第8話 「ライラ姫はおにぎりで世界を救うようです」
「豚の生姜焼きの食レポ……、の前に『ご飯とお米』について語りたい。いいよね?ルートルイン」
「よかろう。二つも食べたのだから、それくらいするべきなのだーー!!」
よし、ルルなら乗って来ると思ってた。
せっかくの食レポだし、ご飯の説明を補っておく。
「ルートルインやレイミスも言っていた旨味。その正体は、ご飯にはブドウ糖というものがいっぱい含まれているから」
「ブドウ糖……?お米なのにブドウなのか?」
「葡萄を研究して見つけたからそう呼ばれてる。ともかく、これは脳の栄養源。つまり、『おいしさ』そのもの」
「なんと!?」
「人は先天的にお米を美味しく感じる動物ということ」
リージョン法国は、変換魔法を駆使した医学を『聖法』として扱い、その術を記した本を『聖典』とすることで興った国。
健康で長生する人は強いという理屈で、戦争で勝ち残った。
だからこそ、食と学は最優先事項。
最近はファッションにうつつを抜かし、娯楽に溺れ、安易なお金儲けに走っているけど、食の研究を疎かにしている訳ではない。
ということで、著名な医者の栄養学書では、お米は万能薬の一つとして挙げられている。
米のスープは老若男女誰が食べても良く、そして、心身を作る材料になると。
だからこそ、リージョン法国では、お米は食材よりも薬として扱われている。
「お米を殻つきのまま煮る薬膳料理、これには独特の香ばしさと苦みがある。嫌いな人も多いはず」
しなくちゃいけないのは、お米のイメージアップ。
『食べて美味しい、続けて健康。色んな意味で二度おいしい』
をスローガンに設定。
「あ、それ、風邪を引いた時に食べたわ。軟らかく煮こんでいても、殻が喉に引っかかるのよね」
当然のことながら、レイミスは姫で大切に育てられている。
そんな彼女に提供する料理でさえ殻が引っかかるのだから、国民が食べる時はもっと酷いはず。
どうやら、炊飯はちょっと手間がかかる。
けれど、そんな些細なことは、メリットの前では無いに等しい。
「特殊な調理法『炊飯』は、この問題点を完璧にクリアしている。要するに、お米の利点だけを残し、デメリットを消し去った形。つまり最強の主食」
「最強の主食ですか……、えぇっと、それはパンよりも?」
リリカル的には、聞き捨てならない言葉。
近年、貿易で負け込んでいるアルアグレン軍国にとって、小麦の価値変動は亡国の危機に直結している。
70年以上前の戦乱時代では、アルアグレン軍国は『最も強い国』と謳われていた。
食料自給率が下がる戦時では、輸出力が高い国こそが覇国と呼ばれるからだ。
そして、平和な現在は、どの国も小麦を自給生産。
一方、儲からないアルアグレン軍国は生産量を減らし続け――、やがては来てしまう小麦の大不作に耐えられなくなる。
「うぅー、確かにご飯は美味しいですが……」
「パンにはパンの、ご飯にはご飯の優位性がある。取捨選択できる状況こそが最強の主食」
「それは、どちらも作れば良いということでしょうか?」
「そう。そして、お米の生産において、アルアグレン軍国が最も適性が高いはず」
ロイヤルディッシュを法王は見ている。
こういう風に言っておけば、アルアグレン王と取引を結ぶ。
最近はやりすぎたと反省していたし、あちらに利が大きい形でまとめるはず。
ロイヤルディッシュは文化の発信源、つまり、ここで発表する前に水面下で経済は動き出している。
今回の例で言えば、レイミスは『イチゴ』の調理法を持ち込んだ。
だからこそ、トップメシア王国はイチゴの高騰前に貿易計画を作り、最終的には情報不足で負けたアルアグレン軍国の作物が安く買い叩かれる結果になる。
「結論、お米はおいしい。色んな意味で」
そう、おいしい。
……いや、おいし過ぎる。
国家間の貿易量を監視している法王でさえ、米の売買増加を認知できていない。
さらに、ルートルインが言っていた。「今日のお茶会に無理やりねじ込んでしまった」
その言葉がそのままの意味なら……、ギオンコロニ王の対応が間に合っていない可能性がある。
「はいはい、分かったから、難しい話じゃなくて味の食レポをしなさい!」
「ん、了解」
脱線した話を軌道修正してくれるレイミス、マジ心強い。
流石は無自覚でアルアグレン軍国を潰しに掛かってる女、切れ味が違う。
「もちろん、ご飯は食べても美味しい。今からそれを説明する」
「うむ!頼むぞ!!」
「……はふっ、はふはふほふっ、はむっ。んっ……、ぺろ。はふぅ~~」
「よくできた擬音とものまねと顔芸ね。でもそれは説明って言わないのよ、ライラ」
何を言う。
これは数百年前から行われている伝統的な話芸手法。
僕のポイントが爆増したのが何よりの証拠。いぇい。
「口に入れると幸せになれる不思議な食べ物、ご飯」
「いかがわしく聞こえる表現はともかく、味については同意なのだ!!」
「そして、この豚肉の生姜焼きおにぎりこそ、理論上、最もご飯を美味しく食べる方法のはず」
「やっと本題に入ったわね。長かったわ」
「このおにぎりに使われている特製ジンジャーソースは、薬味、スパイス、そして果実をたっぷり使った甘めの味付け。何度も何度も煮出しと継ぎ足しを繰り返した、糸を引くくらいの超特濃」
「えっ、糸を……!?そ、それは凄そうですぅ」
「当然、お肉と玉ねぎを染めるだけに留まらない。ご飯の内部にまで浸透し、いつ、どこで、誰が、どの部分を食べても、『豚の生姜焼きおにぎり』だと認識させる。なお、僕はこの味を忘れることは無い。今の所、週3~5で食べ……、思い出す予定」
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