第2話 「姫様は料理人(ヤクザ)に会いに行くようです」
「おはようございます、なのだーー!!」
「あ”ぁ?んだこら姫様よぉー。まだ仕込みの途中、つまみ食いできるもんなんてねぇぞ」
ハーフパンツにラフなYシャツ。
所々にフリルやレースが付いたカジュアルな洋服に身を包むルートルインが、厨房の扉を勢い良く開けた。
一斉に視線が集まる……、ことは無い。
全員が魂を掛けて調理器具を握る最中、脇見をする余裕がある者など、料理長の男『キザラ』以外には居ないのだ。
「そうか、それは残念なのだ。朝食はあり合わせで済ませようと思ったのに」
「大した手間じゃねぇから作ってやってもいいが……、普通の朝食はどうすんだ?」
「マナー通りに食事などしていたら40分は掛かる、そんな暇はない。なぜなら、今日のロイヤルディッシュのメニューを変更したいのだからな!!」
総勢10名の料理人達に激震が走る。
現在進行形で製作している料理こそ、本日のロイヤルディッシュで提供されるランチの品々。
彼ら彼女たちこそ、ルートルインが参加する王族茶会の全ての料理・茶・デザートを製作する専属料理人だ。
そして、呆然とする料理人を尻目に動き出した者が一人。
ファナティシアは別室にいる朝食担当の王族料理人に話をつけるべく、静かに厨房を後にする。
「……はぁ。一応聞くが、俺達を困らせたくて言っている訳じゃないよな?」
「迷惑なのは理解している。だが、その価値があることも確信しているのだ。頼む、協力して欲しい」
ルートルインにとっても、この提案は賭けだった。
彼らは専属の料理人であり、友好も築いている。
だからこそ、ロイヤルディッシュに掛ける情熱を理解しているし、それを軽んじるなど、絶縁状を叩きつけられても不思議ではない。
キザラを筆頭にルートルインが集めたこの料理人達は、正規の王族料理人チームに在籍できない若い者ばかりだ。
食とは生であり、王族の命を預かる大切な仕事。
王族料理人として働くには3年以上の一流料理学校の就学に加え、5年以上の実務経験が必要。
そして、憧れを抱いた者の殆どは授業料が用意できないどころか、入学推薦状すら手に入らない。
そんな平民及び、力のない貴族出身から集められた有能な若手料理人である彼らだが……、もう既にロイヤルディッシュを任されたという実績がある。
だからこそ、王族料理人チームを含めたあらゆる厨房に転職可能だ。
「何を出したいのか言ってみろ。話は聞いてやる」
黒髪オールバックに鷹のような横長の目、身長も高く口調も悪い。
そして、首から下は一流の料理人。
そんな料理長キザラが握っているのは調理器具ではなく、鉛筆と記録用紙だ。
王族が口にする料理は、徹底的な安全管理が義務付けられる。
全ての料理工程を理解している者が料理人の行動を記録し、レシピから外れていないかを監査しているのだ。
最も、平民出身のキザラは目的が違う。
隙あらばオリジナルアレンジを加えようとするアウトロー共が余計な食材を持ち込んでいないかが重要であり、毒の警戒をするなど無意味な行いだと思っているからだ。
「ありがとうなのだ!!ではさっそく本題だが……、お米だ。まったく新しい米の調理法『炊飯』をして欲しい!!」
「……米、だと?」
キザラの顔に3本の血管が奔る。
明らかに感情が昂った表情、そして、不穏なオーラを見た近くの女性料理人が「ひぃ!」と悲鳴を上げた。
「おい、お前らァッ!!」
「「「ぎゃい!?」」」
「俺は仕事が出来た。夢見がちなお姫様に厳しい現実を教えるっつー、大事な仕事がよぉーー。お前らで調理を進めておけやーー!!」
ヤンキーとチンピラとゴロツキを足して2倍した恫喝に震えあがったのは、手首から上のみ。
この場の料理人達は、どれだけ動揺していようとも精彩を欠くことのない調理技術を持っている。
「くっくっく、米かよ。よりにもよって、この俺に新しい米の料理を教えてやるとはなぁ……!!」
「美味すぎて腰を抜かすからな。覚悟するのだぞ!!」
「くあっはぁー!!いいぜぇ、炊飯つったか。どんなもんか楽しみだぜーー??」
それはまるで、いたいけな少女を狙う犯罪者の笑顔。
どうしよう。通報しようかな。
心を一つにする料理人達が血迷う最中、ルートルインも不敵に笑った。
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