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第19話「姫様は醤油に恋い焦がれるようです」

 

「焼きおにぎりからいくか。これは醤油を塗って焼いただけのシンプルなやつだ」

「醤油、未知の調味料か。ワクワクするな!!」


「五目おにぎりにも使われてるけどな、いただきます」



 俺にネタバレされて固まっているお姫様を放置し、焼きおにぎりを口に放り込む。

 んー、これこれ。

 コンビニ焼きおにぎりの独特な食感、噛んでいく内にほぐれていくのがたまらねぇな。



「ほふっ!ほふふ!!」

「どうだ?」


「……ぺろ。これが醤油、か」

「おう?何だその表情」


「私の世界に、無い、のかぁ……」



 指と唇を舐め取ったお姫様が……、うわぁ、露骨にがっかりしてる。

 醤油を気に入ってくれるのは日本人として嬉しい限りだが、確かに、向こうで手に入らないって考えると微妙だな。



「MVP的にもがっかりなのだ。チャーハンだって、醤油を使うのであろう?」

「チャーハンはともかく、醤油の無い炊き込みご飯はなぁ」


「はぁー、悔しいのだ」



 明らかに意気消沈したルートルインが、持っている焼きおにぎりを口に放り込む。

 そのまましっかりと噛んで味わい、目をつぶって味を楽しみ、ふはぁ……。と溜息を零した。



「やっぱり惜しいのだ」

「だが、なんでだろうな?味噌があるなら醤油もあるはずなんだけど」


「……なんだと?」

「醤油は味噌を作る過程で出るんだよ。簡単に言うと、余った水分が醤油になるはず」



 味噌と醤油の作り方はうろ覚えだが、確か、味噌の上に溜まった水分が醤油だって聞いた気がする。

『自家製味噌』なんて言葉も聞いたことがあるし、異世界でも醤油が作れる可能性は十分あるはずだ。



「醤油と味噌は材料が殆ど同じで、入れる水の量で作り分ける……、んだったか?」

「なるほど、ならば偶然、醤油が出来てもおかしくはないな」


「だろ?なのにお前は醤油を知らない、ってことは異世界には存在しないんだろ?」

「もしかしたら、『名前が付いていない』だけなのかもしれぬ」


「名前?」

「私のスキルトリガーは名称だ。存在していても、相互に名前が付けられていない概念は反応しない可能性がある」



 急に出てきたスキルトリガーとは、発動条件の事を指すらしい。

 そして、日本で得た知識が異世界に存在しても、名前が付くほど認知されていなければスキルで調べることが出来ないらしい。



「味噌は名前が付いていて、醤油は付けられていない。不思議だな?」

「失敗作とでも思われているのかもしれないな。ともかく、私の世界で醤油が手に入る可能性があることは分かった。僥倖だぞ!!」



 醤油が手に入ると分かった瞬間、目をキラッキラにして大喜びする姫様。

 あ、残っていた3分の1の焼きおにぎりに手を伸ばした。

 そして、ぴかっぴかな視線で食べていいかと訴えかけてくる。



「いいぞ」

「はむぅ!はふっ、ははふっ!!」



 どうやら、ちょっと熱かったらしい。

 慌てて緑茶を飲む所まで含めて、満点のリアクションだぜ。



「後で醤油と味噌の作り方を調べてやるよ。タブレットで」

「えっっ!?そんなことが出来るのか!?」


「できる。というか、お前に使い方を教えるから、疑問を勝手に調べてくれ」

「……良いのか?察するに百科事典みたいなものだろう。情報アドバンテージはイナトが持つ優位性なのだぞ」



 それは遠回しに、同じ情報を扱ったら俺を圧倒できるって言ってる?

 確かに賢いんだろうが……、現代日本人は情報取り扱いのエリート集団だぞ。

 いくら頭の回転が速くとも、超高度情報化社会に慣れるのは簡単なことじゃない。



「イナト、私を子供だと甘く見ているな?これでも国を背負っているのだ、本の一冊や二冊、簡単に覚えられるぞ!!」

「4000億ページ」


「よん……せ……、おく、は?」

「このタブレットで調べられる情報は、4000億ページを超えるらしいぞ。しかも、毎日25万ページ追加される」


「にじゅ……ま……、は?」



 タブレットを手に取って起動、そのまま検索エンジンに疑問を入力。

 出てきたAI回答なるものを読み上げた結果、ルートルインが処理落ちした。



「なお、さっきも言った通り、このタブレットは動画も見れる」

「4000億ページの書籍に動画まで……?」



 動画配信サイトにアクセス、味噌の作り方の動画を探そうとして――、止めた。

 姫様に最初に見せる動画が味噌作りとか、渋すぎるだろ。

 絵面的にもよろしくないし、何か良さそうな……、あ、そうだ!!



「米の炊き方動画があるぞ。見るか?」

「なっ……!見る、見るのだっ!!」



 うわぁ、5分ちょいの動画に釘付けになったルートルインの口が駄々開きに。

 疑問と混乱と歓喜が入り混じった複雑な姫様の顔を、俺は一生忘れないだろう。

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