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第2話 「姫様たちはおにぎりを見定めるようです」


「それでどうだ。とても吃驚したであろう!?」

「確かにとーっても吃驚したわ。ほくほくのお米がこんなに甘くて美味しいなんてね」


「うむ、御飯の甘さも香りも特別なのだ!!」

「だけれど……、料理と呼ぶには素朴過ぎないかしら?」



 引いた顎を扇で隠し、僅かに眉を顰める。

 そんな悪役令嬢っぽい表情で小言を零すレイミス、だがこれは、彼女なりの援護射撃だ。


 レイミスには、米料理の進化先が見えている。

 もっちもちと面白い食感、鼻腔を抜ける香り、そして豊かな甘みを塩の風味が引き立てる。

 そう、ただの塩ですら、美食を知り尽くす4人の姫を陥落させる威力なのだ。

 だからこそ、御飯が料理と組み合わさった時に発生する破壊的なエネルギーを思い浮かべずにはいられない。



「ふっふっふ、本命はここからなのだ。今日は塩おにぎりの他に8種類も用意しているのだぞ!!」

「食べたいものを選ぶビュッフェ形式かしら?それとも全て出すコース料理?」



 ロイヤルディッシュに在籍する姫が挑む、最大にして最強の試練。

 それは、次々に提供される食事・お茶・菓子を美味しく食べ続けなければならない事だ。


 提供される品は、各国の威信が掛かった一級品の美食。

 だが、無理のある食事配分で提供してしまえば、相手の姫に苦痛を強いるばかりか、せっかくの料理が『残してしまう程度の味』となってしまう。

 故に、味・安全性・提供量は同等の重要性とされている。



「うむ、問題解決も踏まえ、ちょっとした余興をしたいと思っているのだ」

「……なによそれ?」



 視線で「8種類も提供するのは止めておきなさい」とメッセージを送るレイミス。

 そんなに発展性があるのなら、二週間後のディナーで出せば良いじゃないと思っているのだ。


 だが、ルートルインはおにぎりの提供を今回限りにするつもりだ。

 理由は単純明快、『コンビニは凄い。ロイヤルディッシュに出せそうなものが無数にある』と知っているからだ。



「題して『おにぎりディベートバトル!』 それぞれが食したおにぎりを食レポして一番美味そうだと思わせた人が勝ちの、仁義しかない戦いなのだ!!」



 なんか変なこと言い出したわね、この子。という三人の視線。

 基本的に賢いルートルインだが、このように素っ頓狂なことを言ってレイミスを困らせる事がある。



「――つまり、みんなで違うおにぎりを食べて、感想を言い合おうってことね?」

「ん、理解した。でも、ルートルインは『仁義』という言葉を使った。仁義とは『人として正しい行い』。おにぎりの食レポは人として当然の通すべき筋道ということ?」

「うむ、ライラの言うとおりだ。おにぎりを食べたら食レポしなければならない。絶対必須のマナーなのだぞ!!」

「そ、そうなんですかー?それは大変ですぅー」



 そんなトンデモ・マナー聞いたことないんだけど?と思う三人だが、それが利益に繋がることは理解している。

 流行を作る自分たちが「必須のマナー」と言えば、国民も真似をする可能性が高い。

 そうして、おにぎり食べ比べ文化が形成されれば、爆発的な流行が発生するのだ。



「まずは4種類の中から一つ選んで食べる。そして、順番に食レポをするのだ」

「それで?」


「全員の食レポが終わったら、食べたいおにぎりを指定して実食する!」

「多くの票が集まった人が勝ちって訳ね。分かりやすくていいじゃない」



 ディベート1は、おにぎりABCD。

 ディベート2は、おにぎりEFGH。


 それぞれのグループで食べるおにぎりは、食レポ用と投票後の2種類ずつ。

 十分に美味しく食べられる量、だが、勝負としては僅かな懸念点が存在する。



「でも、おにぎりを知っているルートルインが有利じゃない?あらかじめ考えておけるでしょうし」

「そう思うのは当然なのだ。故に、おにぎりの具は料理人に任せている。どんなものが出てくるか、私も知らないぞ!!」


「ちょ……、いや、事前監修があるでしょうし、変なものは出てこないでしょうけど……。じゃあこうしましょう。ライラとリリカルが先に選んで、わたくしとルートルインは残りから。さらに食レポの一番手も、わたくしが引き受けますわ」

「私はともかく、レイミスがとても不利ではないか」


「このくらいのハンデがあってちょうど良いわよ。わたくしは貴女達より1年以上も早く社交界デビューしていましてよ」



 壮年に差し掛かる貴婦人の集まりならば、1年の誤差など無いに等しい。

 だが、この場に居るのは社交界歴2年~4年の幼き姫達。

 経験時間で言えば倍近い差がある、それがレイミスが余裕を零す理由だ。



「それでは、4種のおにぎりの説明をさせて頂きます」



 ランチワゴンに添えられていたメニュー表を手に取ったファナティシアは、さりげなく硬直した。

 塩おにぎりしか知らない彼女にとって、書かれているメニューはただの文字列でしかない。

 だが、ロイヤルディッシュの間、一切の食事なしでルートルインの傍使いをする彼女には、美味しそうな料理の説明文がクリティカルヒットする。



「一品目、アスパラペッパーベーコン。サイコロ状に切った熟成べーコンとアスパラガスをブラックペッパーで炒めた具が入っています」

「ほう!アスパラは旬だからな、ペッパーの刺激とよく合うはずなのだ!!」


「二品目、銀シャケバターソース。脂の乗ったシャケの切り身と薫り高い茸を、バターと共にホイル焼きにしました。さぞかし濃厚な出汁になっているでしょう」

「バター焼きは定番だけれど……、おにぎりの甘さと相性が良さそうね」



 二品目にして、ファナティシアの想像感想が混じり始める。

 なお、メニューを紹介されている姫達の心境も同じだ。



「三品目、豚肉の生姜焼き。塩、しょうが、果実、香辛料をバランス良く配合したソースに豚肉を絡めて焼きました。あぁもう美味しいですね。はいはい」

「お肉こそ至高。間違いなし」


「四品目、これは……。オーロラエビ、マヨ!?」

「オーロラ海老の……、マヨ?とはなんでしょうか?」



 肉に狙いを定めたライラと、マヨが分からず首をかしげるリリカルとレイミス。

 そして、ルートルインがドヤ顔で語り出す。



「マヨは新しい調味料なのだ。甘くて、酸っぱくて、しょっぱくて、濃厚で、まろやかで、香りも良い。これも炊飯に負けない革命なのだぞ!!」

「……果実を加えたグレービーソースかしら?」


「全く違うぞ!!だが美味しいのは確実なのだ!!」



 ロイヤルディッシュでは、可能な限り、調理法に関する具体的な説明を秘匿する。

 そして、配信を見ながら会議をしている国王達によって、詳細な調理法の売買契約が結ばれる仕組みだ。



「追加説明をさせて頂きます。オーロラエビマヨは、マヨにケチャップを加えた朱色のソースを茹でた海老や野菜に絡めたものだそうです」

「ますます訳が分からないわね?」



 肉系のソースじゃないなら、コンソメ系?

 それにケチャップを混ぜるって……、ミネストローネ味と何が違うのよ!?


 レイミス、ライラ、リリカルが困惑する中、マヨを知っているルートルインだけがよだれ付きの笑みを零す。

 ぼそりと「美味そうなのだ……」と呟きつつ、おにぎりの選択を二人に迫った。



「ライラ、リリカル。どれが良いのだ?」

「豚肉の生姜焼き。間違いなし」

「えと……、じゃあ銀シャケバターソースがいいですぅ」



 よしっ!っと内心でガッツポーズを決めつつ、視線をレイミスへ。

 年長である彼女が優先権を辞退したと言えど、ルートルインはランチでおもてなしをする側だ。

 最低限のマナーとして、最後の選択権は譲渡する。



「そうねぇ……」



 ちらり。とルートルインの表情を観察し、レイミスは最も効果的な戦略を思案する。


 アスパラペッパーベーコンは、良くも悪くも無難な品ね。

 というか、食べなくても食レポできるわ。

 あぁ~~このベーコンとってもジューシーね~。お米によく合うわぁ~~。


 一方、オーロラエビマヨは分かんない。

 マジで全く分からない。

 マヨってなんなの??マヨってことなの???


 当然、食レポの難易度も跳ね上がる訳だけど……、逃げるなんて論外よ。

 私の見識の広さをご覧あそばせ!!



「オーロラエビマヨを頂きますわ!」

「あっ……」


「……何よ?ルートルイン」

「いや、大丈夫だ。オーロラエビマヨの食レポ、楽しみにしているぞ……」



 物凄く何か言いたげなルートルインと、地雷を踏んだ気分になったレイミス。

 二人が放つ絶妙な空気感を素知らぬ振りをして、ファナティシアがそれぞれの前におにぎりを配膳していく。

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