プロローグ 「姫様たちは、おにぎりでとろけるようです」
「本日のランチ提供はルートルインの番でしたわね?ふふっ、楽しみですわー」
悪役令嬢ここにあり。
そんな笑顔を向けられた少女、ルートルインも屈託のない笑みを返した。
絢爛豪華な室内の、高貴な調度品が光り輝く。
この国で最も高位の貴賓茶室、そこでテーブルに着く少女たちの目的は、お茶会。
ただしそれは、多くの策謀が入り乱れる、国同士の争いだ。
「うむ、今日のは自信作なのだ!!きっと驚きすぎてビックリするぞ!!」
礼には礼を。
挑発には小馬鹿を。
意図的に重複言葉を使って煽ったルートルインもまた、一筋縄ではいかない智謀を持つ。
ここに居る4名の少女――いや、幼女と言っても差し支えない12歳から14歳の彼女達は、それぞれの国を代表した姫達だ。
ギオンコロニ帝国・第一王女
『ルートルイン・ファス・ギオンコロニ』
トップメシア王国・第三王女
『レイミス・スリア・トップメシア』
リージョン法国・第一王女
『ライラ・ファス・リージョン』
アルアグレン軍国・第二王女
『リリカル・セカ・アルアグレン』
「ですが、わたくしの午前のお茶も工夫を凝らした至高の一品。貴女も美味しく召し上がっていらしたのではなくて?」
「実際、美味しかったし文句はないぞ!!だが、今日は私のランチの方が凄い。レイミスの連勝もここまでなのだ!!」
彼女達の役割、それは、国の威信を賭けた文化を競わせ勝利する――代理戦争。
直接的な暴力ではなく、発展させた文化を叩きつけ合って精神的に殴り倒す、麗しき乙女たちの戦いだ。
週に一回行われる各国の姫達のお茶会 『ロイヤル・ディッシュ』。
午後10時から12時までの、イレブンジィズティー。
午後12時から2時までの、ランチ。
午後2時から5時までの、アフタヌーンティー。
午後5時から8時までの、ディナー。
ティータイム2回、食事2回をそれぞれの姫が順番で取り仕切り、そこで用意した文化を発表する。
ティータイムでは茶と菓子、そして、各国での文化流行等の話題を提供。
そして2度の食事では、料理、茶、デザートなどの食文化に特化した話題を料理と共に配膳するのだ。
国の貿易価値が賭かっているロイヤル・ディッシュは、担当時間をローテーションすることで公平性を保ち、厳正な勝負として成立させている。
そして、その勝敗は――このお茶会の配信映像を見ている国民の人気投票で決定されるのだ。
「あら?本当に見たことがない料理ですわね」
「ふっふっふ、そうであろう。この私も初めて食べた時はビックリし過ぎた。あまりの衝撃で今日のお茶会に無理やりねじ込んでしまった程にな!」
「ちょっ……、大丈夫なんでしょうね、それ。美味しくなくても、はっきり言うわよ」
「問題ない。絶対に美味しいから安心するのだぞ」
そっとルートルインに身を寄せ、小声で確認をするレイミス。
一番の年長である彼女にとって、ルートルインはライバルであり妹分。
勝負に本気で挑むのは当然、だが、他の姫達が大失敗した姿を晒すのを良しとするほど擦れていない。
「どう美味しいのかしら。先に貴女の感想を聞かせてくださる?」
「もっとも強い印象は食感の良さ。パンより柔らかく、スープより硬い。口が幸せとはこの事を言うのだ!!」
「……?確かに、スープ以外の白い料理は珍しいけれど」
姫達の視線の先にあるのは、見覚えのない粒々した料理。
それが穀物であると見抜けたのは、ルートルインを除いて二人。
その内の片方、レイミスは内心で思慮を深めた。
なるほど……、確かに、たくさんの料理を並べるビュッフェ形式なら気に入る味付けの一つもあるでしょう。
ですが、逆に言えば気に入らない、不味い料理の確率も上がるということ。
どんなに美味しい味付けがあったとしても、必ず、どの料理かが足を引っ張る――そんな最高点も最低点も出ない防御寄りのランチなんかで、わたくしのイレブンジィズティーが倒せまして?
オホホホホ、本日のMVPも頂きましたわ!!
「それでは堪能するがよい!私も垂涎する、おにぎりランチだ!!」
その日、四大国家に衝撃が走る。
パン主食文化を根底から揺るがす、新たな主食『ご飯』。
米自体は存在していた、だが、『炊飯』という新しい調理法が確立されたことにより、国民が『パン派』と『ご飯派』に分断。
高名な政治家や賢者が唸り、怒号を飛ばし、頭を抱える長き論争を経ても決着が付かないという、恐ろしき大事件が勃発したのだ。
「んなっ、んなっ、何よこれ……、めっちゃ美味しいわね!?」
「もふひぃ、もっもふ……」
「はわぁ、とても面白い食感ですね。いくつでも食べられそうですぅ」
目を輝かせて語る姫達の和気あいあいとした感想劇に、国民一同が嬉し涙とよだれを垂らす。
そして、ルートルインの思い付きに振り回された国王達は、娘の笑顔のおねだりを叶える為、米の生産拡大を国策に認定した。
「こ、こんなの何処で見つけてきたのよ!?教えなさい、ルートルイン!!」
「なんてことは無い。夢で見ただけなのだ!!」




