第四十九話《禁断の果実》
「わりぃ、待たせた」
伶と別れ、喫煙所を後にした燈夜の元に、メンバーの晟斗が現れる。
「大丈夫だよ。ちょうど今、ブルバの伶と話しててさ。いつもと様子が違う感じだったから」
「まじか。俺も昨日勇為に会ってさ、あいつもなんかおかしかったんだよな。なんつーか、らしくないってかんじ?」
「新メンバーが入って、いろいろ大変な時期なのかもね。できれば力になってあげたいけど……。難しいね、人に言葉を伝えるのって」
燈夜の言葉に、晟斗は物珍しそうな顔をした。
燈夜は控えめな雰囲気と性格ではあるが、曲作りや創作に対しては自信家である為、こんなふうに自信無さげな物言いをするのは珍しかった。
「なんだよ今更。普段から歌詞書いてる奴が」
「音楽も言葉も、各々感じるものは、受け取り手の自由だからさ。俺が伝えたい言葉と、相手が欲しい言葉が一致しない時は、どうやって寄り添えばいいのかなぁ」
伶が何を求めて言葉を零したのか、燈夜には分からなかった。
助けを求めていることは分かっても、何が救いになるかまでは分からない。
自分の発した言葉は、間違いではなかっただろうか。
そんなことを、後からクヨクヨと考えてしまう。
口から出た言葉は、二度と取り消すことができないと、誰よりも知っているから──。
「また難しそうなことを……。俺に聞くなよ。馬鹿だからさ、おまえら創作者の頭ん中なんて、分かりゃしねぇよ」
「ははっ。それをリズムで表現するのが、ジョウの仕事だしね。さて、俺も新曲のデモ作んなきゃ」
歩き出す燈夜の背中を、晟斗は追いかけることができずに立ち止まった。
昨夜の、勇為の言葉が蘇る。
『親愛と恋愛の区別もつかなくなって、赦されない恋に堕ちた馬鹿な男なんです。普通の人生を送ってきたあなたには、到底分かり得ないでしょうね』
それは晟斗の胸の奥深くに、痛々しく突き刺さっていた。
(赦されない恋……ね……)
真っ先に思い浮かんだ、その愛おしい声。
『ジョウ』
彼の人生を彩り、そして狂わせもした、一人の幼い少年の笑顔。
子供に似つかわない、哀愁を漂わせながら笑うその顔は、今でも変わらず脳裏に焼きついている。
「ジョウ」
燈夜が振り返り、名前を呼ぶ。
思い出と重なったその笑顔は、あの頃から、何一つ変わっていなかった。
「行こう」
その声に、晟斗は諦めたように、溜息を吐きながら笑った。
人の気も知らないで、と零したくなるのを、そっと胸の奥に閉じ込めて──。




