にあった雑貨を見つめながら、ルートルインが笑顔を零す。
見ていたのは普通のシャープペンシル、だが、透き通った赤色のボディがちょっと高級そう。
「アレは筆記用具だろう?父上の筆よりカッコいいぞ」
「国王のよりも!?398円なのに!?」
「さんっ……、嘘だろう?」
シャーペンとしちゃ割と高めな398円だけあって、ボディの光沢が美しい。
先端やクリップのシルバーパーツも高級感があるし、大人が使っても映えるだろう。
……欲しいのか?
欲しいって顔に書いてあるなぁ。
「なぁ、イナト。その、これもダメか……?」
「欲しいか?」
「ほ、欲しいのだ!!まだお小遣いを貰っていないのは分かっている、けど、こんなに良い品、すぐに売り切れてしまうのだぞ!!」
幸か不幸か、残っているシャーペンは1本のみ。
これが最後の可能性も無くはないが、三日後ぐらいに大量に補充された時の顔を見てみたい。
「よし、買うか」
「いいのか!?」
「筆記用具はあって困らないし。あとノートと替え芯もだな」
近くにあった大学ノートを一冊と、えーと、芯の太さは0.5か。
総額800円でお姫様のにっこにこな笑顔が手に入るとは、良い買い物をしたぜ。
「先に聞いておきたいんだが、異世界の食事ってどんな感じだ?」
ご機嫌MAXなお姫様の手を引きながら、弁当コーナーに移動。
飯の美味さ=異世界の価値って所があるし、ここは絶対に失敗したくない。
「私は王女だからな、厨房で調理された料理をメイドが運んでくれるぞ!」
「毎食それかよ、上流階級め。ちなみに城下町に住む平民は?」
「家庭料理が基本だが、手間がかかるパンや煮込み料理などは専門店で購入もするぞ」
とりあえず、異世界にパンはあるらしい。
クッキーがあるならと思ったが、どうやら小麦粉が主食っぽい。
じゃ、今は菓子パンを買うのが無難か?
……が、俺は『夜は米派』なんだよなぁ。
「食いたいもんのリクエストはあるか?ここならパンも米もあるぞ」
「スープもあるのか。本当になんでもあるな!」
「……なんでスープ?いや、あるけどさ」
「何でも何も、お米と言ったらポタージュではないか」
米のポタージュか。
流石は姫様、洒落た食事を摂っていらっしゃる。
……って、話じゃないっぽいな?
このきょとーん。とした表情は、米の料理はポタージュ一択って顔だ。
「知っている言葉は理解できるって言ってたよな?米って分かるか?」
「分かるぞ。白いスープは見た目が良いからな、お茶会で出す回数も多い」
「じゃあ、ご飯は?」
「ゴハン……?なんなのだそれは?」
「じゃあ、炊く」
「ったく?それは料理長の口癖だが?」
姫様に悪態をついて良いのかよ、料理長。
じゃなくって、もしかして、異世界には米を炊く文化が無い?
「ポタージュ以外の調理法を教えてくれ」
「粒を残せばリゾットになる。が、食感がイマイチだぞ、殻が口の中に残るのだ」
殻だと?
ってことは、玄米を精米するどころか、籾殻のままリゾットにしてる?
収穫されたばかりの米は三層構造になっている。
一番外の籾殻。茶色くて硬い皮、可食部ではない。
真ん中の玄米。茶色くて薄い皮、工夫次第で食べられる。
最後に残る白米。おいしい。
基本的に籾殻は捨てるのがセオリー、飢饉で仕方なくそのまま調理することも昔はあったようだが、現代日本で食ったら馬鹿だと思われる。
「よし、今日は米尽くしにするぞ」
「米?まぁ、嫌いではないが……」
その表情的に、コーンポタージュ的なものを想像しているな?
せっかくの異世界での食事なのに、知っている物は微妙って顔に書いてある。
よぉし、度肝を抜いてやるぜ。
「こっちの世界では米が主食でな。色んな食べ方があるんだよ」
「そうなのか、どんな感じなのだ?」
「ほれ。これが日本の国民食『おにぎり』だ」
「……なんなのだこれは。丸くて可愛いお米だと!?」
おにぎり棚の下段にあった、ミニランチセットを見せて反応を伺う。
俵おむすびが二つと、唐揚げとタコウィンナー、卵焼きも入ってるな。
いかにも子供受けしそうだが、あ、クリティカルヒット。
「これがご飯ってやつか!?初めて見たのだ!!」
「米を炊くとふっくらするんだ。もちろん美味いぞ」
「うむぅ、確かに美味しそうではある、あるが……、他にもいっぱいあるな?」
そう言いながら、おにぎり棚を見上げるルートルイン。
おーい、口が開きっぱなしだぞー。
「黒いのとカラフルなのと色々あるな。その黄色いのはたまごか?茶色いのは……」
「上の方が見づらいか?嫌じゃないなら持ち上げてやるぞ」
「頼むのだ!!」
ルートルインの身長は120cm前後。
一番上の段をよく見ようと、背伸びして棚に手を掛けそうになったので慌てて止める。
意外とこういう棚って脆いからな。
そんなことを考えながらしゃがむと、ルートルインが首に手を回して来た。
王女様をお姫様抱っこか。
頼む、誰も通報しないでくれ。
「商品をむやみに触るなよ。買う奴だけ手に取るのがマナーだぞ」
「心得たのだ!!」




