第六十話《ヒーロー》
「本当はずっと、助けて欲しかった!!」
ちょうど同じ頃、他のメンバー達も、過去の自分と対峙しその言葉を言い当て、本当の姿の彼らと再会していた。
ここにいる、彼らも──。
陽七星は本当の姿のひなと対峙し、今まで自分が見ていたその姿は、自らが作り出した幻影だと気付いた。
「……ひな、忘れててごめん。一人にしてごめん。……そうだよな、怖かったよな……本当はずっと、助けて欲しかったんだよな……」
陽七星は膝を折って、ひなをぎゅっと抱き締めた。
体温が高い子供の温もりが、肌からしっかりと伝わってくる。
爽やかな笑顔が似合う少年は、優しく穏やかに、陽七星を抱き返した。
「大丈夫。僕は、一人じゃなかったよ。僕の傍にいてくれる人は、助けてくれる人は、ちゃんと近くにいたよ」
天才子役と呼ばれたひなは、天使のように笑っていた。
人が好きで、人の期待に応えることが好きで、いつだって、誰かの為にと直向きに頑張る少年だった。
きっと陽七星も、その本質は変わらないのだろう。
誰かに見ていてもらいたい、誰かの心に残る存在で在りたい──。
そんな寂しがりやな陽七星の本質を見透かすように、ひなは笑顔で囁いた。
「陽七星のこと、ずっと見てたよ。僕の夢を、叶えてくれてありがとう。歌を歌ってくれて、ありがとう。僕の声に気付いてくれて、助けてくれてありがとう。陽七星は、僕のヒーローだね。今度は僕が、陽七星を助けるからね」
ひなの言葉に、陽七星は言葉を失くして、もう一度強く抱き締めた。
目から涙が溢れ出して、止まることなく頬を伝う。
泣きの芝居が上手いと、ひなは世間からそう評されていた。
しかしそれは、決して芝居のスキルが高いというものではない。
彼は、感情を想像するのが上手かった。
どんなことがあったら悲しいのか、どんなことを言われたら自然と涙が出るのか、そんな想像力を働かせながら、その物語を常に自分の人生に置き換えていたのだ。
だから陽七星は、ハッピーエンドの続きを欲しがった。
皆が表面上だけを見て、物語の登場人物達を幸せだと決め付けるのは、何か納得がいかなかったのだ。
ある時点でだけは、いっときの幸せを手に入れた勇者も、ハッピーエンドの後には、死にたいほどの絶望が待ち受けていたかもしれない。
それが仮初のハッピーエンドだと気付かされてしまった時、その幸福の形がより一層、地獄へと誘う鍵になってしまったかもしれない。
そして見る角度を変えれば、また違う捉え方があったかもしれない。
誰もが幸せだと思っていた勇者は、皆にそのレッテルを勝手に貼られただけの勇者は、実は誰よりも孤独で、誰よりも寂しい想いを抱えていたのかもしれない。
人間の想像力は、きっと、とても大事な能力だ。
自分の未来を想像して、相手の感情を想像して、そうして傷付かないように、傷付けないようにと手を差し伸べていく。
それを、今の陽七星ならできる筈だ。
本当の弱さを知って、本当の強さの意味を知った、今の彼なら──。
「……ありがとう、ひな……。俺、もっと強くなるから……。力や権力だけじゃなくて、本当の意味で……もっと強くなりたい……。おまえのことも、自分のことも、大切な人のことも、ちゃんと護れるように……」
彼の強がりな態度は、寂しさの裏返しだ。
その寂しさに気付かれないように、もしくは自分で気付かないように、強く在らなければならないと言い聞かせてきた。
──だけど、違っていたんだ。
誰よりも近くで、見てくれている人はいたんだ。
そう思えたら、もう何も怖くない。
あの頃の憧れを手にした今、ひなに恥ずかしくないように、誇れる自分で在りたいと願った。




