第六十六話《選択》
飛ばされたその先には、メンバーの六人全員がいた。
そして目の前に佇むのは、冊子で見た、大きな青い鳥居だ。
「……綺麗……」
この世の全ての青を溶かして混ぜたような、そんな濃い青色をしていた。
朝を迎え、白み出した空に、その青がよく映える。
頑丈そうな太い柱に、威厳と風格のあるその佇まいに圧倒され、思わず感嘆を零した。
その瞬間、うみなの姿が、白く薄くなっていった。
今にも消えてしまいそうに、透き通っていく。
「え!? どうして!?」
周りを見回すと、他のメンバーも同じ現象に狼狽えていた。
そこに姿を現したのは、葵瑞だった。
「時間だ。この鳥居を潜って、こいつらは成仏する。空に還るんだよ」
全てを知っているかのような口振りで、葵瑞は促すように彼らを見やった。
その途端、鳥居の下に光の扉のようなものが現れる。
光の先の景色は、見ることができない。
「……成仏? もう、一緒にいられないの?」
「呪いを解いたんだ。この鳥居を潜れば、無事儀式は終わる。成仏して、ここでの記憶も消える」
その言葉に、反論するように陽七星と美生が声を上げた。
「は!? 消えるってなんでだよ!」
「また、忘れちゃうってこと?」
「……そうだな」
無情に答える葵瑞に、堪らず勇為も口を挟んだ。
「なにそれ……! 成仏しないとどうなるの? 今みたいに、このまま傍にいるのじゃダメなの?」
「……本来生きてる人間が、子供の魂に会うのは御法度なんだ。あの5000本の鳥居を潜って対峙した時点で、この鳥居の門が開く。誰かがここを潜って扉を閉めないと、魂は行き場を失って、この世を彷徨い続けることになる。こいつらは、また一人ぼっちだ」
「……そんな……!」
容赦なく突き付けられた選択に、織は絶望し口を押さえた。
──こんな選択しかないのか。
こんな結末しかないのか。
ようやく大事なものを取り戻せたのに、また、忘れてしまうのか。
あの日の誓いを、綺麗さっぱり忘れてしまえたように──。
困窮し立ち尽くすことしかできない彼らの中で、伶が一人前に出た。
「……誰かが潜ればいいんだろ? 俺が行く」
伶の言葉に、全員が驚き彼を見た。
それは、子供を庇う大人の姿だ。
その様子に、皆も希望の出口を見つけたように、目を光らせた。
「俺もだ! ひなの代わりに俺が通る!」
「あたしも行く! この子を護る為に、なんだってするって決めたの!」
陽七星と海も、伶と同じように前に出た。
「美生も! 忘れるなんてもう嫌!」
「私も!」
「僕だって行くよ! もう、間違えない!」
全員が覚悟を決めて、鳥居に向かって前に出た。
その様子に驚きながらも、葵瑞は冷笑して言い放つ。
「……馬鹿か。この鳥居を潜れるのは魂だけだ。おまえらみたいな生きてる人間が通ったところで、なんの意味もない」
「……でも……! だって……!」
葵瑞に再び絶望を突き付けられ、彼らは拳を握って項垂れた。
──本当に、何もできないのか。
何もできずに、また繰り返すのか。
あの地獄のような日々を。
また忘れて、また馬鹿な真似をして、また絶望を繰り返すのか──。
「……だからな……」
漂う絶望の中、今度は葵瑞が、鳥居の正面に一歩踏み出した。
「俺が行く」
「「……!?」」
葵瑞の不可解な発言と行動に、一同はわけが分からず黙り込んだ。
彼らの提案を意味が無いと言い放ったくせに、自分も同じことをしようとしているのだ。
苛立ちと困惑が混ざったような表情で、陽七星が葵瑞に噛み付く。
「は? 何言ってんだよ。おまえが言ったんじゃねえか。生きてる人間じゃ意味が無いって……」
「そうよ! 潜れるのは魂だけだって……あんた……が……っ……」
そう口にしながら、海の頭に、ある疑念が過った。
まさか、いや、でも──
ゆっくりと、葵瑞の足元に、視線をずらす。
そこには、伸びている筈の影が無かった。
「……まさか……!」
──今まで、どうして気が付かなかったのだろう。
不可解な現象を、全て見透かしたように、冷静に説明する少年。
突如現れた、歳の離れた新メンバー。
「……そうだよ。俺は、魂の方の、湊葵瑞だ」




