4. 魔力測定
「ここは魔術研究所の測定室、兼、会議室だ」
そう言ってヴィクトルが足を踏み入れたのは、ぱっと見海外の大学の講義室のような部屋だった。
扇形になっている室内は広く、入ってすぐに降る階段がある。そして階段の隣には、茶色の大理石で作られた立派な机が室内に合うようにずらりと並べられている。
偉い学者さんたちによる学会でも開かれてそうな場所だ。
そして階段の先には、壇があり、大きな黒板が背後の壁に併設されている。
ヴィクトルはその壇の上に立って、こちらを見上げていた。
「今道具持ってくるから、ここ来て待ってて」
ヴィクトルはそう言い残すと、壇上にある左側の小さな扉の中へ吸い込まれて行った。
壇上にたどり着き、席には誰もいないとはいえ、なんだか発表を控えた人のような気持ちになり、ソワソワ辺りを見渡していると、ヴィクトルが様々な機器を両手に抱えながら戻ってきた。
「お待たせ!じゃ始めようか」
ゴトゴトと機器が壇上のテーブルの上に乗せられる。
まずはこれ、と私の前に差し出されたのは丸い透明な球体だった。
「これに手を乗せてみて」
異世界でよく見るやつだ!とドキドキしながら手を翳す。
バキン!と音を立てて球体が砕け散った。
「え!?」
ヴィクトルの驚いた声に、本来ならばこういうことは起こらないのだろうということを察し、顔が青ざめていく。
私はモフモフクッションをギュッと握りしめて硬直した。
べ、弁償とかですか……?私ここだと恐らく一文無しなのですが……!
言葉を無くし、恐る恐るヴィクトルの顔色を伺う私を見て察したのか、ヴィクトルは手を振りながら否定した。
「ああ、割れたのは気にしないで、経費で落とせるし。手は大丈夫?」
「はい」
「なら良かった」
ヴィクトルはなんだか興奮気味に次の機器をセットし出した。
「じゃ次これね」
そう言って差し出されたのは大きめの紙に、丸く模様が描いてあるもの。
「その丸の上に、手を置いてみて」
ヴィクトルに言われるがままに手を置くと、私の手のひらからうすいクリーム色がじわりと滲み出し、白い紙全体を一瞬で覆った。
「……素晴らしい……!」
ヴィクトルは口元に手を当てて、唸るように感嘆の声を上げた。
しかし私には何が何だかさっぱりである。
「あの、今ので何がわかったんですか?」
私が聞いたら、ハッとしたヴィクトルが、慌てて私の手を指差した。
「もう大丈夫だから、手を離して!」
遅かった。私が手を離すと同時に、クリーム色に染まった紙はぼろぼろ崩れて落ちて床に舞った。
「え……すみません……!」
「いや、いい、いい。僕が注意するのが遅かったんだ。気にしないで」
ヴィクトルは再び手を振ると、顎に手を置いた。
「何がわかったかというと、君が聖女かもしれないということだね」
「えっ聖女……ですか」
脳裏をディーノの言葉がよぎる。
貴方は私がこの世界を救うべく呼び出した、尊きお方――……まさかそれが本当だとでもいうのだろうか。なんの特徴もない、この私が?
ヴィクトルが指を1本立てた。
「聖女は、この国において伝説的な存在なんだ。過去の記録では、数百年前、狂暴化した巨大な竜が国を滅ぼしかけたときに、国は禁忌を破り、聖女を異世界から召喚したとされている」
「竜……!?」
ヴィクトルは頷いた。
「今やこの国では物語として、民衆の間でも広く言い伝えられているね。異世界からやってきた聖女は、溢れんばかりの浄化属性の魔法で、次々と魔物を倒していき、最終的に1番悪い竜の討伐にも成功しました。彼女は自分がいなくなった後も、この世界が平和であるように、と大きな丸い岩にありったけの浄化魔法をかけると、魔物たちの側に置きました。この岩が、今も魔物が狂暴化するのを防いでくれています。めでたしめでたし……って」
ヴィクトルが私の方を真っ直ぐ見る。
「クリーム色の魔力は浄化属性の証。そして瞬時に石が割れたということは、それだけ大量の魔力を持っているということ……。君の特徴は、伝説の聖女と一致する」
私は言葉を無くしたまま、思考が追いつかず、ぽかんとヴィクトルを見上げていた。
え……?過去の聖女は魔物を倒してたってことは、何?つまり私も魔物を倒すために戦場に出されるってことですか……?
召喚された直後の戦いの様子を思い出す。あそこにもう一度立てと言われても、無理だ。それなのに、更に戦場に赴くなど、絶対に嫌だ。
「あの、私、戦いたくないです!」
ヴィクトルは片眉を上げた。そしてぐいっと前髪をかきあげた。かっこいい顔がちらりと見える。
「万が一戦うにしても、君が今すぐに戦場に出るということはないよ。訓練しなきゃだし、そもそも戦えるかも分からないしね」
ヴィクトルがにこりと微笑み、前髪から手を離す。
バサリとイケメンが隠れていった。
「とりあえず場所を移動しようか。移動しながらこの国の現状について説明するよ」




