第二十七話《海と月明かり》
瞬間移動でもしたのかと、そんなふうに思った。
夜の海に、波音がする砂浜。
先程まで居た宿舎の裏が、こんな造りになっていたのかもしれない。
そもそも知らない土地だし、ましてや無人島だ。
何かが起きても、不思議ではないのかもしれない。
「いや、そんでも……さすがに無理あるでしょ……」
晩酌中に泥酔して、意識が無いまま外まで歩いて来てしまったのだろうか。
そんなふうに思おうとしたのに、その海岸の造りはまるで同じだったのだ。
海が生まれ育った、地元の様子に。
一体何がどうなってこんなことになっているのか、海にはさっぱり分からなかった。
しかし、分からないことをいつまでも考え込んでいても埒が開かない。
海は考えることを止め、その海岸を歩き始めた。
波音が心地良い。
月明かりが、海に反射して揺れている。
その光景が、海は好きだった。
月の光を直接見るより、海を照らす光を見る方が好きだった。
名前のこともあり海に自分を重ねて、いつか誰かに照らして貰いたいと焦がれていたからかもしれない。
そんなくだらないことを、幼い頃からよく考えていた気がする。
強い風が吹いて、真夏にも関わらず寒さに体が震えた。
──夜は苦手だ。
つい感傷的な気分になって、ネガティブなことばかり考えてしまう。
一人で眠る夜も苦手だ。
一人では、体が凍えてしまう。
人肌に触れていないと、安心して眠れない。
孤独な夜は、自意識を下げる。
自分に自信が無くなる。
求められていたい。
例え仮初の存在だとしても、誰かと眠るのは心地良かった。
誰かと体温を分け合う作業は、心地が良い。
強い風が吹いて、波が高くなる。
それに思わず目を瞑ると、海に何かが浮かんでいるのが見えた。
月明かりを映す水面に、黒い影がかかる。
「……なにこれ……鳥居?」
海の中に、鳥居が聳え立っていたのだ。
しかも世にも珍しい、青色をしている。
夜である為海原は青というよりは黒に近く、しかしその中で月明かりに照らされたその鳥居は、美しいほどに澄んだ青色をしていた。
ほぼ反射的に、自ら海に入り、その鳥居に近付いていった。
まるで潮の満ち引きのように、引き寄せられて。
いつの日か、大切なものを拾い上げる為に、躊躇なく飛び込んだ時のように。
そして鳥居の元まで辿り着き、その全貌をゆっくりと見渡す。
時に激しく波が打ち寄せる中、その鳥居は倒れることなく、堂々と聳え立っていた。
ふと、何かの匂いがした。
潮の匂いなのか、それともどこか懐かしさを感じる何かの匂いだった気もしたが、正確には分からない。
それでも、確かに知っていると、そう感じた。
その匂いに誘われるように、海は慎重に、鳥居を潜った。




