第七十一話《合わせ鏡》
重い扉を開けて、演奏が止まる。
その姿を振り返って、彼らは微笑んだ。
「海じゃん! どうしたんだよ珍しい!」
燈が練習するスタジオを訪れた海は、蒼の声に、優しく笑って答えた。
「ちょっと、端っこの鏡を借りに」
海が冗談めかして笑うと、彼らも顔を見合わせて笑った。
懐かしい日々を思い出して、あの頃に時間が巻き戻る。
「いいぜ。端っこと言わず真ん中来いよ。またみんなで踊ろうぜ」
「海! 俺新しいステップ覚えたんだよ! 見てくんね?」
「俺も俺も! あとあれも教えて! 蹴ってかっこ良くしゃがむやつ!」
「ったくおまえら、サボりてぇだけだろ。しゃーねぇ、じゃあダンスバトルでもおっ始めるか」
楽器を置いた彼らが、こぞって鏡の前に集まる。
自分を映し出すその硝子に、真正面から、逃げずに向き合う。
これも、あの頃と同じ光景だった。
「負けた奴が、この後飯奢りな」
「いいじゃん! 俺焼肉食いてぇ!」
「って、昨日も焼肉食ってただろ」
「いやいや、海に奢ってもらう肉は格別なんだって!」
「ちょっと、なんであたしが奢ることになってんですか!?」
「すげー自信じゃん。勝てんの? 俺らに」
腕を組んで不敵に笑う、双子と幼馴染コンビ。
強敵だが、本業のダンスで負けるわけにはいかない。
それに今の海は、かつてない自信に満ち溢れていた。
「負けるわけないじゃないですか。だって、あたしですよ?」
それは見せかけの虚勢ではなく、心の奥底から湧き上がる、確かな自信だった。
──自分を知って、弱さを知った。
だからこそ、本物の強さの意味を、今は知っている。
「ヒュー! 言うじゃねぇか! やっぱ海はこうでなくっちゃな!」
「ホントにいーのー? 俺らだって、あの頃より成長してるよ?」
「よっしゃ、ボコボコに負かす」
「ジョウは手加減を知らないからなぁ。ま、俺もやるからには本気出すけど」
「上等ですよ。返り討ちにしてやります」
彼らに焚き付けられて、海は踊った。
軽々とステップを踏んで、その体に身につけた技術を、如何なく発揮していく。
それに負けじと喰い着いてくる彼らも、また楽しそうだった。
踊りながら、海は思った。
──これが終わったら、話をしよう。
蒼と翠が聞かせてと言ってくれた、忘れてしまっていた人のこと。
二人が言ったように、忘れないように、たくさん話をしよう。
そして、自分にもできたのだと、そう伝えたい。
あの頃、彼らが羨ましいと嘆いた、欲しかった仲間。
意地っ張りで、横暴で、そのくせ傷付きやすくて不器用な、大切な五人の仲間ができたということを──。
そう思った瞬間、何故か一筋の涙が、頬を伝った。
「……あれ?」
思考より先に、体が動く。
この体に刻まれた記憶をなぞるように、まるで懐かしい誰かを想うように、その涙は何かを訴えかけていた。




