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ロストユースに青を知る  作者: 志結
第三章
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第二十九話《暗闇と猫》


──狭くて、暗かった。

視界も足場も悪く、突如連れて来られた得体の知れない場所に、心細さが増していく。

美生は、狭い洞窟のような場所を一人で歩いていた。


──暗闇は苦手だ。

何も見えない、何も分からない。

自分の目で確認できないものは、信用できないから。

頭上からは水が滴り落ち、足音が響く。


「あ……あのぉ……。誰かいませんかぁ……?」


助けを求めて、声を出す。

その声に返って来るのは、自分が発した声が反射して響き渡る音だけだった。

不思議と、怖いとは思わなかった。

だってこんなの、ドッキリに決まってる。

大方部屋で寝てしまったところを誰かに運ばれて、突然こんな所に放り出されてしまった時の、リアクションを試されている番組の企画に決まっている。


(だとしたら、ファンが見たい姿は?)


怖がって震えて泣いて、みんなが出て来てネタバラシされた瞬間に安心して泣き出すのが、一番愛らしい姿の筈だ。


「あ……あのぉ……。本当に、誰もいないんですかぁ……?」


居るに決まってる。

これでも、一端の芸能人でタレントだ。

本当に危険な場所に一人取り残されるなんてこと、有り得る筈がない。

できるだけか弱く、可愛く演じてみせなくちゃ。

撮れ高と、好感度を意識しなきゃ、と瞬時に計算する。


涙を浮かべてみたところで、一瞬足元を何かが通り過ぎた。


「きゃっ!?」


突然のことに本気で驚いてしまい、そのまま尻餅をついてしまった。


(今の、大丈夫だったかな? ちゃんと可愛かったかな?)


こんなリアルな小細工は、本当にビックリしてしまうのでやめて欲しい。

変な転び方をして、怪我でもしたらどうしてくれるのだろう。

そんな心配を他所に、その物体は「ニャーン」と鳴きながらこちらを見ていた。


──猫だ。

黒い野良猫が、目をギラっと輝かせ、洞窟の中を自由に駆け回る。

そうしたと思ったら、突如退屈したように全身を伸ばして大きな欠伸をし、岩の上に丸まって眠ってしまった。

その様子に、美生は心の中でだけ溜息を吐いた。

呑気で、羨ましいと。

どこかにあるであろうカメラを意識しながら、スタッフの気配を探しながら、その洞窟を奥まで進んで行った。


すると蝋燭の炎が灯っているのが見え、そこがゴールなのだと分かる。

恐らくここで何か最後の仕掛けがあって、それと同時にネタバラシ、という流れだろう。

なんと分かりやすい、見え見えのドッキリだろう。


(でも美生は、純粋でピュアだから、可愛く騙されてあげる)


最後くらい、ちゃんと可愛く締めなきゃ。

そう意気込んで光の元まで辿り着くと、その燈に囲まれるようにして、大きな鳥居が聳え立っていた。


「……なに……これ……」


一瞬テレビであることを忘れて、思わず演技ではない本音の声が漏れる。

それは、今まで見たことがない青色をした鳥居だった。

蝋燭の炎に照らされ、赤く青く燃える鳥居。

混ざり合う二つの色。

その光景は幻想的で、炎の揺れが瞳にそのまま映し出される。


「……綺麗……」


つい口にしてしまうほど、そう思った。

それはまるで知っているような、懐かしい感覚。

けれどもそれだけではなく、何かを知りたいと感じさせるような、飛び込んで行きたくなるような、そんな心の弾みを感じた。


あまりに美しいその光景に、心が惹かれるままに、美生は鳥居を潜った。

抑えきれない、一筋の好奇心を携えて──。


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