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狼騎士団長をモフりたい!〜モフモフ大好きなのに動物がいない異世界に召喚されました〜  作者: 咲田陽


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35. 狼の魔物と、マリスの訪問


 初めての魔力欠乏かもしれない……!


 巨大な3つの部位に浄化の魔力付与を終えた私は、クラクラする頭をおさえながらグレイの腕の中で休んでいた。

 私を看病するグレイの耳がへにょりと垂れていて、申し訳ないのだが、非常に可愛らしい。

 私はグレイの耳をそっと撫でると、「栄養補給です!」と微笑んだ。


「ティア……」

 ぴこりと上を向いたその耳が、突然バッと横を向いた。

 そっと私を地面に寝かせると、グレイが立ち上がる。


「魔物だ!総員戦闘準備!」

 途端に和やかムードだった騎士たちの間に緊張が入る。

 全員が武器を取り出し、まだ姿の見えない魔物の襲撃に備える。


 濃い霧と奇石群の中、小さく、ハッハッと短く吐かれる音が聞こえてきた。それとカチャカチャと岩の上に擦れる爪の音。

 ……これって


 私の脳裏にグレイと出会ったときに襲われた魔物の姿がよぎった。


「相手は狼型の魔物だ!」

 と同時にグレイが叫んだ。

 何人かの騎士団員たちはそのグレイの言葉に不安の表情を見せた。


「団長は本当に斬れるのか?」

「狼相手には本気になれないって……」

 こんな状態でもヒソヒソと話す声が否応なく耳に届く。

 私は眉を顰め、その噂をしている騎士団員たちの方を見た。


 グレイが剣をカチャリと構えた。

 そこにドンピシャで、以前会ったやつよりもさらに大きな狼型の魔物が口を開けながら突っ込んできた。


「きゃあっ!」

 私は叫んで肩をすくませ、細目を開けて魔物の方を見た。


 そこから先はまるでスローモーションのように見えた。


 私たちの元へ突っこんでくる巨大な狼、そしてその喉目掛けて迷いなく剣を振り上げるグレイ。

 気がついた時には、魔物の首はその身体を離れ、血飛沫をあげながら空中に舞っていた。


 どちゃりと遠くに首が落ちる。

 グレイはそれを満足げに眺めていた。

 その美しい横顔に目が吸い付けられる。

 グレイは顔にブラックホールでも飼っているんじゃないだろうか。


 自然と周りから歓声が沸き起こり、場を包んだ。

 グレイは私の側に帰ってきて、そっと私の耳元に口を寄せた。


「君を襲う狼なんて、俺1匹で十分だからな」


 私の顔が、トマトよりも真っ赤になった。


 ――――――


「つっっっっっかれたー!終わったー!」


 遠足は家に帰るまで、というが、遠征も同じだと思う。

 見慣れた城の訓練場に着き、私は疲労で地面に大の字になった。


「ティア、汚れるぞ」

 そんな私をグレイが軽々と持ち上げた。

 騎士団員や魔術研究所の面々にとって、グレイが私といる光景は見慣れたものになってきているらしく、みなが皆私の状態のことはノータッチのまま、瘴気を消し去ったことへのお礼や祝福のみを笑顔で述べていく。


 まあそれもいいか、と私は苦笑いした。

 と、話もそこそこにグレイが私を抱えたまま、歩き出した。


「偉業を成し遂げ、ティアは疲れている。少し休ませてくる」

 この言葉を聞いた皆は、生暖かい目で私とグレイが立ち去るのを見送ってくれた。


「グレイ?」

 2人きりになった廊下で、まだ抱えられたまま、私は聞いた。


「こっちってグレイの部屋の方向だよね?」

「ああ、俺の部屋で休ませる」

 当然だとでもいうようにグレイが頷いた。

 それは……とお断りしようとしたが、グレイの次の一言で気があっさり変わる。


「尻尾を枕代わりにするといい」

「え!いいの!?やっった〜!」

 無邪気に喜ぶ私の頬をグレイがそっと撫でた。

 それにより、嬉しい気持ちを恥ずかしさが、再び上回っていく。

 無言で固まってしまった私を見て、グレイふっと笑った。


「ティアは本当にかわいいな」


 廊下の奥の部屋のドアを開け、中にある大きなソファにそっと降ろされる。

 今更離れがたくなって、私とグレイはお互い顔が赤いまま、無言で抱きしめあっていた。


 私はグレイに伝えようと思っていたあることを思い出し、グレイの方を向いた。

 しかしその瞬間、部屋のドアがノックされ、2人して大慌てでお互いから離れる。


「んんっ……入れ」

 グレイが一度咳払いをした後、声をかけると、ドアが開いた。

 中から顔を覗かせたのは……マリスだった。


「えっ、マリス?」

 驚き、思わず私はソファから立ち上がって、数歩ドアに近づいた。


「どうしたんですか?」

 いつもの気の強そうなマリスはそこにはおらず、今私たちの目の前に立つマリスの肩は狭められ、怯えたように両手を胸の前に持ってきていた。全体的に弱々しく、疲れ切った気配を醸し出している。

 

「あ、あの私、ティアが瘴気の原因を無くしてくれたって聞いて……」

 おずおずと喋っていたマリスだが、急にガバリと頭を下げた。


「私、今までのこと謝らなくちゃって思って……本当にごめんなさい!あの、これ」

 マリスがグッと私にあるものを押し付けてきた。

 手元を見ると、それは真っ赤なポーションだった。

 グレイが満月の夜に、人の姿に戻るために飲むポーションだ。


「ほら、今夜は満月じゃない?疲れてるティアは作るの難しいかな?と思って作っておいたの。これで全部の罪が消えるとは思わないけど、気持ちだけでも受け取ってもらえると嬉しいな……。あ、じゃ渡せたし、私もう行くわね。あとは楽しんで〜!」


 言いたいことを早口でババッと、口を挟む間もなく言い切ると、マリスはそそくさと退散し、バタンとグレイの部屋のドアを閉めた。


 数秒驚きに固まっていた後、ハッとして我を取り戻す。

 私は手元にある、マリスから手渡された瓶を、チャポリと揺らした。


「ええと……今日って満月でしたっけ……?」

 覚えてないや、と目を細め苦笑いする。

 グレイも気まずそうに肩をすくめた。

 

「危ない、そうだとしたら、俺の頭からもすっぽり抜け落ちてたみたいだ。竜のことで頭がいっぱいになりすぎたな」

 グレイは私の手からスッとマリスのポーションを受け取った。


「あ、飲みますか?それ。もしよかったら私が作った方が……」

 他の女性が作ったものをあまり飲んでほしくなくて、つい言葉が口から出てしまう。

 だがグレイが私の頭をそっと撫でた。


「でもティアが今日とても疲れているのは事実だろう?こういうのを飲むのは今回だけにするから、次からはティアが作ってくれ」

「……分かりました」

 私は力無く笑いながらこくりと素直に頷いた。


「うん、よろしく頼む」

 にこりと微笑んだグレイが、グッと真っ赤なポーションを煽った。

 このポーションは狼の姿になる前に飲んでも、その効力を発揮する。夜も狼に変身せずに、人の姿のままでいられるのだ。

 グレイは大きなひと口でそのポーションを嚥下する。


 ドクン


 私にも聞こえる大きさで、グレイ心臓が脈を打った。


「なんっ……だ、こ、れ」

 

 急にグレイが目を見開き、心臓を押さえ、震え始め、床に倒れ込んだ。

 その手から滑り落ちたポーションの入っていた空の瓶が、パリンという音を立てて割れた。

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