第5話 「ヤクザ(料理人)はコーンを強奪するようです」
「で、炊くだったか?知っている情報を全部だせ」
「んーと、最初は強火で煮立ったら15分くらい?水分が無くなったら止めて、蒸らす!!」
脱穀と米の浸水を終えたキザラの求めに応えたルートルインの供述は、言葉尻だけ強めた曖昧なもの。
だが、彼にとってはそれだけで十分だ。
沸騰するまで強火10分→水分が無くなるまで中火15分→火を止めて蒸らす推定15分、と目算を付け、即座に実行する。
「少し時間があるな。朝食作ってやるぞ、何が良い?」
「ポーチドエッグトースト?あと、酢が欲しいぞ!」
「……酢?」
片手間でポーチドエッグを作りつつ、酢の必要性について問う。
ルートルインは酢を効かせすぎた料理を好まない、それは厨房での常識だからだ。
「マヨネーズを作りたいのだ」
「まよ……?んだそれ」
「調味料だ。酢と卵と油を混ぜるとできるらしい。これもロイヤルディッシュに使いたいのだぞ!!」
酢と卵と油、この三つの食材を混ぜ合わせる光景を想像し、眉間にしわを寄せる。
そしてキザラは、フライパンに酢と卵黄、油に食塩、レモン汁を入れて火に掛けた。
「なぜ温めるのだ?」
「卵を生で出すのはリスキーだからな、油も温度が高い方が混ざりやすくなるし、酢の酸味もまろやかになる」
「そうなのか!流石だな、キザラは!!」
ギオンコロニ帝国では、卵の生食は推奨されていない。
新鮮な卵を用いても、殻に付いた雑菌による食あたりの発生が後を絶たないからだ。
なお、生卵の独特な味と食感は珍味とされ、当然のように、キザラも味と腹痛を経験している。
「混ぜれば良いんだな?」
「うむ!よろしく頼むぞ!!」
キザラが確認をした理由、それは、油と酢が完全には混ざらないと知っているからだ。
酢とオリーブオイルを同時に使うサラダなどは、時間が経つと分離し、味に濃淡が出てしまう。
料理人の悩みの一つであるそれ、だが、口で説明するよりも見せた方が早いとキザラは思っていた。
この瞬間までは。
「……おかしい。分離しねぇ」
手慣れた動きで温めた材料をボールに移し、攪拌。
最初は軽かった手触りが急に重くなり、そして、意味不明なクリーム状に変化。
ルートルインが目を輝かせていく中、キザラとファナティシアは困惑するばかりだ。
「美味しそうなのだ!!」
「味見すっぞ」
好奇心とワクワクが止まらないキザラはスプーンを3枚取り出し、食いたきゃ食え。とルートルインとファナティシアに視線を向けた。
本来ならば毒見をしてから勧めなければならないが、そんな配慮が出来る男ではない。
「こいつは……!!」
「うわぁ、とってもまろやかなのだーー!!」
「ほのかな酸味と甘み、そして、レモンの爽やかさが香る素晴らしい味です。本日のロイヤルディッシュは圧勝ですね」
味見をした一同、マヨネーズが放つ強烈な一撃によりノックアウト。
周囲の料理人が不審者を見る目つきを向ける中、スプーンを咥えて余韻に浸っている。
「おーい、キザ料理長ー。なべー」
「わーってるよ。中火だろ」
鍋の音が変わった瞬間に飛んでくる揚げ足取り、その時間僅か3秒。
隙あらば料理長を小馬鹿にしたい若手料理人を牽制しつつ、ついでに下茹でが終わったコーン粒を奪い取る。
「あっ!?」
「姫様の朝食」
「くっ……」
「はっはっは、権力つーのはこういう風に使うんだぜェ」
恨めしそうに睨む女性を鼻で笑い飛ばし、横にあった食パンも回収。
それを手早く切り分け、たっぷり塗ったマヨネーズの上にコーンとチーズをトッピング。
そして、既に温まっている竈へ30秒間投入。
「食ってみろ。マヨコーントーストだ」
「しゃく!!しゃくしゃくしゃく……、美味いのだ―――っ!!」
新しい調味料の生成=新しい料理の誕生。
この図式を瞬時に成立させるからこそ、キザラはルートルインの専属料理長を任されている。
「どうする姫さんよ。ポーチドエッグトーストの方が良いか?」
「こっちをもう一枚食べたいのだ!!」
「へいへいーーと」
既に完成しているポーチドエッグを皿に盛りつけつつ、追加で4枚のマヨコーントーストを焼く。
キザラ、ルートルイン、ファナティシア、そして、ズンズンと足音を鳴らして来るコーンを強奪された女性料理人『タナー』を黙らせるのに必要だからだ。




