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ロストユースに青を知る  作者: 志結
最終章
72/83

第七十一話《合わせ鏡》


重い扉を開けて、演奏が止まる。

その姿を振り返って、彼らは微笑んだ。


「海じゃん! どうしたんだよ珍しい!」


燈が練習するスタジオを訪れた海は、蒼の声に、優しく笑って答えた。


「ちょっと、端っこの鏡を借りに」


海が冗談めかして笑うと、彼らも顔を見合わせて笑った。

懐かしい日々を思い出して、あの頃に時間が巻き戻る。


「いいぜ。端っこと言わず真ん中来いよ。またみんなで踊ろうぜ」

「海! 俺新しいステップ覚えたんだよ! 見てくんね?」

「俺も俺も! あとあれも教えて! 蹴ってかっこ良くしゃがむやつ!」

「ったくおまえら、サボりてぇだけだろ。しゃーねぇ、じゃあダンスバトルでもおっ始めるか」


楽器を置いた彼らが、こぞって鏡の前に集まる。

自分を映し出すその硝子に、真正面から、逃げずに向き合う。

これも、あの頃と同じ光景だった。


「負けた奴が、この後飯奢りな」

「いいじゃん! 俺焼肉食いてぇ!」

「って、昨日も焼肉食ってただろ」

「いやいや、海に奢ってもらう肉は格別なんだって!」

「ちょっと、なんであたしが奢ることになってんですか!?」

「すげー自信じゃん。勝てんの? 俺らに」


腕を組んで不敵に笑う、双子と幼馴染コンビ。

強敵だが、本業のダンスで負けるわけにはいかない。

それに今の海は、かつてない自信に満ち溢れていた。


「負けるわけないじゃないですか。だって、あたしですよ?」


それは見せかけの虚勢ではなく、心の奥底から湧き上がる、確かな自信だった。

──自分を知って、弱さを知った。

だからこそ、本物の強さの意味を、今は知っている。


「ヒュー! 言うじゃねぇか! やっぱ海はこうでなくっちゃな!」

「ホントにいーのー? 俺らだって、あの頃より成長してるよ?」

「よっしゃ、ボコボコに負かす」

「ジョウは手加減を知らないからなぁ。ま、俺もやるからには本気出すけど」

「上等ですよ。返り討ちにしてやります」


彼らに焚き付けられて、海は踊った。

軽々とステップを踏んで、その体に身につけた技術を、如何なく発揮していく。

それに負けじと喰い着いてくる彼らも、また楽しそうだった。


踊りながら、海は思った。

──これが終わったら、話をしよう。

蒼と翠が聞かせてと言ってくれた、忘れてしまっていた人のこと。

二人が言ったように、忘れないように、たくさん話をしよう。


そして、自分にもできたのだと、そう伝えたい。

あの頃、彼らが羨ましいと嘆いた、欲しかった仲間。

意地っ張りで、横暴で、そのくせ傷付きやすくて不器用な、大切な五人の仲間ができたということを──。


そう思った瞬間、何故か一筋の涙が、頬を伝った。


「……あれ?」


思考より先に、体が動く。

この体に刻まれた記憶をなぞるように、まるで懐かしい誰かを想うように、その涙は何かを訴えかけていた。


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