第六十二話《贈り物》
自分の本心に気付けない者がいれば、気付いていながら、それを必死に押さえつけようとする者もいる。
ましてやそれが、誰にも望まれないことなのだと、そんなことを想う自分は不誠実な人間なのだと、そう言い聞かせてしまう心労は計り知れないだろう。
「本当はずっと、戦ってみたかった!!」
美生に本心を言い当てられ、素顔を見せた子供のみおは、おどおどしながらそこに立っていた。
目をキョロキョロとさせながら、俯きがちに、取り繕ったように笑顔を作り、必死に笑ってみせる。
どうしていいか分からず、人の顔色を伺うことが体に染み付いたみおの姿に、美生が堪らず駆け出す。
その小さな体を抱き締めた美生は、我が子に言い聞かせるように、しっかりと目を合わせた。
「……無理に笑わなくていいの。笑いたくない時は、笑わなくたっていい。泣きたい時は、おもいっきり泣いたっていいの。……でも、怖かったよね。嫌われたくなかったんだよね。だけどね、美生は知ってる。本当は、みおちゃんは強い子だってこと。おもいっきり泣くことも、笑いたくない時に笑わないことも、すごく勇気がいることなの。だから、誰かに合わせて弱いフリをしなくたっていい。みおちゃんは、みおちゃんのままでいていいんだよ」
美生の力強い言葉に、安心したように、子供のみおは泣き出した。
演技ではなく、自分の感情に任せて素直に泣くことに慣れていないみおは、どうしたらいいか戸惑いながら、下手くそな嗚咽を漏らす。
「そうそう、上手だよ。なんにも考えないで、美生に身を預けて。今まで、いっぱい嘘付いててごめんね……。忘れようとして、ごめんね……。みおちゃんのこと、ずっと大好きだよ。また会いに来てくれて、ありがとうね」
いつも自信無さげで控えめな美生は、この時、誰よりも頼もしかった。
それは眠らせていた、彼女の芯の強さだ。
弱さを取り繕うことをやめた美生は、自分の本心に向き合うことにした美生の言葉は、温かく力強かった。
「ありがとう……。美生、あのね?」
涙を拭ったみおが、美生の袖を掴む。
親に今日の出来事を話す子供のように、愛されているという絶対的な自信を持つ、年相応の子供のように、その表情は活き活きとしていた。
「美生は、嘘吐きなんかじゃないよ。寂しい美生も、みんなに好かれたい美生も、みんなの為に頑張る美生も、全部本当の美生だもん。本当は強い美生も、だけどたまに弱い部分がある美生も、全部が全部本物だから」
──あぁ、そうなのかもしれない。
ただ、愛されたかっただけ。
みんなと一緒にいたくて、仲良くして欲しくて、自分の気持ちを偽ってきた。
だけどそれは、きっと、嘘なんかじゃない。
かけがえない、努力の結晶だ。
「誰かに選ばれないのは、すごく怖いことだけど、寂しくなんかないよ。だって、みおちゃんが美生を一番に選んであげるから。みおちゃんがみおちゃんのままでいいってことはさ、美生も美生のままでいいってことだもんね。どんな美生も、みおちゃんはずっと大好きだよ」
美生はその言葉に心を打たれ、彼女と同じように泣き出した。
泣くことは、きっと、弱いことなんかじゃない。
ましてや、弱さを演出する為のものでもない。
本当に強い人間だからこそ、きっと、ちゃんと涙を流すことができるのだ。
──選ばれないことが、怖かった。
選ばれなければ、自分に価値は無いと、そう思っていた。
だから選ばれる為に、求められる役割に、その都度自分の形を変えていった。
しかし、そんなことしなくて良かったんだ。
誰かに選ばれる前に、一番に、自分が自分を選んであげれば良かったんだ。
先程美生がかけた言葉を、今度はみおがそのまま彼女に贈る。
それはまるでプレゼント交換のように、誰かが誰かを想って、幸せにする為に選んだものだ。
みおを救う為の言葉は、そっくりそのまま、美生自身を救う言葉になっていた。
「ありがとう、みおちゃん。……実はね、本当はまだ、美生も怖いの。だけど、みおちゃんが傍に居てくれるなら、大丈夫な気がする。震えながらでも、ちゃんと自分の足で立って、歩いて行きたい」
自分で自分を励ます言葉を用意しても、それは皮肉なのではないかと、どこか疑ってしまう。
美生は美生のことを、信頼しきれてはいないから。
でも、愛する者の言葉なら──。
自分自身は信頼できなくても、自分を愛してくれている大切な人の言葉なら、信じてもいいんじゃないかと思える。
お互いの勇気を分け与え、二人は、ありのままの素顔で笑った。




