第5話 「姫様は魔法を使えるようです」
「ちなみに私は、帝国人気投票で2年連続1位を獲得している。当然、流行には詳しい訳だが……、この世界はなんなのだ!?」
「うわぁ、なんか某アイドル総選挙みたいなことを言い出した」
「手触りの良い布!精巧に作られた彫像!おいしい食事!どれも非常にワクワクする!!」
「なるほどな。トンデモナイ幸運でたどり着いた夢の世界なら、浮かれるのも分かる」
「だろう!?」
「それはそれとして。おいしい食事ってのはどういう事だ。んー?」
あ、はしゃぎまくってた王女様が固まった。
明らかに目が泳いでるし……、こいつ、やりやがったな?
「さっき、『消えた物は私の身体になった』とか言ってたか。どうやら、俺とお前の認識にズレがあったようだな?」
「あ、と……。釈明のチャンスが欲しいのだ」
「ほう。言ってみろ」
「生成されるのは私の身体と触れていた物質。ようするに、衣服付きで転生する訳だが……、すごくお腹が空いている状態なのだ」
「身体は作られるけど、胃の中身は対象外か」
「そうなのだ!健康な体だから活動は出来る。でも、お腹はどんどん減っていく。だって健康だから!!」
「理屈は分かった。だが、どうやって食いもんを探し当てた?ぶっちゃけ、見慣れないパッケージばかりだろ」
こう言っちゃあれだが、俺の部屋には食材が無い。
男の一人暮らしなんてコンビニ弁当が基本。
気まぐれに贅沢したくなった時にスーパーで惣菜を買えば十分だ。
そんな訳で、俺の部屋にあった食品は日持ちする保存食のみ。
缶ジュースにレトルト食品、カップラーメン……、機械文化が遅れている異世界に似たような物があるとは思えない。
「私が転生してから10時間ほど経っている。その間に、ちょっと……」
「部屋の中を物色したと?」
「その、すごく美味しかったぞ。それで……、夢中になってしまって食べ過ぎて、後から高級品なのでは?と怖くなったのだ」
そう言いながら、ベッドの下から食品の残骸を取り出す姫様。
ビニール袋の中に入っているのは、スポーツドリンクのペットボトルが3本と、バランス栄養クッキーの袋が5つ。あと、ゼリーが2つか。
「結構食ったな」
「だって美味しかったのだ!!」
「あー、まぁ、勝手に食ったことは不問にする。大したもんじゃないし」
「大したことが無い、だと?お茶会で布教するクッキーよりも美味かったこれが!?」
「それより気になるんだが、文字が読めるのはなんでだ?」
透明なケースに入っているゼリーはともかく、ペットボトルジュースとバランス栄養食を食品と判断できるわけがない。
手触りはどっちも硬いし、匂いもしない。
運よくバランス栄養食の袋を開けたとしても……、中身はチョコ風味だ。
見ず知らずの異世界で発見した、謎の袋に包まれた茶色い固形物を口に入れるとか、正気の沙汰ではない。
「個別魔法による変換には文字も含まれる。そういう概念的な要素に作用するものもあるのだ。当然レアだがな」
「理屈は置いといて……、文字を脳内で変換しているから、読めるし、話せると?」
「変換できない言葉もある。例えば、このクッキーの原材料に書かれている砂糖や小麦粉、カカオやココアは分かる。これらは私の世界にもあるのだろう」
「言葉を置き換えている……、翻訳の方が近いのか?」
「その認識で良いはずだ。全粉乳とか乳化剤とかさっぱり分からん。乳が関係している事は分かるがな」
アメリカで、寿司や天ぷらが『susi』『tenpura』として定着したように、存在しない言葉は翻訳できないと。
これ、かなり重要な要素だぞ。
もしも料理を再現する場合、向こうの世界に食材が存在するかどうか判断できる。




