第15話 「お姫様は完堕ちしたようです」
「ミルクティーか。この、ぷにぷにする容器も面白いな!!」
豚汁の準備をしている俺の前で、お姫様がペットボトルに興味を示している。
スポーツドリンクを飲んでたし、ガラスと違うのは理解してるっぽいが……、流石にペットボトルは異世界にはないか。
「造形も見事だ。持って帰って、父上の机の上に飾りたいぞ。花を生けたら映えるはずだ!!」
「姫にペットボトルに入った花をプレゼントされる国王、絵面がシュール過ぎる。ま、とりあえず飲んだらどうだ?」
「そうだな。それにしても異世界のミルクティーか、私は茶葉にはうるさいぞ」
だろうな。
恐らく、こっちの最高品質の紅茶を飲ませても、「まぁ、美味しいけど、こんなものか」みたいな反応をされるはず。
国の威信を掛けたお茶会なら、それこそ、最高品質の茶葉ばかり飲んできただろうしな。
だが、日本のミルクティーは、高級さとは違う方向にぶっ飛んでいる。
さぁ、人工甘味料の濁流に蹂躙されるがいい。
「こくっ、こくっ……!!」
「くっくっく」
「こきゅ!!こきゅー!!……ぷは」
「どうだ、感想は?」
一口飲んだ瞬間に目を見開き、二口三口とラッパ飲み。
あまりにも理不尽な甘みにひれ伏すが良い――、え?
「……はぁ。なんだこれ」
「えっ?」
「イナト、これはダメだぞ。とても大きな失態なのだ。断じて許しがたい暴挙だ。反省せよ」
「えっっ??」
何だ急に……、こ、これは支配者の目だ!!
圧倒的王女様オーラを身に纏ったルートルインが、下々の民である俺を見下しているッ!!
「悪い。なんかタブーをやらかしちまったか?」
「分からぬのか。王女である私の言葉を軽んじるとは、とてもいい度胸なのだ」
「話が見えないんだが?」
「言ったはずだぞ。私は舌をリセットしたい、と」
「もしかして、甘すぎた……?」
「当っっったり前なのだ!!食事にこんな甘いミルクティーを出してどうするっ、猛省せよ!!」
あっ、渋いのが欲しかったのね。
このお姫様、外見と中身が一致してないようです。
いや、分かるかよ、そんなん!?
子供にミルクティーが甘すぎるって文句言われるって、誰が想定できるんだよ!?
「言われれば納得だけどさ。じゃあ、こっちの茶にするか?まったく甘くない、むしろ苦みが強いけど」
「ふん、甘ったるいよりマシなのだ。んぅ……、香り高い良い茶葉ではないか。おぉ、味も良いな」
そう言いながら、こぉぉーい茶を嗜むお姫様。
湯呑を持たせたら、さぞ絵になるだろう。
「はふっ……、冷茶というのもいいな。口がすっきりする」
「気に入ったみたいで良かったよ。しゃーないから、俺はミルクティーで我慢するか。もったいないし」
「あっ!!」
「……あっ!!ってなんだよ」
基本的に、俺は食べ残しを嫌うタイプだ。
体調不良になるレベルの不味さは別だが……、多少の食べ合わせの悪さは気にしない。
という事で、ミルクティーを飲んじまうかと思ったわけだが、なんだその、盗賊に追い詰められた姫みたいな顔は?
国の至宝みたいにペットボトルを抱くな。
158円だぞ、それ。
「いや、その……。そういえば、デザートが無いな?」
「冷蔵庫のゼリーは消えたしな」
「……。少し、味気ないとは思わないか?」
「……。デザートとして、そのミルクティーも寄越せと?」
「ケーキよりも甘いミルクティーなのだぞ!?飲みたいに決まっているのだーー!!」
つまり、食事の友としては落第だが、デザートとしては上等だと?
やべぇ、人工甘味料の破壊力が強すぎた。
お姫様が完堕ちしていらっしゃる。




