20. 授与式
「ティア!どこいるかと思ったよ。もうそろそろ王様がいらっしゃるらしいよ」
お酒を飲んだのだろう、仄かに顔を赤く染めたヴィクトルが私を視界に収めると上機嫌に微笑んだ。
ヴィクトルが言い終わると同時に、ラッパの音が大広間内に響き渡り、人々が拍手をし始める。
お、とヴィクトルが眉を上げた。
「ほらティア、前に行くよ」
小声でヴィクトルに前へと促され、数歩前に進む。周りの人達も、私が受章すると知っているのか、私たちが行く道を空けてくれた。
「国王陛下、ご入来!」
力強い声と共に、1人の男性が大広間に姿を現した。
長く赤いマントに、頭の上には王冠。まさに王様という出で立ちだ。王様は、190cmくらいの胸板の厚い大きな男性だった。大きくキリッとした丸い目に、ツンツンした金髪が後ろに撫でつけられている。
「あれが、イーライ国王陛下だよ」
ヴィクトルと拍手をしながら、陛下をお迎えする。
陛下は丸く力強い目をこちらに向けた。
「!」
思わずビクリとしてしまう。
「流石、王様は既にティアをご存知のようだね」
ヴィクトルがこそりと呟く。
国王陛下は、周りを見渡し、祝福の言葉を述べる。その後件の戦場で手柄をあげた人々が何名か名前を呼ばれて受章した。その中にはグレイ姿もあった。他の人に倣い、手を叩き、祝福する。グレイの時、周りの女の子たちが、ほぅという感嘆のため息を吐いていた。きっとグレイの美しさに見惚れてのことだろう。
わかるわ〜と思いながら油断していたら、次に、ヴィクトルと私の名が呼ばれた。
緊張でかちこちになりながらも、ヴィクトルに軽く背中を押されながら、前に出て、国王陛下から勲章を受け取る。勲章は、小さな黒い箱に収められている、金色の花のような形の金属音に、青いリボンがあしらわれたものだった。
ぺこりとお辞儀をし、離れようとしたら、割れんばかりの拍手音が鳴り響く中、国王陛下がそっと口を開いた。
「ティア、召喚に応じてくれて、感謝している。君を迎えられたことは、我が国にとってこれ以上ない誉だ」
国王陛下はにこりと微笑んだ。
「妻も君に礼を言いたがっていたのだが……身重な身体でね。残念がっていたよ」
「それは、おめでとうございます。私の仕事がこの国のお役に立てて幸いです」
私は再びぺこりとお辞儀をすると、ヴィクトルに場所を空けるために後ろへ下がる。
別に召喚に応じたつもりはなく、無理矢理連れて来られたんだけどな、と私は内心むくれていた。
脳内で、私の召喚者であるディーノの顔を思い浮かべる。召喚されてから数日後、ディーノは元公爵家出身で、その為闇魔術の資料なども持っていたのだと判明したと聞いた。ディーノは、公爵家から縁を切られていた身だったので、その公爵家には直接の処罰は下らないことになったそうだ。
公爵家としても、身内から闇魔術に傾倒した者が出てしまったことは隠したいだろうし、きっとその他の様々な人の思惑が絡み合い、結果国王陛下には正しい情報が伝わらなかったのだろう。
あーあ!階級社会って面倒くさいわ。
私は早くこの舞踏会が終わってくれないかな、と思いながらヴィクトルが国王陛下に勲章を渡されているのを、拍手しながら見守った。
――――――
授与式が終わると、ダンスが始まった。
舞踏会は未婚の男女にとって出会いの場にもなっているらしく、私の周りでは若い男女がキャピキャピお互いの様子を伺い合い、見事に成立したカップルから手を取り合って大広間の真ん中に歩いていく。
一方踊る気の一切ない私は、色とりどりの食べ物が並べられているテーブルの方へ向かおうとしたのだが……
「あらティアさん、あなた、ダンスは踊らないの?」
出たな!マリス!
マリスがどこからともなく現れ、私の隣に立った。マリスはいつも以上に背中を反らしており、でかいお胸が自己主張している。
「私は遠慮しようかなと思っています。それよりも少し空腹になってしまったので、何か食べてこようかと」
「もう、これだから色気より食い気の子は困るわ〜。あ、それとも誰からも誘われなかったのかしら?」
うるさい!
マリスから向けられる哀れみと嘲笑の姿勢を全力で無視しながら私はお皿を手にとった。
やけ飯じゃ〜!とご飯を好きなだけ取ったあと、やっぱり体型が出てるドレスを着てるんだし、少しだけにしとけば良かったかもと後悔しながら空席を見つけて座る。
はあ、とため息をついて、私は辺りを見渡した。
こっそり探しているのは……いた!ぴょこりと動いている素敵な狼耳の持ち主、グレイである。
グレイは身長が恐らく190cmくらいあり、周りの男性と比べても頭一つ分くらい抜けている。そこにさらに狼耳が突き出ているので、見つけやすさは抜群だ。
私は銀髪の上のお耳をしばらく見つめ、モフモフ想いを馳せて、自分で自分の機嫌を直した。
やはりモフモフは癒しにいい。いいなあ、また動物にいつか触りたいよ……。
そしてふとグレイの腰辺りに目を向ける。今日の服装なら、尻尾が生えていないか確認できるかな、と思ったのだ。
残念ながら、グレイは正面を向いていたので、私はグレイの股間を確認しただけの不審者になってしまった。
慌ててグレイの頭の上に目線を戻そうとして、思わず固まってしまう。
グレイと目が合ったのだ。
もしかして見てたのバレてた!?
カッと顔が赤くなり、私は勢いよく顔を逸らした。
考えてみれば、私が眺めている間、狼耳はこちらに向けられたまま殆ど動いていなかったし、ひょっとして最初に目を向けた時から、グレイに把握されていたのかもしれない。
狼耳に意識を取られすぎた〜!
まだ顔がほてっているのを感じながら、私は勢いよくパスタを口に入れた。
「ティア、デザートも絶品だよ、あとで持ってきてあげようか?」
近くに座っていたヴィクトルが、にっこりと笑いながら、ワイン片手に能天気な声を上げた。




