第16話 「姫様たちは感動と混乱を抱くようです」
「それでは、リリカル姫様の料理をご提供させていただきます」
「よろしくお願いしますぅ」
興味津々な3人の姫と、怪しげな雰囲気を感じ取るルートルイン。
彼女は気が付いてしまったのだ。
ディベート2の料理を、ファナティシアは一度も『おにぎり』と呼んでいないことに。
「失礼いたします。こちらは『グヤーシュライス』でございます」
「うわぁーー!美味しそうですぅ!!」
『グヤーシュ』
それは、牛肉やラードと共に、玉ねぎやパプリカなどを煮込む料理。
水分量を調整することでスープのようにもシチューのようにもなる、この世界で最も親しまれている伝統的なメニューだ。
だが、リリカルの前に置かれた皿は、グヤーシュの常識から逸脱したものだった。
小さめのスープ皿の上に乗っているのは、白い孤島と茶色の海。
立ち上る香ばしい濃霧の下、海から突き出す、牛肉・ジャガイモ・ニンジン・玉ねぎの岩礁。
そして、白銀米の砂浜と、彩り豊かな青のりが散りばめられた高原。
これは、この世界に初めて誕生した――、『一品料理』。
「グヤーシュとご飯が一緒に乗ってますぅ!!すごいですぅ、綺麗ですぅ!!」
「な、なんということ……。この料理はご飯とグヤーシュを同時に食べる前提。これなら、おにぎりから溢れない水分量という制約もない。本当にすごい」
満開の笑顔のリリカルは皿の美しさに見惚れ、ライラに至っては意図的なボケを挟み込む余裕すらない、本気の感動。
二人ともがグヤーシュライスに熱い視線を向ける中、横に座っている二人の姫が訝しげな声を上げる。
「ねぇ、ルートルイン?」
「な、なにかの?」
「にぎってなくない?」
「……。」
『握ってあれば『おにぎり』なのだから、多少の誤差には目をつぶるのだ!!』
それは30秒前に発せられた、他ならぬルートルインの言葉。
グヤーシュライスは、15cm程の小さいスープ皿の3分の1に、ご飯が俵状に盛り付けられている。
提供量制限の観点から、グヤーシュと合わせておにぎり一つ分程度の量になるように取り分けられ、丸くなるようにヘラで成形もされている。
だが、決して握ってはいない。
「握ってないなら、『おにぎり』にならないと思うんだけど?」
「い、いや、握っているんじゃないか?ほら、よく見ると丸くなっているしな!」
「これも多少の誤差ってことにした方が良いかしら?」
「う、うむ、そうしてくれ」
なんとも苦しい言い訳であるというのは、ルートルインにも分かっている。
自分自身ですら、握ってなくない?と思っているのだから当然だ。
だが、認める訳にはいかない。
ランダム性のある提供を演出したと言えど、味見すらしてない未知の料理であることがバレればタダでは済まない。
だからこそ、ルートルインは配信用の笑顔の裏で「おにぎりなんだから握らないとダメに決まってるだろ、キザラのバカーーッッ!!」と叫ぶしかできない。
「リリカル様、補足の説明をしてもよろしいでしょうか」
「あ、はい、お願いしますぅ」
「こちらは様々な種類があるグヤーシュの中でも、とろみを持つビーフシチューのような味わいの料理です」
「色んな具材が入っていて……、あっ、ニンジンが星型になってますぅ!?」
「煮込みに適した部位のお肉は、噛むまでもなくトロトロ。逆に、野菜は食感を残す火入れです」
「よく見たらジャガイモはハート型ですぅ!」
「そして、10種以上のスパイスが溶け出したスープと、爽やかな青のりご飯。こちらをお好みに合わせて匙に乗せて頂くことで、グヤーシュライスは完成いたします」
口に含むご飯の量で味の濃さを調整できるといえど、具材が内部に入っているおにぎりでは限界がある。
だが、このグヤーシュライスは違う。
勧められたように一緒に食すことも、グヤーシュや白米のみを味わうことも可能。
濃さの調整も、口に含む量も自由自在。
食す人間の好みによって変幻自在の姿を見せる、まさに無限の可能性を秘めた一皿だ。
「それと、こちらの味付けはスパイスをふんだんに使っており、非常に濃いものとなっております。それゆえに、シェフおすすめの冷茶もご提供させていただきますね」
「これは煎り麦のお茶……?夏の執務の定番ですぅ」
そうこうしている内に、グヤーシュから立ち上る魅惑の香りが部屋に充満。
興味津々なライラ、おにぎりって呼んでいいの?と悩むレイミス、誤魔化す方法を考えていたルートルイン。
そんな三人の姫の意識を塗りつぶす濃厚スパイスの刺激を前に、我慢できなくなったリリカルが銀の匙を差し入れる。
「それではいただきますぅーー。はむっ!!」
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