第9話 「姫様はおにぎりに興味津々なようです」
「左上から順番に見せて欲しいのだ!」
「了解。シャケ、昆布、おかか、ツナマヨ、この段はおなじみの具材だな」
おにぎり棚は全部で4段。
定番の味、変わり種の品、季節系の商品、一番下はセット商品だ。
海苔が巻かれているタイプにはパッケージに写真があり、調理ご飯系は透明なビニールだから見れば分かる。
王女様が何を選ぶのかもそうだが……、俺が注目しているのは、どの程度、具材を理解できるのかだ。
「そっちの世界にもシャケっているのか?」
「いる。赤身の魚だ。ムニエルは私の好物だぞ!」
シャケ=赤身の魚、調理法としてムニエルが存在すると。
たっぷりバターで炒め焼きする調理法があるのなら、料理に消極的って事もなさそうだ。
「昆布、おかか、ツナマヨは分かるか?」
「昆布は海藻だな。だが、おかかとツナマヨは分からぬ」
昆布は固有名詞。
だが、おかかとツナマヨは造語だ。
おかかは鰹節を薄く切ったもので、ツナマヨはツナ+マヨネーズ。
ここの理解度が重要そうだ。
「鰹は分かるか?」
「魚だ。私の身長くらいあるぞ」
「鰹節は?」
「それは知らぬ」
「じゃあツナ」
「油漬けされた鰹?マリネみたいなものだと思う」
「マヨ」
「それも知らぬ」
なるほど、なんとなく法則が見えて来た。
ルートルインの言葉自動翻訳は、
① シャケ→赤身の魚、鰹→大きな魚のように、特徴が似ている物に置き換えている。
② ツナ→油漬けした鰹 =マリネ のように、似たような物があれば当てはめる。
③ マヨや鰹節の様に、全く未知の存在は変換されない。
総じて、外国人に日本語の説明をする時の様に、『例え話』が基本になっているっぽい。
それにしても、現時点で、炊飯と、鰹節と、マヨネーズが無いのか。
中央ヨーロッパ……、ハンガリーがそんな感じの料理文化だったっけ?
煮込み料理を中心に、肉も野菜もたまごも食べる豊かな国だったか。
禁止食材が無いってのも、日本と相性が良いな。
「イナトばっかりズルいのだ。私の質問にも答えて貰うぞ!!」
「おう、何が聞きたい?」
「鰹節とマヨとはなんなのだ?」
「乾燥させた鰹を薄く切ったもの、それと、卵と酢を使って作る調味料」
「……美味いのか?」
「おかかは甘め、マヨは万能調味料だ。人によって好みはあるが、俺は美味いと思うぞ」
「そうなのか!」
明らかに興味津々だったから手に取るかと思いきや、どうにか堪えたらしい。
流石は王女様、先見の明をお持ちでいらっしゃる。
下の段には変わりものの定番、子供に大人気なオムライス、チャーハン、唐揚げマヨが控えている。
「何なのだこの段は、一つも分からぬ!!」
「オムライスとチャーハンは炊いた米を炒めたものだ。ケチャップ味と醤油味」
「ケチャップはトマトソース、だが、醤油とは?」
「あー無いか、なら、味噌もか」
「ん、味噌は分かるぞ!」
……なに?
味噌と醤油はほとんど同じ材料のはずだが、なんで片方しかないんだ?
「魔法の効果で知っているだけだが、あるという事は分かる」
「王女の身分で食べたことが無いのか?」
「私は文化の発信者だぞ。それなのに知らぬということは、かなりマイナーな食品という事だ。それにしても、これは面白いことになったのだ!!」
「面白い?」
「私の世界にも、未知のお宝が眠っている証明ではないか!!こちらの文化再現は大変だと思っていたが、既にあるのなら話が早い!!」
「王家の財力でゴリ押し?」
「当然であろう。味噌の生産者は金銭を得られ、世界には新しい料理が広まる。誰もが得をする良いことづくめだ!!」
味噌はあるが広まっておらず、醤油もマヨも存在しないと。
なお、香辛料は豊富な模様。
ハーブ、唐辛子、胡椒、を知っているかって聞いたら、元気よく肯定された。
「それにしても、このオムライス……、トマト味のお米を卵で包むなんて絶対に美味いに決まっている」
「これにするか?」
「まだだ。まだ選ぶことはせぬ!!もっとよく見て決めるのだ!!」




