13. ヴィクトルの部屋へ
気づかれないだろうが、一応ヴィクトルにお辞儀をすると、私は帰路についた。
帰路と言っても私の部屋は城内にあるので、幾つかの廊下と階段をこえるだけである。
部屋に入り、寝巻きを掴むと再び部屋を出て、城の従業員が共用で使っている大浴場へ向かう。
大変な1日だった。寝る前に早くさっぱりしたい。
城内の雰囲気をより開放的にして造られている、広い大浴場には誰もいなかった。その為私は砂埃で汚れてしまった服を豪快に脱ぎ、ボサボサを髪の毛から幾つかの小枝を取り除きながら湯に向かう。
シャワーから出てくる魔法で温められた湯で身体を洗ってさっぱりしてから、私はザプンとお湯に身体を沈めた。
「あ〜疲れた〜!」
大きな私の独り言が部屋の中で微かに反響しながら消えていく。この世界にお湯に浸かる文化があって良かった。
私は肩まで身体をお湯に沈めると目を閉じた。
今日だけで、様々なことがあった。けど……落ち着いた今、脳内に浮かんでくるのは……
「やっぱり団長さん、獣の耳が生えてたよねえ……」
銀髪の美男子の上に聳え立つ、1対のふわふわなお耳である。
かっこいい人の上にかわいいものが付いているというビジュアルの破壊力が強すぎて、全然頭から離れてくれない。
「団長さんはやっぱり人間じゃないのかな……。獣人がこの世界には存在する……?」
脳内で様々な種類の獣人たちをイメージする。
ふんわり長い耳のウサギの獣人さんに、黒く長い尻尾の黒豹さん。私の中でどんどん夢が広がっていく。
ここは、動物はいないけれど、魔物と獣人は存在する世界なのかもしれない。
「……そういえば団長さんには尻尾あるのかな?」
思い返してみたその臀部は分厚い鎧に覆われている。これでは尻尾の存在は確認できない。
って人の尻に、あんな美男子の尻に想いを馳せてるのって変態っぽ……。
少し顔が赤くなった私は、お湯の中に口元まで沈めた。
ヴィクトルと団長さんは、少し複雑そうではあるが、仲は良さそうだった。
明日になったら、ヴィクトルに団長さんのことを色々聞いてみよう。
私はそう決心すると、ザパリとお湯から上がった。
――――――
「ティア。ちょっと2人で話したいんだけど、時間いいかな?」
翌日、いつヴィクトルに話しかけようかとタイミングを見計らっていたら、ヴィクトルの方から私に話しかけてきた。
「はいっ!ぜひ!」
席から弾かれたように立ち、勢いよく返事する私を、(こいつ……まさか……!?)という目で、離れたデスクの先からマリスが睨んでくる。
安心してください。ヴィクトルに気はありません!!!私はただただケモ耳で頭がいっぱいなだけです!
私はマリスの視線を無視してヴィクトルの方を向いた。
「どうしたんですか?」
「昨日の、武器とポーションについて話したいことがある」
「分かりました」
歩き出したヴィクトルの後を追う。
部屋を出てしばらく歩くと、ヴィクトルは肩をすくめて軽くため息をついた。
「あまりマリスにこの内容は聞かせない方がいいかなと思って」
そう言ってヴィクトルが話し始めた内容は、主に私を褒め称える内容だった。
私の作るポーションは、他のポーションと比べると、効果が高いらしい。中に込められた浄化の魔力の純度が違うのだろうとヴィクトルは話していた。
他のポーションは、飲むと軽い怪我は治せる程度の効力しか持たないが、私が作ったポーションは、すぐに飲めば身体の欠損すら修復したという。
「え!というか、そんな大怪我の人もいたんですか」
私は自分の顔からサァッと血の気が引いていくのがわかった。
ヴィクトルはゆっくり頷く。
「君も会ったろう、リリーの兄がそうだった」
私は昨日の出来事を思い出してみた。確かにリリーの兄は腕から血を流していたが……まさかあのとき腕が取れていた?
私の顔色が悪くなっていくと、ヴィクトルは慌てて手を振った。
「心配することはない。言っただろう、リリーが持ってきていた君の作ったポーションを飲んだら、みるみるうちに切れた腕が生えてきたらしい。今は腕がなくなった直後とは思えない程の健康体だそうだ」
「!」
私は顔をぱあっと明るくした。そうか、治りはしたんだものな。良かった。
「ついでに落ちた方の古い腕は、戦場でそのまま放置していたら魔物に喰われたらしい」
「そんな情報いらないです……!」
私が再び顔を歪めると、ヴィクトルはふっと笑った。
「でもそのおかげで、魔物が腕をぱくついてる間に首を斬れたそうだよ」
「それは今回たまたまです!」
私はふんと息を吐きだすと、「私のポーションがよく効いて良かったです!」と話を締めくくった。
正直、もう血生臭い話は聞きたくない。
私がポーションの話を終わらせると、ヴィクトルは今度は武器の話を始めた。どうやら武器の効果も、素晴らしかったそうだ。なんとその武器で斬った魔物の死体からは、瘴気が浄化されて消える為、後処理も楽になるらしい。
「君本人が使う時よりも攻撃力とか効果は落ちるみたいだけど」とヴィクトルは肩をすくめた。
「まさか私が攻撃しなきゃダメとかで、戦場に出ることになったりはしないですよね……?」
恐る恐る聞くと、ヴィクトルはにこりと笑った。
「ああ、それは余程のことがない限り、ない。確かに君が扱った時の威力は垂涎ものだが、それは君の命あってこそだ。君以外の者でも武器は扱えるし、君にはポーション作りの方もお願いしたいからね。昨日はイレギュラーがあったが、もう君を進んで前線に出すことはないだろう」
「良かったです……!あ、そのかわり、ポーションと武器への魔力付与は今まで以上に頑張りますのでっ!」
私は力こぶを作ってみせた。
「はは、かわいい力こぶだな。これじゃ戦場に出せないよ。助かるけど、いつも言っているように、無理だけはしないように」
ヴィクトルはちょんと私の微かに見える力こぶを指でタップすると、明るく笑った。きっと対子供モードに突入しているだけなのだが、この歳でそのような対応をされると照れる。
「そういえば、これも言っておかないと」
ヴィクトルは笑うのを止め、ピタリと足を止めると、私の方を見て深々と頭を下げた。
「グレイを救ってくれてありがとう。きっとティアがポーションを飲ませていなければ、アイツは死んでいた」




