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ロストユースに青を知る  作者: 志結
第六章
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第五十八話《もう一度、もう二度と》


脳内に記憶が流れ込んで来て、六人は目を瞠った。

一本の映画を見終えたような、一冊の小説を読み終えたような、そんな感覚が込み上げる。


「……そんな……!」

「……嘘だろ……?」


あまりの衝撃に声を上げたのは、海と陽七星だった。

他のメンバーも、信じられないものを見たように、言葉を失っている。


──知らなかった。

まだ傷付いたことのない、ただの子供だと思っていた相手は、短い人生で、彼ら以上の絶望を味わっていたのだ。

陽七星のように、親の夢を叶えようとするも、助けてもらえなかった失望感。

海のように、放置されながらも、ようやく見つけた生き甲斐を奪われた喪失感。

勇為のように、父親の代わりを担おうとも、敵わず見捨てられた屈辱感。

美生のように、自分の意志を尊重されず、理想の姿を押し付けられた劣等感。

伶のように、人生の指針にするも、死別による自責を植え付けられてしまった罪悪感。

織のように、自分の在り方を否定されこうあるべきと、決められてきた違和感。

彼らが経験してきた、それらの絶望全てを詰め込んだような、あまりにも残酷で悲惨な過去だった。


「……見ての通りさ。俺は、今俺達がしている生き方の、最も忌避されるタブーから生まれた存在だ。大スターの父親。それに狂った母親。その事実を目の当たりにして、自死を選んだ父親。それに絶望して、後を追った母親。そして一人遺されたのが、俺だ。これが、俺の人生の全てだ」


自傷するような口振りの葵瑞は、まさにそれを口にしながら、現在進行形で傷付いていた。

自ら傷付くと知っていながら、それを彼らに共有することを選んだ。


「何もかもが終わって、死んだ方がラクだって、何度も思った。もう希望なんて、二度と訪れないって。それでも……それでも俺は、まだ俺を諦めきれないんだよ。苦しくて苦しくて苦しくても、その先には何かが待ってるんじゃないかって。こんな自分を、いつか愛せる日が来るんじゃないかって……」


葵瑞の目は、決して光を失ってはいなかった。

あれだけの経験をして、あれだけの絶望を小さな体に一人背負い込んで、それでもまだ、戦おうとしていた。

そんな姿を憐れまれることが、どれほど屈辱なことか、彼らは身を持って知っている。

それでも、思わずにはいられなかった。

彼らより絶望をよく知る人間が、まだ希望を捨てずに生きている。

苦しみに抗いながら、それでも誇りを手離さずに、必死に戦っている。

その姿は、彼らがこう在りたかったと願った、子供の姿そのものだ。

そう在り続けることが、どんなに辛く苦しいことなのか、彼らは誰よりも知っている。

目の前の一人の少年に、同情よりも、憧憬が浮かんだ。


「俺は、おまえらの為に言ってるんじゃない。後ろにいるそいつらの為に、おまえらを止めに来たんだ。もう二度と、俺のような不幸な子供が生まれないように。そして、俺が俺でいられる為に」


葵瑞の声に、誰かが息を呑むのが分かる。

彼の眼差しは、確かに彼らを捉えていた。


「……おまえも……見えるのか……?」

「見えるし、声だって聞こえる。見えてないのはおまえらの方だ。ちゃんと、あいつらと向き合うんだ。名前を呼んで、目を見て、声を聞け。今見てるのは、おまえらが作り出した幻想だ。傷付くことを恐れるな。心を曝け出して、勇気を出して、本当の聲に耳を傾けるんだ」


彼らが見ているものとは違う姿が、違う声が、葵瑞には聞こえていた。


──心は脆く、脳は単純だ。

恐怖や自責のあまり、彼らは本来のその影の姿を、改ざんしてしまっていたのだ。

幻覚と幻聴に惑わされ、自死を選ぶことが彼らの望みなのだと、そう勝手に思い込んで──。


本当の自分を曝け出すことは、辛く苦しいことかもしれない。

それが否定された時に、悲しみのあまり立ち上がれなくなってしまう。

だったら自分を偽っていた方が、ラクで快適な人生を送ることができるだろう。


──しかし、その結果が、今の彼らだ。

苦しみに敗れ、子供の自分を殺してしまうことで、それは彷徨う白い影となった。

信じていた自分に見捨てられて、呼ぶ声も届かないまま、どこにも行けずに一人ぼっちだ。


それでも、まだ、救うことができるなら。

彼らの魂を、報われなかった青い時代の魂を、もう一度、蘇らせることができるなら──。


「……でも……どうしたら……」


戸惑う美生の言葉に、葵瑞が全員の顔を見渡す。

曇りのない、まっすぐなその眼差しで。


「もう一度、あの島に行く。ちゃんとあいつらと向き合って、自分の過去と向き合って、その魂と、お別れの儀式をするんだ」


葵瑞の提案を、もう誰も疑わなかった。

もう一度、本当の自分の聲を聞く為に。

もう一度、本物の誇りを手にする為に。


──彼らは再び、ロストユースを目指した。


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