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第3話 「姫様は料理人(ヤクザ)に指導するようです」


「米はもともと今日の料理に使う予定だった、ほれ」



 キザラが指差した袋の中にあるのは、殻が付いたままの米。

 収穫されたばかりの新米であるそれから、香ばしい匂いが立ち上っている。



「凝固が早い米のポタージュは提供直前に完成させる。つーことで、まだ下準備すらしてねぇ」



 キザラは米について研究し尽くしている。

 ポタージュやリゾットを広めた者こそ彼であり、その派生形こそがキザラの得意料理スペシャリテと言っていい。


 そして、ルートルインはそれを知っている。

 だからこそ、誰よりも先に米の可能性を伝えたかったのだ。



「すぐ煮込むから待ってろ。その間に朝飯も作るからよ」

「待て、炊飯はポタージュやリゾットとは違う。まずは私の説明を聞くのだ!」


「……なに?」



 キザラにとって、米とは煮るもの。

 使うスープや調味料の差異、水分量によって硬さや見た目に変化を付ける、それが米料理だ。


 だからこそ、煮る以外の調理を提案された時点で、デッド・オア・アライブな気分になった。

 料理ではなく、理科の実験に付き合わされている感覚なのだ。



「俺に二言はねぇからやってやる。が、とんでもねぇことになったらヘラで尻を引っぱたくからな」



 普通にセクハラですけど、やっぱり通報します?

 あぁ、調理器具を折檻に使うなど、料理人としてあるまじき姿だ。

 そんな料理人達の視線を弾き飛ばし、キザラは米の袋をルートルインの前に置いた。



「キザラなら知っていると思うが、お米の中には白い実がある」

「……あるな」


「それを取り出すことを脱穀という。まずはこれから始めるぞ!!」



 上目づかいで指示するルートルインをキザラが見下ろす。

 相手の身分など関係ない、料理に対して真摯に向き合っているか、それがキザラの判断基準だ。


 ……想定よりも真っ当な指示が来たな?

 確かに白い部分だけを使えば殻の香ばしさや雑味がないスープになる。

 だがな、それは手間に対して旨味が少ない悪手なんだぜ。


 殻を取り除く発想は俺にもあった。

 だが、脱穀をしたスープと、そのまま煮たスープを布で越したものの差は殆どない。

 寧ろ、米の特徴と言える香ばしさがない分、無味無臭に近しい味気ないスープになっちまうし、調味料を加えれば米らしさがなくなる。

 結論、脱穀は骨折り損のくたびれ儲け、って訳だが……?



「脱穀はどうやるんだ?かなりの手間だぞ」

「瓶にお米を入れて棒で突っつく……、のは無理なので、指を入れて風魔法で拡散。同時に変換魔法を行使して白米、糠、籾殻に分ける。見ていろ!!」



 米を入れた瓶を差し出したキザラの目に、奇跡に近しい光景が映った。

 ルートルインが瓶に指を差し込んだ瞬間、内部の空気に変化が起こったのだ。


『空気』→『酸素+窒素+その他+熱』へ魔法で変換し、瓶の内外の気圧差による旋風が米の殻を削ぎ落とす。

 ここまでは、この場の料理人達にも出来る。

 キザラが驚く理由、それは、ルートルインが『瓶の内部』→『空気+白米+糠+籾殻』という二重変換を行使し、構成物を4層構造に分けたからだ。


 魔法の二重行使の習得には、10年の鍛錬が必要とされている。

 職業軍人のエリートと呼ばれる条件であるそれを10歳の姫が満たしている、それが、ルートルインが自由に行動を許されている理由の一つだ。

 なお、彼女に戦闘技術を教えた者は現在、朝食不要を言い付けられた王族料理人チームと戦っている。



「皿に取り出すぞ。ほい!」

「一家に一台欲しい性能だな。いっそのこと姫を辞めて料理人にならねぇか?」



 不敬極まりない呟きをスルーしつつ、ルートルインはもみ殻をごみ箱に捨てる。

 そして糠を清潔な袋に移しつつ、白米だけをテーブルの上に残した。



「よし、煮ればいいんだな?」

「違う!!白米は軽く洗ってから水に30分浸すのだ。短くても長くてもダメなのだぞ」



 ……チッ、誰だよ、コイツに理科の実験を教えた奴。

 水に浸した米を煮ると半分の時間で溶ける!すごい!!

 で??それが??


 目を細めたキザラは静観しつつ、状況を分析。

 普通に煮て布で漉す時間=20分。

 脱穀して水に浸して煮る時間=50分。

『これだけの手間をかけて碌なもんが出来なかったら怒ってもいいよな?』と心を決めつつ、ルートルインに指示を促す。



「洗うっつーのは?」

「桶に入れたお米と水を手でかき混ぜて、表面の汚れを落とすのだ!!」


「ってことは水は捨てるのか?」

「うむ!この『研ぎ』こそが炊飯の極意なのだぞ!!」



 説明を聞いたキザラは目を細め、口を大きく歪めて笑った。

 水で洗うなど米の風味と香りをさらに削ぎ落す行いで、常識の範疇を超えている。


 だからこそ、面白い。

 料理人としての感が、そう告げていた。

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