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第5話 「レイミス姫はマヨ沼で溺れるようです」

 

「初めに言っておくわね。……このエビマヨおにぎりは、サラダなんかじゃないわ!!」



 おにぎりを唇に近づけた瞬間に確信した、爽やかなレモンとオレンジピールの香り。

 白いご飯の頂点から見える、赤いエビ、緑の春菊と大葉……、鮮やかな配色もサラダに求められる要素の一つね。


 海老のガーリックマリネかしら?

 私が出した答え、『さっぱり系の味』という想像は、実際、口に入れた瞬間までは正解だったわ。



「そうなのか?柑橘の爽やかな香りがするのに?」

「えぇ、レモンにオレンジピール、ハーブまで混ぜてる念の入れようね」


「なのにサラダじゃないと?」

「全っ然っっ、違うわよ!!甘くて、酸っぱくて……、エビに野菜に果実に、色んな味の油が私の舌に絡みつくの!!溺れるの!!」



 何なのその、想定外みたいな顔は?

 よだれまで垂らしてとぼけたって無駄よ、ルートルイン。

 これ以上、あなたの罠には嵌ってあげないんだから!!



「ご飯……、温かいお米の湯気に乗って、爽やかな香りが口の中に広がる。そういった意味ではサラダと言えなくもないわ」

「どっちなのだ?」


「どっちも、よ。このエビマヨおにぎりは、サラダ→メインディッシュ→デザートの連続コンボなんだから!!」

「なん……だと……?」



 なんだと……?って言いたいのはこっちなんだけど。

 このオーロラエビマヨおにぎり一つでコース料理が完成しているなんて、食べた後でも信じられないわ。



「爽やかな香りでリセットされた口の中でご飯がほろほろと崩れていく。じわり、と甘みが溶け出した瞬間、奴が現れたわ」

「奴……、まさか!!」


「エビも、野菜も、お米も美味しいけれど、メインにするにはインパクトが足りない食材よね。だけど違うの!!全部、このオーロラマヨが解決してるの!!信じられないくらい濃厚なの!!色んな味がして幸せなの!!」



 目を閉じて体感する、口の中に残るマヨの抗いがたき余韻。

 溶けだす幸せご飯+酸味の利いた・マヨ。

 弾ける香ばしさエビ+コクのある塩味・マヨ。

 苦みと甘みの野菜+ジューシーな果汁・マヨ。



「レイミス、なんでそんな味がするの?詳しい解説、はやく」

「そのぅ、マヨがなんなのか、気になりますぅ」



 ここで、自分のおにぎりに夢中だったライラとリリカルから合いの手が飛んできた。

 冷静沈着な大国の令嬢を意識していたわたくしを一撃で破壊した超兵器、『オーロラエビマヨおにぎり』に興味津々な顔で。



「マヨ。そうよ、このマヨがいけないのよ。何らかの法に触れていてもおかしくないわね!」

「犯罪的美味しさ? うける」

「そ、そのようなものがロイヤルディッシュに……?」


「例え話よ。でもね、甘いのとしょっぱいの。酸っぱいのと苦いの。とろけるのと香ばしいの。色んな味覚要素が全部入ってるなんて、法律で規制されてもおかしくないわ。だって、美味し過ぎるもの!!」



 ごくり。と一同の喉が鳴ったわ。

 その中でもひと際大きい音を出したのは、マヨの美味さを知っているルートルインとファナティシアさんね。

 そして、二人の視線に後押しされたわたくしが、マヨの凄さを語り出す。



「マリネやカルパッチョだって油を使うわ。でも、あれは植物性のさらさらした油でしょ」

「エキストラバージンオリーブ。若い果実の初物は特別、一回きり」


「こんなに濃厚でコクがある植物油なんてありえない、だけど、獣脂みたいなギトギト感もない!!食感はラードみたいなのに、全然しつこくないのよ!!」



 ライラの「若い果実の~~」はよく分からないけど……、サラダに獣脂を使うなんてありえない。

 実際、この油は植物性。

 わたくしの個別魔法『思念摂取サイコメトリー』で見えたマヨを作る光景では、オリーブオイルに酢と調味料、そして……、卵が使われていた。



「驚くべきことに……、マヨの主な三つの材料、その二つはお酢と油なのよ」

「想像できない。詳細希望」

「お酢と油ですか?そのぅ、液体をおにぎりで包めるとは思えませんが……?」


「だから驚いてるのよ。油とお酢が混ざらないのは、子供でも知ってる常識。だけど、マヨは粒のご飯で包んでも零れないクリーム状。この時点で革命が起こってるわ」

「そういうこと。革命とは既存の法律を無視する行い。確かに、その時点では犯罪」

「ですが、民衆に受け入れられれば、これからのスタンダードになる。マヨにはその力があるというのですね?」



 受け入れられるでしょうね。

 油と酢と卵を混ぜれば良いだけなんだから。

 だけど、国王陛下おとうさまがマヨの製法をギオンコロニ王から購入するまでは、迂闊な情報発信は厳禁。

 わたくしの個別魔法がバレるかもしれないし、そもそも、マヨを見つけたルートルインが損をしちゃうもの。


 だからこそ、要である卵の存在は隠さないといけないわ。

 わたくしの料理人には伝えて研究させるけど、国王陛下おとうさまが国民に向けて発信するまでは、個人的に楽しむ程度にしなくちゃ!



「ぷりっぷりのエビ、歯ごたえの良い野菜、ごはんの甘味、それが口の中に残り続けるの。だからこそ、噛むごとに旨味が増していくわ。バラバラだった味が、ちょっとずつちょっとずつ、溶け合っていくの」

「おいしそうすぎる、ずるい。」

「えぇっと、でも、油ですよね?そのぅ、くどかったりとかは……?」


「無いわね!ケチャップが良いアクセントになっているわ。お酢、トマト、柑橘、系統が違う酸味のおかげで、驚くほど後味がすっきりしているのよ。まるで果実シャーベットを食べた後みたいにね!!」

「ますますおいしそう。もはや僧侶が率先して略奪にいくレベル」

「興味深いですぅ、エビと相性が良いのなら、他の海産物にも合いそうですし」


「悔しいけれど、こんな完成された料理は初めて食べたわ。オーロラエビマヨおにぎり、間違いなく料理界の革命よ!!」



 ふふふ、三人ともマヨに興味津々みたいね。

 それにしても、ルートルインの演技が凄いわね。

 今日出てくることは知らなくても、試食はしているでしょうに……、そろそろ口を閉じないと、あなたのよだれが全国放送されるわよ。気を付けなさい。



「それにね、マヨにはまだまだ隠された秘密があるのだけれど……、知りたいのなら食べるしかないわね。お望みならばリクエストすればよろしいのではなくて?」

「全世界の皆さん。マヨを人質に取るレイミスはまさしく悪役令嬢。覚えておいた方がいい」

「余興ですら手を抜かない強かさ、ウチも見習いたいですぅ」


「ここぞとばかりにディスらないでくださる?」



 あらあらあら、この程度の挑発で悔しがるなんて、お可愛らしいこと。

 でもね、卵が食材を繋ぎ合わせる真の主役であるなんて、食べなければ絶対に分からないわ。


 卵は言うまでもなく動物性、だからこそ、グレービーソースのような深いコクを持っている。

 半熟卵をソースみたいに絡めて食べる料理はあるけれど、卵をソースの材料にするという発想はこれまでに無かった。

 どのくらいの価値を国王陛下おとうさま達が付けるかは分からないけれど……、3億エドロを下回ることはないでしょうね。



「くすくすくす。ライラ、リリカル、このわたくしにエビマヨおにぎりを差し出してしまうなんて、今日のあなた達はツキが無かったわね」

「ぐぅ、の音しか出ない。僕のお腹は臨戦態勢。戦争不可避」

「でもでもー、堅実な判断こそが、戦いに勝つ定石だと思ったんですぅ」

「まったく遺憾だぞ。私からエビマヨを奪った罪は重い。三か国連合軍でとっちめてやるのだ!!」


「ちょっと待ちなさい、ルートルイン。あなたは知ってる(こっち)側でしょうが!!」



 なんなのその、恨めしそうな眼差しは!?

 マヨはあなたが持ち込んだのよ、いっぱい味見してるでしょ!!



レイミスちゃん、ツンデレ可愛い!!と思った方は、ブックマーク・評価を是非ともよろしくお願いします!!

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