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ロストユースに青を知る  作者: 志結
第七章
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第六十五話《タイムカプセル》


皆それぞれ、本当の姿の子供の自分と対峙することで、彼らは自らの答えに辿り着いていった。


──なんだ、ずっとそこにいたんじゃないか。

ずっとそこで、見てくれていたんじゃないか、と──。


失ったと思っていたものは、探していたものは、見ようとしなかっただけで、いつだって、彼らのすぐ傍に居てくれていた。

真昼の月のように、見つけ辛くなってしまっていただけで、ちゃんと、確かにそこに存在していたのだ。


恐ろしいものに見えていたのは、呪いの言葉に聞こえていたのは、名前のない正体不明の何かだと怯えていたからだ。

知らないものが、分からないものが、一番恐ろしい。

姿を見ることができない幽霊のように、自分の妄想で、どんどん恐怖を膨らませてしまう。


──だったら、名前を付けてしまおう。

孤独でも、不安でも、なんでもいい。

名前を付けて、その名を呼んで、正面から向き合って、目を見て対話をしよう。

そうすれば、それはきっと、正体不明の敵ではなくなっていくことだろう。

話をすることで、目を見ることで、触れ合うことで、分かり合えるかもしれない。


そして今、その名前を呼ばれた彼らは、本来の姿を取り戻した。

失っていた時間を取り戻すように、子供に戻ったように、思いのままに涙を流しながら──。

大人になってしまった彼らに必要だったのは、悲しみに直面した時、絶望に打ちひしがれた時、ただ大きな声で助けを求めて、子供らしく思い切り泣くことだったのだ。

それが上手くできなくて、無理に大人になろうとして、結果、彼らを無理矢理引き剥がすことになってしまった。


それでも、あの時の彼らに、どうやってそれができただろう。

自分の味方は自分だけで、強がることでしか、自分の心を護れないと思わざるを得なかった彼らが、どうやって正しく大人になることができただろう。


しかし彼らは、ちゃんとここに辿り着いた。

その命を繋いで、ちゃんと、ここまで生きて来た。

子供が大人へと変わっていく工程で、過去の自分との別れは、誰にでも訪れる、必然の儀式だ。

心の奥底に蓋をし閉じ込めて、鍵を掛けて声すら届かない場所で忘れ去られたとしても、確かにそこで、彼らは息をしていた。

それは卑劣で残酷なことのように思えるが、見方を変えれば、彼らはずっと護られていたのだ。

二度と傷付くことがないように、頑丈な宝箱の中で、大切に大切にされてきた。

だからこそ、こうして今、タイムカプセルのように箱を開けた時、あの日と変わらない彼らの姿に救われることができたのだ。

彼らを救ったのは、間違いなく彼ら自身だ。

そのことを嘆く必要はないんだと、彼らはそう教えてくれていた。



「……うみな……。今まで寂しい思いさせちゃって、ごめんね……。ずっと一人にしてきちゃって……ごめんね……」


感動の再会の余韻に、海は時間も忘れて浸っていた。

何度も何度も、子供の自分の姿を、強く抱き締める。


「寂しかったけど……でも、一人じゃなかったよ。この子がいたから……」

「え?」


その言葉に、海は聞き返して、うみなの肩に両手を置いた。

するとうみなの両手に、小さな何かが浮かび上がる。

それは、小さな小さな赤ん坊だ。


「……っ……!」


──聞かなくても分かる。

それは、海の胎内に宿っていた命だ。


「抱っこしてあげて」


そう言ってうみなは、抱えていた赤ん坊を差し出した。

躊躇いながらも、罪悪感に心が締め付けられながらも、小さなその命を、両手でそっと支える。

名前のないその子を呼ぶことすらできないまま、海は泣きそうな顔で、不安げに覗き込んだ。

その様子に、赤ん坊が笑顔を浮かべる。

母親の温もりを感じて安心したような、そんな穏やかな顔だった。


「……っ……ごめんね……。ごめんね……!」


この笑顔を奪ってしまったという自責に、胸が張り裂けそうで嗚咽を漏らす。

謝ることしかできなくて、泣くことしかできなくて、消えない後悔が溢れ出してくる。


「……んま……ま……?」

「……!」


赤ん坊が発したその声に、海の心臓が跳ねる。

曖昧で、舌足らずで、決して言葉と呼べるものではなかったかもしれない。

それでも、その声は、海の心に深く突き刺さる。

その子を安心させたくて、海は、泣きじゃくった顔で笑いかけてみせた。

そんな二人の様子を見て、うみなも満足げに笑う。


「安心して。海は、ちゃんと、ママになれるよ。この子には、あたしが着いてるから大丈夫。もしその時が来たら、今度こそ、大切にしてあげてね」


うみなの言葉に、海はもう一度声を上げて泣いた。

寂しさと、安堵と、悲しみと、希望と、まとまらない全ての感情が、涙となって滴り落ちていく。

赤ん坊を抱いたまま海は、うみなのことも抱き寄せた。

二人の前で情けない姿を見せるわけにはいかないと、涙を拭いて、誓いを立てる。


「もう、絶対に忘れないよ。約束する」


力強い海の言葉に、二人が微笑む。

それを合図にするかのように、突然体が浮き、瞬間移動したように、別の場所へと飛ばされた。


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