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ロストユースに青を知る  作者: 志結
第七章
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第六十一話《愛した人》


感動の再会の形は、人それぞれだ。

無垢で無邪気な子供のように、人前で思い切り泣くことを、その胸に飛び込むことを、躊躇なくできる者ばかりではない。

それが難しいと感じる者もいるだろう。

特にここにいる、彼にとっては、そうだった──。



「本当はずっと、傍にいて欲しかった!!」


勇為に本心を言い当てられ、本物の素顔を見せた子供のゆーいは、諦念を含んだ笑みで、こちらを見ていた。

長い沈黙が流れて、それを終わらせるように、ゆーいが口を開く。

それはまるで、あの時飲み込んだ呪詛のように──。


「……君の本心を言い当ててみようか」


全てを見透かすようなその言葉に、勇為は息を止めて緊張した。

体はとても小さいのに、その歳の子供にしては、人生の酸いも甘いも知りすぎた彼。

満面の笑みよりも、年不相応な憂いを帯びた表情の方が、彼にとっては素顔なのかもしれない。


「あの人のこと、まだ好きなんでしょ」


──心臓が跳ねる。

最も触れられたくない核の部分を鷲掴まれて、喉の奥から何かが込み上げてくる。

そんな筈ないと、そう言えたらよかった。

あの人に復讐する為に、自分と同じ苦しみを味わわせる為に、その為にここまで来たのだから。

しかし今、彼の前で取り繕ったところで何も意味を成さないことくらい、勇為には分かっていた。


「………分かるよ。認めたくないよね。捨てられて、悲しくて、惨めで、寂しかった。絶対赦してやるもんかって、それだけを生きる意味にしてた。……だけどね……」


そう言い残して、ゆーいはきゅっと口を結んだ。

それは泣くのを我慢する時の、ゆーいの癖だった。

先ほどまでの、悟ったような淡々とした話し方とは打って変わって、ひとつひとつ言葉を噛み潰すように、涙を堪えるように、語りかける。


「……それでも、やっぱり愛してたんだ。あの人から貰ったものが、幸せだった日々が、どうやっても忘れられないんだ……。綺麗な空を見て、綺麗だねって言い合えることや、素敵な景色を見て胸がいっぱいになって、あの人にも見せたいなって愛おしく思うこと。全部、あの人が教えてくれたことだよ。勇為はちゃんと、愛されてたよ。だからあの人のことを、好きなままでいてもいいんだよ。まあやを愛した自分のことを、愛していいんだよ」


必死に堪えていた涙は目から溢れ、言葉を発する度にポロポロと頬へと流れた。

その姿に、勇為も同じように口を引き結んで、ゆーいに駆け寄り、強く抱き締めた。

普段滅多に涙を流さない勇為の目から、一筋の雫が落ちる。


「……っ……ごめん、ごめんね……。僕……自分の気持ちに嘘吐いてた……。君の言う通りだよ。まあやのこと、本当は、今でも愛してるんだ……。本当はずっと……傍にいて欲しかった……。なのに認めたくなくて、忘れようとして、ごめんね……。ゆーいの気持ち、気付かないフリして、飲み込んで……ごめんね……」


最初は子供の自分と言われても、イマイチピンと来なかった。

自分の感情は自分だけのものだと、誰かに分かる筈が無い、と──。

それでも、今なら分かる。

同じ人を、愛した者同士なんだ。

日々の喜びも、幸福も、別れの悲しみも、逃れられない屈辱感も、全部知っているものだ。

捨てられて、惨めだと思いたくなくて、自分に価値が無いと思いたくなくて。

自己防衛から、その愛情を、憎しみへと変化させるしかなかった。


愛も憎しみも、同じ執着だ。

例えどんな形であれ、執着し続けていたかった。

そうしていなければ、あの幸福だった日々も、全て嘘になってしまいそうだったから。

だけど本当は、その愛を捨て切れなかった。

それでも、まだあの人への想いが消えないことを、自分で認めることができなかった。


「ありがとう。僕の大切な想いを、心を、ずっと離さずに護ってきてくれて。もう、偽ったりしないよ。まあやを愛する気持ちも、君を愛する気持ちも、僕自身を愛する気持ちも、全部認めて、大事に抱えていくから」


人と人を繋げるのは、好きなものや、喜びの感情だけではないのだろう。

共通の痛みと傷を持っているからこそ、通じ合えるものもある筈だ。

誰にも説明ができない、愛憎という簡単な言葉だけでは片付けられないこの複雑な感情を、分かってくれている人がいることに、勇為は心強さを覚えた。


一方的な愛は、きっと、恥ずかしいことじゃない。

片想いは決して、惨めなことじゃない。

それだけ誰かに執着できるということは、それほどまでに誰かを愛せるということは、それだけで、とても素晴らしいことじゃないか。

どんな形であっても、この心に、消えずにずっと居座り続けていて欲しい。

それがきっと、彼にとっての、愛の形なのだから──。


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