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第6話 「料理人(ヤクザ)は夢を見るようです」

 

「さっきから楽しそう……、じゃなかった、仕事してくださいよ、キザ料理長!!」

「してるが?」


「どこが!?ルル様と遊んでるだけじゃないですかーー!!」



 ルートルインはギオンコロニ帝国で最も人気が高いアイドル配信者だ。

 深い智謀、子供らしい愛嬌、そして、超一流のファッションと美しい顔立ち。

 老若男女、全ての国民が親愛を向けている彼女は、(精神的な)破壊の女神『ルル様』として信奉されている。



「落ち着くのだタナー。キザラには特別な仕事を頼んでいる。遊んでいる訳ではないのだぞ」

「でも、ファナティシア様の顔に説得力がありません!!こんな蕩けた顔、初めて見ましたよ!?」



 横でマヨコーントーストを食べ始めたファナティシア、満面の笑顔。

 ルートルインの筆頭メイドとして不自由のない食生活をしている彼女でさえ陥落するこの料理は、どれ程の美味なのか。

 ゴクリと喉を鳴らしたタナーは、すっと差し出されたトーストを受け取り、ヤクザの恫喝を受けた。



「食ったら戻れ。お前のコンソメコーンスープはタダでさえ時間が掛かるんだから」

「そうですけど……、」


「俺はともかく、お前がサボってると怒られるぞ。下手すりゃコンソメで煮込まれる」

「ぐぅ。仕方が無いですねー。うっっま!?なにこのトースト!?!?」



 この時点で、タナーの立ち位置は『抜け駆けしやがった裏切者』となった。

 手首から上が殺気だったこの場の料理人は一人残らずルートルインを崇拝している『ガチ恋・信者勢』だ。



「しっかしウメェナー、このトースト。これだけでもメインを張れるぞ」

「そうであろう!!だが、マヨネーズは米に合わせても美味い、ツナと和えると絶品なのだ!!」



 キザラに電撃的衝撃が走る。

 料理の完成系が全く想像できないなど、初めての経験だ。



「ったく、こいつは面白くなってきたぜェ……!!」



 いつの間にか火が止められていた土鍋の上に、湿らせた布巾が乗せられている。

『蒸らす』と聞いたキザラの自己判断により土鍋は密封され、理想的な状態が実現していたのだ。

 そして、運命の蓋が開かれる。



「うわぁーー!!」



 そこにあったのは、甘美な蜃気楼が立ち上る白銀の平原。

 窓から差し込む朝日に照らされた銀シャリの一粒一粒が、宝石のように輝いている。



「……すげぇな」



 たったの一言に詰まった、キザラの感嘆。

 驚愕、興奮、感動、焦り、不安。

 米のスペシャリストであるが故に様々な感情が渦巻き、そして、認めざるを得ない『ご飯』と対面する。



「姫様よ、こいつは何だ?誰の配信で見た」

「配信?」


「こんな状態の米を俺は知らねぇ。王立図書館で調べても出てこなかった」



 キザラは人生の殆どを料理に費やしている。

 実際に厨房に立つ以外にも、街に出て食品を漁り、料理屋で調理法を考察し、本屋を巡ってレシピ本を買う。

 そんな料理ジャンキーな生活をしてなお未知の調理法『炊飯』、その出所が気になって仕方がないのだ。



「配信ではないぞ。普及していない新たな調理法だからな!!」

「は?じゃあどこで??」


「夢で見たのだ!!」

「ゆ、め……?」



『夢で見た』

 それは料理人に限らず、クリエイティブな者が使う隠語だ。

 夢とは追い求めるものであり、研究を経て完成させるもの。

 つまり、自力で発明したという自慢をマイルドにした表現が、『夢で見た』だ。



「ったく、イカれてるにも程があるぜ」



 ……俺は姫様に自作料理をさせた覚えはない。

 なんなら、料理の手伝いだって今日初めてやらせたことだ。

 それなのに、全く新しい調理法を実現可能なレベルで提言しやがった。


『天才』


 キザラは脳裏に浮かんだ言葉を噛みしめ、小さくて偉大な料理人を見下ろす。

 土鍋の前ではしゃいでいる姿は子供そのもの。

 だが、思い付きが実現する喜びは大人も子供も関係ないとキザラは知っている。



「食うぞ」

「うむ!思う存分、堪能するのだ!!」



 炊きたての銀シャリをしゃもじで掬い、掌に乗せる。

 触感を確かめつつ、軽く丸めて口へ。

 そして、この世界で最初に生まれた『おにぎり』が、キザラの口の中を蹂躙した。



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