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ロストユースに青を知る  作者: 志結
第四章
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第三十七話《傷跡》


島から帰って来たその翌日、美生はモデル業の打ち合わせの為、朝早くから事務所に来ていた。

目の下には、大きな隈を作って。


「どうしたんですか? その包帯」


惇に指摘をされて、ビクンと体が跳ねる。


「ちょっと、擦り剥いちゃっただけ……。美生、飲み物買ってくる……」


左手首の包帯を庇って、美生は部屋を出た。

そのまま廊下を歩いて、衣裳部屋の扉を開ける。

電気も点けないで真っ暗なまま、洋服達に囲まれて膝を抱える。

昨夜のことを思い出して、傷がジクジクと痛んだ。


『ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……!』


自室の狭い押し入れで、赦しを乞いながら、左手首にカッターの刃を立てた。

その場所はかつて自ら傷付け、そして数年前に、真っさらに跡を消した場所。

震える腕では、太い血管には到底届かない。

それでも皮膚に刃を立てる度、鮮明な赤い血が流れ出す。

そのことに、安心さえしてしまっていた。

いつしか、その行為によってしか、生きていることを確認できなくなってしまったほどに──。


衣裳室の外でスタッフの声がして、現実に引き戻される。

──全部、終わってしまえば良かったのに。

手首に全力で刃を突き立てて、本当に死んでしまえれば良かったのに──。

そんなことを望んでしまうほど、最悪の夜だった。

最悪の夜明けだった。

今自分が生きていることが、どんなに卑しく醜いことなのか、思い知らされてしまったのだから。


「……なんで……。なんで……忘れちゃってたの……?」


痛みも、苦しみも、全部経験してきた筈だった。

もうあの頃より辛い出来事なんか起きる筈無いと、ずっとそう思って生きて来たのに。


彼女の感覚を麻痺させたのは、厄介なことに、紛れも無く『愛』そのものだった──。


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