第12話 「姫様たちは欲望に忠実なようです」
「あ、はい。じゃあウチはアスパラペッパーベーコンがいいですぅ……?」
リリカル、空気を読む。
配信歴3年目に差し掛かっている彼女は、出演者同士の仲違いが大失態だと知っている。
それは、第一希望の『オーロラエビマヨ』をライラに譲ってでも手に入れたい平穏だ。
「えっと、うん、そうね。じゃあわたくしは……」
ここまではレイミスの想定通り。
若干揺らいだような気もしたが、結果的にはセーフ寄り。
だからこそ、レイミスはルートルインとアイコンタクトを取り、言葉なくして頷き合う。
分かってるわね?
もちろんなのだ!
そんな暗黙のやり取りをしつつ、レイミスは実質的な二択を思考する。
残っているのは、『豚の生姜焼きおにぎり』か『銀シャケバターソース』ね。
どっちも美味しそうだったけど……、今の気分ならお魚ね!
何を隠そう、わたくしは魚介類が大好き!!
別にお肉や野菜が嫌いって訳じゃないわ。
だけど、魚介類って、個体値が大きいって言うか……、食べる度に味わいが違うのよね。
それが面白くって、とんでもなく美味しいものを食べた時の幸せが凄くってー。
ということで、私は、エビ→シャケ。
ルートルインは、お肉→お肉になっちゃうけど、主催者なら全部の料理を味見してるだろうし大丈夫よね!
ここは素直に好みのシャケを頂くことにするわよ!!
「銀シャケバターソースおにぎりを頂くわ」
「……。ほう?」
僅かな溜めの後に出る、相槌。
思慮深いルートルインが考え事をする時の癖であるそれに、レイミスは僅かに違和感を感じる。
「これでそれぞれ1ポイントね。勝負の結果は貴女に委ねられたわよ、ルートルイン」
もはや勝負として成立していない、エンタメ重視の配信業。
これでいいのか?と問われれば、これでいいのだと視聴者が肯定する。
現時点での投票総数、3900万ポイント。
レイミス 1500万。
ルートルイン 1400万。
ライラ 700万。
リリカル 300万。
一気に票差を詰めるルートルイン、国民のほとんどが注目する中、彼女は勢いよく宣言する。
「オーロラエビマヨおにぎり!!私がリクエストするのはレイミスのエビマヨなのだ!!」
「んなっ……」
ちょっと待ちなさいよ!?
ここは生姜焼きを選んで、『全部美味しい』にする所でしょうが!!
おにぎりの布教もそうだし、選ばれなかったライラが可哀そうじゃないの!!
と内心でツッコミを入れるレイミス。
だが問題にはならない、これは彼女のモノローグだからだ。
「むぅ?僕のおにぎりの魅力が伝わっていない。無念」
「生姜焼きが悪いわけではない。勝ちたかったのなら、真面目にディベートするべきだったな、ライラ」
「てへぺろ。あ、唇すら美味しい。ぺろぺろ」
「食後の唇まで味が染みてるだと……、くっ、だが私は意見を変えない。なぜなら、エビマヨを食べたいからだ!!」
なんなのその熱量!?
全部の味を知ってるでしょうアンタがそれを言っちゃうと、エビマヨが抜きん出て美味しく見えちゃうじゃないの!!
ついにアンタとか言い出したレイミス。
だが問題にはならない。これは彼女のモノローグだからだ。
「あのーー?」
「どうしたのだ、リリカル」
「そのぅ、やっぱりウチもオーロラエビマヨがいいなぁって」
「そうか!じゃあこれで3ポイント、一回目のディベートはレイミスの圧勝だな!!」
あぁもう、ぐっだぐだ!!
なんなのよこれは!?
というか、アンタも意見を変えてるんじゃないわよ、リリカル!!
あ、でも待って。
もしかしてこれ、ライラの一人負けにさせないための措置……、じゃなさそうねっ!?
ちょっと恥ずかしそうだもの!!
食欲に負けた顔してるもの!?
心の中で叫び散らしているレイミス。
だが問題にはならない。これは誰にも聞こえない彼女の魂の叫びだからだ。
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