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第4話 「料理人(ヤクザ)は姫様一派に恐れおののくようです」

 

「おぉー!!すごく白いな。動画で見たのと同じなのだ!!」

「……動画?」



 キザラはルートルインの『夢旅行』を知らない。

 故に、この料理もしくは理科の実験の出所が怪しげな配信であると誤解する。



「ったく、どこの貴族だよ。で、次は?」

「素早く3~5回、水が半透明になるまで繰り返すのだ。そして最後に土鍋に移して水を張る!!」



 米の炊飯において、この研ぎが最も重要だ。

 糠の除去をしつつ米の旨味を残す絶妙な手さばきによって、炊飯後の輝きが決まる。


 当然、動画を見ただけでは理解が及ばず、そして、それを口頭で伝えられただけのキザラでは――、問題ない。

 例え初めての炊飯であろうとも、キザラは米の特性を理解している。

 絶妙な力加減で米を研ぎ、汁を捨て、そしてルートルインの指示通りに米の1.2倍の量の水を入れた。



「この後は?」

「30分後に火に掛けて炊くだけだ!」


「……煮るじゃなくてか?」

「最終的に水分が無くなったのを確認してから火を止める。そして、蒸らすとよい!!」



 ルートルインの笑顔に、ほんの少しの焦りが混じる。

 ここら辺から眠気と戦いながらの動画視聴、当然、記憶も朧気だ。



「完成系はどんな見た目だ?」

「それなら分かるぞ!!真っ白くてつやつや、お米の粒の一つ一つがコッペパンみたいにふっくらふわふわで、もっちもちで、ほんのり甘い!!」



 まるで、食ったことあるみてぇな感想だな?姫様。


 子供特有の動画配信者のリアクション真似だろうと決め付けつつ、キザラは目の前の米に向き直る。

 そして、コップの5分の1ほど水を掬い上げて取り除き、土鍋に蓋をした。



「どうして水を減らしたのだ?」

「先月収穫した新米だからだ。水分が飛びきってねぇからな、水をあんまり吸わねぇ」


「うむ!ご飯は手で持っても崩れないくらいの硬さがある。べちゃべちゃではないぞ!!」



『手で持てる』

 この情報が加わったことで、キザラの推測が核心に変わった。


 白い粒状でそのまま食べられる、米。

 半信半疑で始めた調理だが、完成後のビジョンが見えたことで、キザラの眉間に再び血管が奔る。

 このままではルートルインの要望が叶うことは無いと気が付いたのだ。



「今、7時25分。……試食してからじゃ間に合わねぇ。ったく」

「あっ、そうか。30分待ってようやく炊き始め。出来上がって蒸らして、試食できるのは9時を回ってしまう!?」


「先に下拵えするぞ。この一袋を全部脱穀しなくちゃならねぇ!!」



 ロイヤルディッシュは4名の姫に食事を提供する場……、ではない。

 各国が威信を掛けた文化を発信する仁義なき戦い。

 ルートルインの背後に立つ国王は提供した料理のプレゼンを行うものであり、求められれば各国の王族にも振る舞う責務が生じるのだ。



「おや……、ルートルイン様?何をなさっていらっしゃるんですか?」

「ファナティ!!ちょうどいい所に来たのだ、脱穀を手伝ってくれ、私一人じゃ間に合わぬ!!」



 厨房に戻ってきたファナティシアの目に映ったのは、瓶に米を詰めるキザラと、指を突っ込んでかき混ぜるルートルイン。

 なにやってんだろ、アレ。という料理人の視線が突き刺さる中で孤軍奮闘するルートルインに微笑みを向けたファナティシアは、そのままキザラを一瞥した。



「姫様に労働を強いるとは。よい度胸をしていますね、キザラさま」

「俺は巻き込まれた側だ!!」


「それでルートルイン様、私は何をすれば?」

「米の皮を剝いて、白い中身を取り出してくれ。あ、薄い皮は捨てちゃダメなのだ!!」



 ちらりと米の袋を眺め、残り25kgと目算。

 作業工程は、瓶の中に米を入れる、米を風魔法で分離、魔法で仕分け、皿に取り出し、の四段階。

 大して複雑ではありませんね。

 そんな感想を抱きつつ、ファナティシアは手袋越しに指を鳴らした。



「本来、調理師免許の無い私やルートルイン様が調理に関わること自体がタブーなのですよ」

「なん、じゃ、こりゃぁ」


「四重の魔法行使ですが?そんなことより、ロイヤルディッシュの規定についてですが――」



 ファナティシアから言いつけられる小言が、全く耳に入ってこない。

 四重の魔法行使、それは、キザラが幼い頃に読んだ本の中の出来事。

 たった一人の勇者が世界戦争を終わらせる大長編ファンタジー小説だ。


 そんな空想上の化け物がメイド服を着ている。

 なるほどな、姫がおかしいと、メイドもイカれるのか。

 順序が逆だというツッコミがルートルインからされない以上、キザラの誤解が解かれることは無い。

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