表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/43

第1話 「姫様たちはおにぎりでとろけるようです」


このお話より、ロイヤルディッシュ編がスタートです!!

なお、1話のみプロローグ(0話)に加筆する形式で執筆しています。



 

「本日のランチ提供はルートルインの番でしたわね?ふふっ、楽しみですわー」



 悪役令嬢ここにあり。

 そんな笑顔を向けられた少女、ルートルインも屈託のない笑みを返した。

 他国の姫が提供した午前のお茶『イレブンジィズティー』を終えた現在、ロイヤルディッシュの主役は彼女へと切り替わっている。


 絢爛豪華な室内の、高貴な調度品が光り輝く最高位貴賓茶室。

 見慣れた3人の顔ぶれが美しい笑みを零す中、ルートルインの瞳はいつもより燦然と輝いた。



「うむ、今日のは自信作なのだ!!きっと驚きすぎてビックリするぞ!!」



 礼には礼を。

 挑発には小馬鹿を。

 意図的に重複言葉を使って煽ったルートルインもまた、並ならぬ智謀を持つ。

 ここに居る4名の少女――、いや、幼女と言っても差し支えない12歳から14歳の彼女達は、それぞれの国を代表した姫達だ。


 ギオンコロニ帝国・第一王女

『ルートルイン・ファス・ギオンコロニ』


 金と銀が混じった様なプラチナブロンドの長い髪を結いあげた、ポニーテール。

 青を基調とする宝石が飾られた髪留めがトレードマークな、ロイヤルディッシュ開催国であるギオンコロニ帝国の代表者。


 ぱっちりした目に、自信がありげな眉、無邪気に微笑む口。

 そんな子供っぽい容姿は、事実、彼女が12歳であるから。

 だが、その瞳の奥には強かに状況を検分する深い智謀とワクワクが宿っている。



 トップメシア王国・第三王女 

『レイミス・スリア・トップメシア』


 ルビーのような深い色合いを持つ、赤いウェーブ髪。

 あえて髪に貴金属を付けない事実こそが、彼女の自信の表れだ。


 四大国家の中で最も経済を発展させているトップメシア王国で『蝶よ花よ』と育てられたレイミスは、『言葉=願いの成就』だと信じている。

 欲しいものや目的を口に出すことで、他者を、そして自分の意識すら書き換え、望む結果を掴み取って来たからだ。

 なお、現在14歳である彼女は、ロイヤルディッシュメンバーの中で最も年上。

 そんな彼女は『私が一番おねぇちゃんなんだから、しっかりしないとね!』という、余裕すら浮かべている。



 リージョン法国・第一王女  

『ライラ・ファス・リージョン』


 神に祈りを捧げる法王庁を持つリージョン法国を象徴するような、可愛らしさを合わせ持つ青いショートヘア。

 かつてのリージョン法国では、髪は男女ともに短く切り揃えるだけだった。

 だが、ライラを始めとする美意識への先駆者によって、四大国家の中で最も美容・衣料へかける情熱が高い国となっている。


 ……彼女のやる気とは反比例して。

 ライラは面倒臭がりな性格で、無駄を嫌う。

 おしゃれへの興味はそこそこ。

『国の代表だからマネキンになるのもしょうがない』と煌びやかな衣装に袖を通すが、彼女自身は食事の方を楽しみにしている。



 アルアグレン軍国・第二王女

『リリカル・セカ・アルアグレン』


 彼女の緩く巻いた緑色の髪は、四大国家の中で最も国土が広く、そして、その半分以上を森と海が占める豊かな国をイメージさせる。

 かつては潤沢な食糧自給によって争う必要が無かったアルアグレン、だが、それを狙う周辺国家との戦争が、この国を『軍国』と名乗らせるに至った。


 そして、リリカルは基本的に穏やかで、どちらかというと周りに合わせる協調タイプだ。

 なんなら、ルートルインとライラに振り回される『おっとり枠』。

 そんな彼女は、4500名を超えるアルアグレン上級貴族子女を実力でねじ伏せ頂点に立った過去を持つ。



「今日はとても元気いっぱいね。くす、料理に自信があるのかしら?」

「もちろんだ!!間違いなく、人生で一番いい目覚めだった!!」


「……? ですが、わたくしの午前のお茶(イレブンジィズティー)も工夫を凝らした至高の一品。貴女も美味しく召し上がっていらしたのではなくて?」

「実際、美味しかったし文句はないぞ!!だが、今日は私のランチの方が凄い。レイミスの連勝もここまでなのだ!!」



『ロイヤルディッシュ』

 それは、国の威信を賭けた文化を競わせ勝利する――、代理戦争。

 直接的な暴力ではなく、発展させた文化を叩きつけ合って精神的に殴り倒す、麗しき乙女たちの戦い。

 開催日時は週に一回、基本的に水曜日だ。


 午後10時から12時までの、イレブンジィズティー。

 午後12時から2時までの、ランチ。

 午後2時から5時までの、アフタヌーンティー。

 午後5時から8時までの、ディナー。

 ティータイム2回、食事2回をそれぞれの姫が順番で取り仕切り、用意した文化を発表する。


 ティータイムでは茶と菓子、そして、各国での文化流行等の話題を提供。

 2度の食事では、食事、茶、デザートなどの食文化に特化した話題を料理と共に配膳するのだ。


『文化とは、資産であり、剣であり、魔法でもある』

 過去の賢者の言葉の通り、四大国家は剣と魔法の時代から、文化交流という名の経済戦争時代へと移り変わった。

 そして、国の貿易価値を高めるロイヤルディッシュは、担当時間をローテーションすることで公平性を保ち、厳正な勝負として成立させている。


 その勝敗は――、このお茶会の配信映像を見ている国民の人気投票で決定されるのだ。



「あら、面白い事を言うじゃない。けれど……、国民の皆様はそう思っていらっしゃらないようだけれど?」



 レイミスは手元にあるミニモニターに映し出された数字を見やり、ふふっと余裕の笑みを浮かべる。

 その内容はいつもと同じ、彼女の優勢を示すもの。


 レイミスが提供したイレブンジィズティーは、『ストロベリーフレーバー・コレクション』と名付けられた、旬のイチゴがメインの紅茶・ケーキ・ジャムのセット。

 一品種のイチゴに様々な加工方法を施すことで、多彩な味わいを楽しむというコンセプトだ。

 そして、赤い宝石のようなイチゴに目を輝かせる姫達……、そんな光景を見た視聴者達は、本日のMVPはレイミスであると確信しながら、『推し活ポイント』を投票した。


 ロイヤルディッシュの熱を加速させる取り組みとして、『テンプレート』という名の魔道具が流通している。

 形状はいたってシンプル、0から9までの10個のボタンがあるカードタイプ。

 個人魔力をIDとして読み込んでおり、押したボタンの数値が配信中の映像管理局に送られ、リアルタイムで集計される単純な仕組みだ。


 ロイヤルディッシュでは、それぞれ

 ① ルートルイン

 ② レイミス

 ③ ライラ

 ④ リリカル

 が割り振られ、愛する姫に向けた推し活動こそが国民が熱狂する『生きる原動力』と化している。



「投票率3割で、レイミスの票が大半。うむ、いつもなら逃げ切られるだろうが、今回は全く心配していないぞ!」



 ロイヤルディッシュ配信での推し活の流れは以下の通りだ。

 配信開始前~オープニングまでに、それぞれの推し姫に投票して応援する。

 イレブンジィズティー、ランチ、アフタヌーンティー、ディナーの配信内容を見ながら投票及び変更を行う。


 また、ロイヤルディッシュ配信のルールとして、各端末で選択できる①~④の番号は一つのみとなっている。

 仮に、ルートルインの①を押している状態でレイミスの②を押した場合は①が解除され、集計結果がリアルタイムで増減する。



「ん、ルートルイン、今日は自信満々?」

「でもレイミスさんは固定ファンも多いですので……、うぅ、ウチも頑張りたいですぅ」



 こてっと首をかしげるライラと、控えめな決意表明をするリリカル。

 可愛らしい反応を見た視聴者により、彼女達のポイントが微増した。


 開始前投票では、テンプレートの全体流通数の2割程度のポイントが集まる。

 配信国の姫であるルートルインが一番人気、だが、レイミスの獲得票も開催ごとに増加している。

 最近では、ライラとリリカルを寄せ付けない2トップだ。


 そして、ディナーを終えたエンディング時の最終獲得ポイントにおいては、レイミスが逆転することも多い。

 直近の3回では全てレイミスが最多ポイント獲得であり、トップメシア王国の貿易立場が更に盤石となっている。

 最人気推し姫が笑顔で紹介した商品が爆売れ→高騰という流れこそが、各国の王の狙いだからだ。



「早くランチを自慢したくてうずうずしているぞ。……という事でファナティ、配膳を始めるのだ!!」

「かしこまりました。本日のメニューはこちらでございます」



 4人の姫は、それぞれ専属メイドを侍らせている。

 他国の姫が文化配信をしている時は1人、そして、自分が主役の時は給仕スタッフとして追加で4人。

 そんな国営放送に映れる究極の栄誉を手にするメイド達は、もれなく全員、精鋭中の精鋭である。



「あら?本当に見たことがない料理ですわね」

「ふっふっふ、そうであろう。この私も初めて食べた時はビックリし過ぎた。あまりの衝撃で今日のお茶会に無理やりねじ込んでしまった程にな!」



 ファナティシアのアイコンタクトによって取られた、ランチワゴンの銀の蓋(クローシュ)

 豪華な皿の上に現れたのは、白銀の三角立方体『塩おにぎり』。

 それが姫達の前に並んでいく中、それとなく扇で口元を隠したレイミスが小声で語り出す。



「ちょっ……、大丈夫なんでしょうね、それ。美味しくなくても、はっきり言うわよ」

「問題ない。絶対に美味しいから安心するのだぞ」



 一番の年長であるレイミスにとって、ルートルインはライバルであり妹分。

 勝負に本気で挑むのは当然、だが、他の姫達が大失敗した姿を晒すのを良しとするほど擦れていない。

 そんな大前提の上で向けた視線が捕らえたのは、ルートルインの満面のドヤ顔だ。



「どう美味しいのかしら。先に貴女の感想を聞かせてくださる?」

「もっとも強い印象は食感の良さ。パンより柔らかく、スープより硬い。口が幸せとはこの事を言うのだ!!」


「……?確かに、スープ以外の白い料理は珍しいけれど」



 姫達の視線の先にあるのは、見覚えのない粒々した料理。

 それが穀物であると見抜けたのは、ルートルインを除いて二人。

 その内の片方、レイミスは内心で思慮を深めた。


 お米よね、これ……?

 湯気が出てるし、精米後とは明らかに違うわね。

 汁気が無いから煮込んでいない、うーん、確かにドヤ顔したくなる珍しさかも。



「これはお米を”炊いた”おにぎりという食べ物なのだ!」

「へぇ……、炊いたというのは置いといて、握って三角形にしたからおにぎりな訳ね。それで?」


「私が紹介するのは、おにぎりに使われている、”炊く”という革新的な手法。つまり、新しい料理技術だ!!」



 この『新しい料理技術の開発』こそが、ランチ・ディナーの主力商品。

 今まで見向きもされなかった食材の調理法や複雑なレシピの簡略化。

 これらにより齎される食材価値変動によって、各国は莫大な利益を得るのである。



「今までの主食は小麦……、パン一強だった。芋やトウモロコシは強すぎる甘みのせいで料理の幅が狭くなってしまうからな」

「そうね。どうしてもスイーツ寄りになってしまうわ」


「だが、これからは米の時代だ!!炊いたお米『御飯』が大陸を席巻し、新たな料理が次々に開発される。夢のような時代が来るのだ!!」



 冷静に状況を見定めているレイミスが、この炊飯の価値に気付かない筈がない。

 さらには、ルートルインの狙いまでも完全に予測する。


 炊飯したお米を使って様々な料理を出すビュッフェ形式なら、気に入る味付けの一つもあるでしょう。

 ですが、逆に言えば気に入らない、不味い料理の確率も上がるということですわ。


 どんなに美味しい味付けがあったとしても、必ず、どの料理かが足を引っ張る。

 そんな最高点も最低点も出ない防御寄りのランチなんかで、わたくしのイレブンジィズティーが倒せまして?

 オホホホホ、本日のMVPも頂きましたわ!!


 そして、興奮しながら語る妹分を嗜めようとしたレイミスの動きが――、止まる。

 果たして、勢いを削ぐ言葉を掛けていいのだろうか?

 もしも、ルートルインの言っていることが本当になるとしたら……、そんな未来を想像し、逸る気持ちを自制するだけに留める。



「そこまで言うなら試させて貰おうじゃない。見た目も香りも良いしね!」

「んー、ほんわか甘い匂い。これ好きかも?」

「お米なのにスープじゃないなんて、すごく不思議な食べ物ですぅ」


「ちなみに味付けは塩だけなのだ」

「「「……は? 塩だけぇ!?」」」


「それでは堪能するがよい!私も垂涎する、おにぎりランチだ!!」



 味付けが塩のみの料理を出すなど、ロイヤルディッシュ始まって以来の大暴挙である。

 そして、驚愕で硬直する三人を横目に、ルートルインが優雅にナイフとフォークで塩おにぎりを切り分け、口に運ぶ。



「ん~~!!これこれ!!お米の味を楽しむなら……もぐ、シンプルな味付けが、もぐもぐ、いっちばん、な~のだ~~!!」

「「「……ごくり」」」



 屈託のない笑顔で塩おにぎりを味わうルートルインと、ごくりと唾を呑む一同。

 3人の姫はもちろん、ファナティシアを除いた全てのメイド達も彼女の笑みに釘付けになっている。



「……食べてみましょうか」

「もぐもぐ、ん、イケる」


「あ、ちょ、ライラ!?」



 意を決したレイミスの横に座るライラの口には既に、いっぱいのご飯が詰め込まれている。

 もぐもぐと動く口と、蕩けた目元。

 推し姫のあられもない幸せ姿に視聴者達が悶絶するなか、一歩遅れてレイミスもフォークを口に運んだ。



「もぐ……。もぐもぐ……。もぐもっ……こくん。んなっ、何よこれ……。めっちゃ美味しいわね!?」

「もふひぃ、もっもちょふらい」

「はわぁ、とても面白い食感ですね。いくつでも食べられそうですぅ」



 その日、四大国家に衝撃が走った。

 パン主食文化を根底から揺るがす――、『ご飯』。

 米自体は存在していた、だが、『炊飯』という新しい調理法が確立されたことにより、国民が『パン派』と『ご飯派』に分断。

 高名な政治家や賢者が唸り、怒号を飛ばし、頭を抱える長き論争を経ても決着が付かないという、恐ろしき大事件が勃発したのだ。



「こ、こんなの何処で見つけてきたのよ!?教えなさい、ルートルイン!!」

「なんてことは無い。夢で見ただけなのだ!!」


「夢ですって!?」



 夢とは、思い描き叶えるもの。

 キザラと同じ過ち、『ルートルインが研究を重ねて生み出した』と勘違いしたレイミスは、目を丸くしながらも素直な賞賛をルートルインに送った。



「凄いじゃない!!前から賢い子だとは思っていたけど、こんなの考えちゃうなんてやるわね、ルートルイン!!」

「素晴らしいの一言しか出ない。今日の敗北は決定した。がっくし」

「これがお米……、確かに世界が変わる気がしますぅ」



 目を輝かせて語る姫達の和気あいあいとした感想劇に、国民一同が嬉し涙とよだれを垂らす。

 そして、ルートルインの思い付きに振り回された何も知らない(・・・・・・)国王おとな達は、娘の笑顔のおねだりを叶える為、米の生産拡大を国策に認定した。


ということで、ついに始まりましたロイヤルディッシュ編!!

ルートルインを始めとする姫達の和気あいあい配信お茶会に萌えた場合は、評価・感想等で応援を頂けると嬉しいです!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ