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ロストユースに青を知る  作者: 志結
最終章
71/83

第七十話《宿り木》


「ブレーメンの音楽隊だな」


ある昼下がり。

社長室で陽七星と話していた頼人は、機嫌良さそうに言った。


「ブレーメン? 童話か?」

「そそ。グリム童話だね。それぞれ別の夢を持って集まった動物達が力を合わせて、最終的には、目指してた所とは違う場所に居座った。それもまた、ハッピーエンドってね」


それが彼らと同じだと、頼人は言いたいのだろう。

ハッピーエンドという単語に、陽七星はまるで終わったかのような物言いが気に入らないと、口を曲げた。


「で、ハッピーエンドのその先は?」

「さぁ。そこで奴らも、奴らなりの幸せを見つけるんだろ。つまり……」


未来を見据えるように、頼人は陽七星の瞳をまっすぐ捉えた。


「その先の物語を作るのは、おまえ達だ。期待してるよ」


童話のような、ハッピーエンドは存在しない。

何故なら、彼らの物語は、まだ続いていくのだから──。


思いっきり格好を付けて言い放った頼人は、その後、何か思い悩むようにして顎を触った。


「なんだよ」

「いや……今更だけど、ブレーメンとかでも良かったかもなって、ユニット名。それか童話系でいくなら、ブルーバードもアリか。幸せの青い鳥」


深刻そうな顔をして何を言うのかと思いきやと、陽七星は呆れて溜息を吐いた。


「そんなの今更言われても。今のままで良かったよ。動物のコスプレさせられるのが目に見えてる」

「ははっ。いいじゃないか。その時は、泥棒役は俺が務めよう」


頼人が笑い声を上げた時、テレビに映る、あるニュースが目に飛び込んできた。


「次のニュースです。映画監督の柏木隆容疑者が、未成年者への性的暴行の疑いで、逮捕されました」


その報せに、陽七星は動揺を隠しきれず狼狽えた。


「……え、これって……」

「んー?」


動じないその声に視線を向けると、頼人は勝ち誇ったような余裕の笑みを浮かべていた。

その策略家のような様子に、ある疑念が浮かび上がる。


「まさか……」

「さぁ、なんでだろうなぁ。やっぱ童話と一緒で、悪いおじいさんは懲らしめられる結末なのかな。はい、めでたしめでたし」


和かな笑顔でおちゃらけてみせる頼人の表情に、陽七星はぎょっとして身震いした。


「おまえって、本当に容赦ねぇよな」

「いやいやぁ、誤解だって。俺は容赦ないんじゃない。執念深いんだ」

「こわすぎ」


頼人の発言に、陽七星は今度こそ背筋が凍った。

この人を怒らせないようにしようと、そう心に誓って──。


ただ、その執念深さがあったからこそ、彼は業界トップクラスの、芸能事務所社長という地位まで登り詰めたのだ。

かけがえのない、唯一無二の友人を護る為に。


「まぁこれで、いつでもおまえが映像演劇に戻れる環境が整ったわけだ。あとは、おまえ次第だな」


いくら幸せを運ぶ青い鳥だって、自らが幸せでなければ、誰かを幸せにすることなんてできない。

嵐のような風の中を飛び続ける彼らには、翼を休める宿り木が必要だ。


──俺が、そうなろう。

戦い続ける彼らが疲れた時に、安心して心を休められる宿り木のような、そんな拠り所になろう。

そんなことを、頼人は考えていた。

ヒーローにはなれなくとも、救世主にはなれなくとも、彼らの一番傍で、悪役を買い続けることはできるだろう。


「ま、やってみるよ。あいつらも各々頑張ってるし、負けてらんねぇからな」

「……そうか」


自分のこと以外興味が無かった陽七星が随分成長したもんだと、頼人は嬉しくなって笑った。


「ひな」


親愛を込めて、彼の名前を呼ぶ。


「よかったな」


慈愛に満ちた表情で、それでも僅かに寂しげな表情で、頼人は陽七星を見据えた。


その寂しさの正体は、幼かった雛鳥が、手から離れていくような感覚なんだろう。

それでも今の陽七星は、ちゃんと憶えている。

頼人が昔から知るひなの面影を引き連れて、これからも大人になっていくことだろう。


「何がだよ」

「いい仲間になれたんだな」


頼人のその言葉に、陽七星は思春期の子供のように、思わず照れ隠しをする。


「……ただの腐れ縁だけどな」


それぞれの目的の為に、偶然同じ場所に集まっただけの同業者。

性格はまるで違い、気も合わない、口を開けば喧嘩ばかりの六人だ。


しかし今は、同じ方を向いている気がする。

仲良く互いの顔を見合わせることは無くても、隣に立って、肩を並べて同じ夢に向かって歩いている。

BLUE BIRTHというこの居場所を護る為に、自分自身の誇りを護る為に。

そして、誰かとの約束を護る為に──。


こうしてみると、確かにブレーメンの音楽隊のようなのかもしれない。


「腐れ縁でも、それも大切な縁には違いないさ。おまえらを繋げてくれたその『縁』とやらに、感謝しないとな」


思い出せない、それでも彼らの中に確かにあった何か。

それを頼人は、『縁』と呼んだ。


『……おまえは……誰だ?』


──名前が分からないなら、名前を付けてしまおう。

黄昏時に暗くて顔の見えない相手に、『誰そ彼』と尋ねたように──。

思い出せないのなら、『縁』という俺達を繋いだ絆として、それを呼ぶことにしよう。

そうすれば、きっと、忘れずにいられる。

いつかまた会えた時、『久しぶり』と言って、肩を叩き合うことができるだろう。

どこかに繋がっている、この青空の下にいる限り──。


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