41. エピローグ
人が望もうと望むまいと、時が止まることはない。
気がつけばまたいつもの毎日が私を待っていた。
ヴィクトルは仕事が減ると言っていたが、そんなことは全くなかった。
瘴気の発生源を浄化できたからといい、既に狂暴化した魔物が減るわけでもないし、ポーションが不要になる訳でもない。
今日も私はいつも通りポーションを作り、武器に魔力付与をしたり、その他雑用を色々したりしている。
最近はこのルーティンの中に、黒魔術の研究が増えた。
元の世界に帰りたくなったとか、黒魔術について知りたくなった、とかではない。
闇魔術の研究所が見つかったと通報があったのだ。
私が黒魔術の研究チームに入ると知ったグレイとまた一悶着あり、身体に見合わぬ心配性で寂しがり屋で泣き虫な彼を説得するのにやや手間取ったが、今は無事に納得してくれているし、なんなら私の世界について興味も持っている。
元の世界には魅力的な人が多いし、このまま行くと私の方が心配でグレイに泣きついてしまいそうで、やや怖い。
「ティアさん、これ、ポーションの確認お願いします」
考え事をしていたら、リリーがポーションの瓶を持ってきた。
「了解!」
私は仕事とは別のことを考えていたことを悟られないように、サッと瓶を受け取った。
瓶がカチャリと私のアクセサリーにぶつかって音を立てる。
私は自分の左の薬指にはまっている銀色の指輪を見た。
ふっと微笑み、リリーのポーションの瓶を顔の前でくるりとまわす。
「うん、よくできてる!この調子」
「ありがとうございます!」
リリーはぺこりと頭を下げると、笑顔で自分の席へ戻って行った。
「ティア」
私を呼ぶ声に、顔を上げる。
部屋のドアのところにグレイが私服で立って待っていた。
今日は2人の結婚式用のドレスを見に行く約束をしているのだ。
「もう少しで片付け終わるからちょっと待って!」
慌てて仕事の物を片付けていく。
と、横から手が伸びて、私の持っていた書類を奪い去った。
「ヴィクトル!」
「僕の息子がワクワクして待ってるんだからさ、行ってあげて。ここは所長にお任せあれ〜」
そう言ってそっとウインクする。
「ありがとう父さん」
いつの間にか室内に入ってきていたグレイが私の肩を抱いた。
早退の挨拶をして、2人で訓練場へと向かう。
ドレスは街へ見に行く約束だ。
結婚式の話が出た際に国王陛下が城で一大行事として大々的に執り行う提案をしてきたのだが、お気持ちだけ受け取って、丁重にお断りさせて頂いた。
2人がお互いに満足できる式にできれば、それが1番だった。
「ティア」
既に箒に跨っているグレイが、私に向かって手を差し伸べた。
その手を取って、慣れた動きで箒の上に腰を下ろす。
「行くよ、しっかり捕まってて」
そう言うと、グレイは綺麗な青空に向かって、地面を蹴り上げた。
お読みくださりありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。




