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ロストユースに青を知る  作者: 志結
第四章
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第三十三話《所以》


「ひな!」


一人突っ伏す陽七星の元に、頼人が駆け寄る。


「どうした! 大丈夫か!?」


覗き込んだ陽七星の瞳に、光は無かった。

跪き肩を振るわせながら、涙でぐちゃぐちゃになった顔でただ一点を見つめていた。

まるで、あの夜のように。

──いや、それ以上の絶望のように思えた。

全力で戦って、全力で打ちのめされたのとはまた違う。

捨ててしまっていたものを、その手で踏み潰してしまったものを、もう二度と取り返せないと分からされてしまったような。

重大な世界の間違いに気付いてしまったかのような、そんな絶望感。


「……っ!」


何かを見つけてしまった陽七星が、目を見開いて息を呑む。

息を呑むなんてもんじゃない。

呼吸が止まってしまうほどの、恐怖。


「……なんで……」


陽七星の目に映ったのは、先程姿を消したひなの姿だった。

頼人の背後に立って、こちらを睨み付けている。


「……ひな?」


頼人に名前を呼ばれる声も、もう陽七星の耳に届いていなかった。

その影は消えてくれず、ただこちらを見つめてくる。

軽蔑するように、嘲笑うように。

今まで陽七星が、ひなにそうしてきたように。


「歩けるか? 行こう」


頼人が肩を貸し、ようやく陽七星は歩き出した。

半ば引き摺られるようにして、頼人に体重を預ける。

それを情けないと思える余裕さえ無かった。


「陽七星くん! 良かった、全員戻って来て……!」


惇の言葉に顔を上げると、そこにはブルバのメンバー全員が居た。

しかし葵瑞以外の五人は、陽七星と同じように青ざめ、一人で立っていられないような状態だった。


「荷物まとめて、東京戻るぞ。全員船に乗せろ」

「はい……。一体何があったんですか?」

「俺にも分からん。おい海、大丈夫か?」


船着場の海岸で嘔吐していた海の様子を見て、頼人が背中を摩る。

全員具合が悪そうではあるものの、海の顔は特別真っ青だった。

船に乗り込んで、座り込むようにして壁にもたれかかる。

動き出し島が遠のくと、海はふうっと溜息を吐いた。

そんな自分にも嫌気が差したが、それでも、張り詰めた緊張状態がこれ以上続くことに耐えられなかった。


(ごめんね、ごめんね……。こんなあたしを、赦して……)


その祈りは、届かなかった。

海が顔を上げると、その船の端に、一人の子供が立っていたのだ。


「……っ!」


それは、子供の姿をした海だった。

先程鳥居を潜った時に、姿を現した子供。

しかし、今はそれだけではない。

うみなは、何かを抱えていた。

大事そうに、両手で包み込むように。

それに、気付かない筈が無かった。


「……あぁ……ぁ……」


それは、赤ん坊だった。

潮の匂いがツンと強くなって、再び嘔吐する。

あの頃を思い出させるように、苦く。


「……どうして……」


その答えは、自分自身が一番知っているのに。

彼女が自ら、選び取ったことだったのに。


「……なんで……忘れられたの……」


知っていても、理解することとは程遠い。

最低な人間である、所以なんて──。


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