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ロストユースに青を知る  作者: 志結
第一章
8/41

第七話《美生の夜》


タクシーで家に帰宅した美生は、家族との団欒と食事を終えた後、部屋で一人篭っていた。

スマホを取り出し、ブログに投稿する文章を入力していく。

彼女にとってはステージに立っている時よりも、この時間の方が重要だと言っても過言ではない。


【生放送でした!!


 みなさんこんばんは〜!

 今日は音楽番組のミュージックホリデーに

 出演させていただきました!


 久しぶりの生放送で緊張したよ〜。゜(゜´ω`゜)゜。

 でもみんなに笑顔を届けなきゃって

 精一杯頑張りました!


 発売中の新曲

 いっぱいいっぱい聞いてくれると嬉しいな♡


 そして、先日遂に

 BLUE BIRTHの五周年ライブツアーが

 無事ファイナルを迎えることができました!


 デビューしてからもう五年も経つなんて

 なんだか信じられないし

 ステージに立ちながら

 これまでのことを思い出して

 泣きそうになっちゃいました


 芸歴もない状態でオーディションを受けて

 まさかメンバーに選んでいただけて

 初めてステージに立った時のこととか


 本当のことを言うとね?

 デビューが決まってから

 初ステージに立つのがずっと怖かった


 みんなに受け入れてもらえなかったら

 どうしようとか

 このままアーティストとして

 やっていけるのかって

 不安で眠れない日もあった


 だけどみんながたくさんの歓声をくれて

 今もこうしてずっと応援してくれて

 辛くて苦しくて逃げ出したいことがあっても

 みんなの声がずっと私を支えててくれたの


 今はブルバでの歌って踊ってのお仕事に加えて

 MIO個人として雑誌やモデルのお仕事も

 させていただけるようになって

 本当に本当に幸せです


 これからもMIOを支えてください


 ずっと大好き♡】


ブログを投稿してすぐに、イイネやコメントが付く。


【タク

 みおちゃん生放送お疲れ様!

 デビューしてからずっと

 MIOちゃんを推してて良かった!

 これからも応援するよ!】


【まさひろ

 MIOが世界で一番好きだよ!

 愛してる!】


文面から嬉しそうなテンションが伝わり、美生も頬が緩む。

そして、一人一人のコメントに返信をしていく。


【タクさん、いつもコメントありがとう!

 ずっと推してくれてて本当に嬉しい!

 これからも応援してね♡】


【まさひろさん、いつもコメントありがとう!

 MIOも世界で一番好き!

 MIOも負けないくらい愛してる♡】


毎日のブログ投稿に、毎日のコメント返信。

ファンの人の名前だって覚えてる。

ファンの人だって、覚えてもらえたら嬉しいだろうから。

始めたばかりの頃は、コメントしてくれた全員に返信をしていた。

今では有難いことに多くなりすぎて、時間が許す限りになってしまったけれど。

そんな努力もあって、彼女のブログはメンバーの中で最も閲覧数とコメント数が多かった。

テレビの向こう側のスターが、自分の名前を呼び自分にだけの言葉を送ってくれるのだ。

ファンからしたら堪らないだろう。

だがもちろん、好意的なコメントをくれる人ばかりではない。


【ゆう

 こいつのぶりっ子まじで見てて気分悪い

 あざとさにも限度があるわ

 UMIの方がよっぽど可愛いしいい女】


悪意が伝わってくるようなその文面に、美生は先程とは打って変わって息を止めた。

そのコメントに、心が凍りついていく。


「なんで……そんなこと言うの……なんで……っ……」


呼吸が浅く、早くなる。

頭に血が登って、クラクラしてくる。

体が酸素を求めて、もっともっとと必死に息を吸おうとしてしまう。

過呼吸の一歩手前の状態だった。


「やだ……やめて……いや……」


呼吸が落ち着くのを待つ前に、美生は先程とは違うスマホを手に取った。

所謂裏アカウントで、先程のアンチコメントを引用し晒す。


【MIOのアンチコメした奴

 こいつを許すな】


その投稿は瞬く間に伸び、美生のファン達からその人物への攻撃が始まった。


【おまえ鏡見た?

 おまえなんかよりMIOのが一億倍顔良いから】


【こいつの学校と住所特定した、晒すわ】


【中坊かよw

 とりま学校に退学させろって電話入れるわ】


【友達いねぇんだろうな、可哀想に】


【なんで生きてんの?

 さっさと死ね】


あらゆる誹謗中傷が、顔も知らないその人物を攻撃していく。

それはとても、気分が良かった。

呼吸が落ち着いて、ちゃんと息が吸えるようになる。

そこまでの状態になって、美生は再び、先程のブログ投稿用のスマホを手に取った。

そして注目度が高まっている中、そのアンチコメントに返信をした。


【ゆうさん、コメントありがとう

 気分を悪くさせちゃってごめんなさい

 ゆうさんにもいつか

 好きになってもらえるようにもっと頑張るから

 嫌いにならないで欲しいな】


その直後、ブログの閲覧数が劇的に増えていった。

そしてアンチコメントと美生の返信はあらゆるところで切り抜かれ、世間に晒されていった。


【こんな奴にも誠意を持って

 コメ返するMIOがいい子すぎて居た堪れない】


【MIOは俺達が守る】


【今こそファンが一丸となるべき】


ファンのコメントで自尊心を取り戻し、最後の仕上げにかかる。

次は別のSNSに、短い文を投稿する。


【頑張るのって、辛いな

 明日撮影なのに瞼腫れちゃいそう】


意味深な投稿に、ファンが心配して次々とコメントをくれる。


【MIOちゃん泣かないで。大好きだよ】


【変なこと言ってくる奴は気にしないで

 俺達はみんな味方だよ】


【MIOのこと一生守るよ

 生きていてくれてありがとう】


皆が庇ってくれる。

自分は悪くないと、悪いのは美生を悪く言う奴だと。

これほどに幸福感を感じられることはない。


暫くして、再び先程アンチコメントをした人物のアカウトを覗くと、アカウントが消されていた。

それでも世間は彼を許すことは無く、ネット上での誹謗中傷は数日間止まなかった。

勝った、と美生は思った。

当然美生は被害者なのだが、その人物を吊し上げることでより多くの信頼を勝ち取った。

一人の人間の人生を、優越感を得る為の道具にした。

芸能界にいる以上避けることのできないアンチの声を、美生はこうすることで乗り越えてきた。


「そうよ……みんな美生の味方なんだから……。美生を選ばないあんたが悪いのよ……」


美生のファンの結束は強かった。

ファンの目から写っている美生は、気弱で控えめで真面目で、思ったことを口にできなくて、全部一人で抱えようとしてしまう頑張り屋さん。

誰かに支えてもらわないと生きていけない、小動物のような存在だ。

自分達は美生本人に選ばれた人間で、なんとしても美生を守らなければという使命感に駆られている。

だからこそ、美生を守る為ならなんでもした。

それが例え、誰かの人生をめちゃくちゃにするものだとしても。

自分達がしていることを、愛する人を守る正義と疑わなかった。


「みんなありがとう……大好き……」


弱さは、心地良い。

誰かに守ってもらえる人生は、とてもラクだ。

美生はファンのことを大事に思っていたし、美生のファンでいることを誇りに思って欲しかった。

六人の大人気グループだとしても、その中で一番に自分を見て欲しかった。

そして自分のファンになったからには、絶対に後悔させない。

故に推し変なんて許さない。

このグループで一番自分を好きだと言ってもらえれば、自分に自信が持てると思った。

自分を好きになれると。


全ては、選ばれる為に──。


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