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ロストユースに青を知る  作者: 志結
第二章
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第二十三話《赤と青》


「いぇーい! お疲れー! 先輩が遊びに来てやったぞー!」


説明不要だろうが、あのお祭り男の襲来である。


「新メンバーはっと……。いたー! 葵瑞! すごかった! 俺感動しちゃったよ!」


やかましい双子の楽屋訪問に、ブルバの六人は嫌悪感を隠さず心底げんなりした顔をした。


「さっきのパフォーマンスやばかったって! 歌もダンスも激ヤバでさ! あ、俺蒼ね! こっちが翠! 俺らのことは兄貴だと思って、なんでも聞いてくれていいからな!」

「……あぁ……はい。ありがとうございます……」


その勢いとテンションに戸惑いながらも、葵瑞はペコっと軽くお辞儀をした。


同じ音楽番組に事務所の先輩である燈も出演しており、本番中に絡むことは無かったものの、放送が終了するなり彼らの楽屋を訪ねて来たというわけだ。

本来なら後輩である彼らが先輩の楽屋に挨拶に行くべきなのだが、燈のメンバーはブルバを可愛がっており、共演する度に決まって向こうから絡みに来る為、自分達からは行かなくなっていったのだ。


「相っ変わらず双子先輩はテンション高いですね。生放送後で疲れてないんですか?」

「えー? 今日一曲しかやってないじゃん! それに俺らはライブ後でも元気だし! むしろ興奮覚めやらなくてハイテンション!」

「はいはい、蒼さんはだいたいいつもハイテンションでしょ?」


面倒臭がりながらも敬意を見せる海に、蒼は妹に対するような親しげな様子で答えた。


「おい陽七星ー! 何帰ろうとしてんだ! 先輩だぞ! 持て成せー!」

「だーかーらー、俺のが先輩だって言ってんだよ」

「え!? そうだったっけ!? まぁいいじゃん細かいことはー! 俺とおまえの仲じゃんか!」


陽七星が心底嫌そうな顔をするのにも関わらず、そんなのお構い無しに蒼は陽七星に絡んでいた。


「どう? こいつらにいびられたりしてない? そん時は俺らに言うんだよ? メッてしてあげるから」


翠が葵瑞にそう言った瞬間、陽七星と海は一瞬ヒヤっとして葵瑞に視線を向けた。

余計なことを言うなよと、釘を刺すように。


「大丈夫です。こいつらチョロいんで」

「「はぁ!?」」


ハモる陽七星と海を他所に、双子は目を見合わせ爆笑した。

「だーっはっはっはっ! こいつおもれー! こりゃ大物になるわ!」

「最っ高! てか、おまえらもっと頑張んなよ! こんなんじゃすぐ追い抜かれるよ!?」


二人の高笑いに楽屋全体が『もう帰ってくれ』と項垂れる中、ノックの後に再び扉が開いた。


「お邪魔しまーす。……あ、やっぱりここにいた。みんなお疲れ様。いいパフォーマンスだったよ」

「あ、こいつら自分だけ着替えてやがる」


燈夜と晟斗も現れ、楽屋のテンションがまた一気に下がる。

双子だけでも手一杯なのに、これ以上面倒事を起こさないで欲しい。


「二人とも遅かったじゃーん! せっかく今面白いとこだったのに!」

「片付けしてたんだよ。誰かさん達が楽器ほっぽって居なくなったせいでな」


蒼と晟斗がいつものように言い合いをしている中、燈夜は帰り支度をしている伶に声をかけた。


「新曲、良かったよ。あれだけ色が違う音入れるの難しそうだね」

「……あぁ……はい……どうも……」


伶は基本的に、人と話すのが苦手だ。

しかしそれは目上の者に対する礼儀の意識が根底にあるが故で、だからこそ人を避けるようになっていったのだ。

一人で居れば、誰に気を遣うことも無い。


「織も大変だったでしょ。フォーメーション色々変えたりさ」

「……」


燈夜の問いに織は手を止め、黙って燈夜の顔を見つめたまま固まった。


「え、なに?」

「……いや、どう返そうかと思って。燈夜さんあまりダンスのこと詳しくないだろうから、専門的な用語の説明だと分かり辛いかなとか、逆に簡潔に返すのも失礼かなとか」

「ご丁寧にどうも。ま、今ので大変だってことは伝わったよ」


織は度々こういう所がある。

真面目で誠実だが口で伝えることがあまり得意で無い為、なかなか言葉が出ずに無言で考え込んでしまうのだ。


「どーよ、あの新メンバー。うまくやれてんの? おまえら十個も歳離れてるだろ」

「……お気遣いありがとうございます。問題ないですよ」


晟斗に話しかけられた勇為は一瞬面倒そうな顔をした後、明らかに取り繕った不自然なほどの満面の笑みで返した。


「ならいいけどよ。俺も末っ子だからそんな得意じゃねぇけどさ。なんかあったら言えよな」

「大丈夫ですよ。ご馳走様でしたー」


箸を置き弁当の前で勇為は丁寧に合掌をし、席を立ってその場から逃れようとした。

しかし用意された弁当はほんの数口しか口を付けておらず、ゴミ箱に捨てようとする勇為の手を咄嗟に晟斗は掴んだ。


「おいおいおい。ほとんど食ってねぇじゃねぇか。おまえタッパ小せぇんだから、ちゃんと食わねぇとデカくなれねぇぞ?」


手を掴まれた勇為が、一瞬で言葉に温度を失う。


「放っておいてもらえません? あなた僕の母親か何かですか?」

「……っ、悪い……」


豹変した勇為の態度に驚きを隠せず、晟斗はすぐさま手を離した。

地雷を踏んでしまったのかもしれない。

そのまま背を向けて帰り支度をする勇為に、これ以上言葉をかけられるはずもなく、晟斗は近くにいる美生に小声で話しかけた。


「なぁなぁ。あいつっていつもあんなかんじなのか? 急にスイッチ切り替わるじゃねぇか」


「……え、えっと、あの、美生よく分かんなくて……」

「え」


そう言ってそそくさと離れていく美生の様子に、晟斗は肩を落とした。

美生には、何故か執拗に怖がられている。

ガタイがあるからなのか、高圧的に思われているのかは分からないが、話しかける度に怯えたように避けられてしまう。


「年下むじー」


晟斗は男四人兄弟の四男だ。

末っ子である為年下の扱いには慣れていないのだが、それでも後輩を気遣おうと必死に声をかけるも、なかなか上手くいかずにいた。


「あ、ごめん。俺らこの後事務所戻ってミーティングあるんだった。騒がして悪かったな。おまえら行くぞー」

「待てって! まだ葵瑞とマブダチになってないのに!」

「いきなりマブは無理だろ! 今日のとこはひとまずお友達からで我慢しなさい!」

「阿保なこと言ってねぇで行くぞ。邪魔したなー」


燈夜に続いて全員が楽屋を出ていくのを見送り、六人は力尽きたように俯いた。


((疲れた……))


決して悪い人達では無いのだが、エネルギッシュ且つ場をめちゃくちゃにするだけして帰って行く為、何度話しても慣れないのであった。


「つーかさぁ。おいガキ。おまえなんか、俺達に対する態度とあいつらに対する態度違くね?」


比較的丁寧に受け答えをしていた葵瑞の様子を面白くないと思った陽七星が、不満げに上から見下ろす。


「あたしもそれ思った! 敬語とか使っちゃってさぁ。そんなん使えるならあたし達にも普段から使いなさいよ!」


「いやだって、あの人達は比較的ちゃんとした大人だからな。あんたらと違って」

「「はぁ!?」」


生意気に言い返して来る葵瑞に、陽七星と海がまたしてもハモる。


「舐めてんじゃねぇぞクソガキが。自分の立場をまだ弁えてねぇようだな」

「だから……」

「あぁもういい。おまえはもう喋るな。いいか、これは命令だ。おまえみたいなガキは、俺様の言うことを黙って聞いてればいいんだよ」


自分から振った癖に理不尽な言いがかりをつけて、陽七星はまたもやレスバトルに勝利した気になり楽屋を出て行った。

その背中を見送り、葵瑞も小さく不満を漏らす。


「……相変わらずめちゃくちゃな奴……」


他のメンバーもこれ以上の言い合いは不毛だと溜め息を吐き、黙って帰り支度を進めていった。


「あれ、俺の鞄は?」


葵瑞も帰り支度をしようと鞄を探したが、楽屋の何処にもそれは見当たらなかった。


「なぁ、ここに置いといたんだけど、知らね?」


隣にいる織に声をかけると、織は嫌悪感を丸出しにした。


「うるさいなぁ。男のくせにグチグチと……」

「は? 関係ないだろ」


小言のようにそれだけ言うと、織は完全に無視を決め込み足早に楽屋を出て行った。

他のメンバーも、葵瑞の言葉に耳を貸すこともなく早々と楽屋を後にする。


「なんなんだよ」


五人目の美生が出て行ったところで、葵瑞の目の前にドスっと音がして鞄が置かれた。

それはまさに、葵瑞が探していたものだ。


「ほらよ」


いつものように面倒臭そうに、伶は葵瑞の前に立っていた。

バツが悪そうに、これから言う言葉を想像して更にやりにくそうに。


「おまえが隠したのか?」

「ちげぇよ。まぁでも、黙って見過ごしたから同じようなもんか。おまえに一つ忠告しといてやる。辞めるなら、今のうちだ。悪いことは言わねぇ。これ以上散々な想いしたくなかったら、自分から去った方がラクになれるぞ」


それは最早忠告ではなく、脅しだ。

そして更に厄介なのが、あたかもそれが彼にとって最善だと思っているということだ。

自らこんな哀れな作戦に参加しておきながら、まるで自分は情けをかけているかのような振る舞いが、葵瑞は余計に気に入らなかった。


「正直に言えよ。おまえは自分が傷付くのが怖いだけだろ?」

「あ?」

「透けてんだよ。悪者になるロクな覚悟もねぇクセに、中途半端なことして偽善者ぶってんじゃねぇよ。ダッセ」


散々な言われ方をして、伶は一周回って冷静になった。

こんな子供の挑発に乗るほど、彼も子供ではない。


「知らねぇからな。この青二才が」


吐き捨てるようにして、楽屋を後にする。

葵瑞の中に見えた仄かな眩しさを、伶は敢えて見ない振りをした。

こんなのやってられない。

眩しいのは、苦手だ。

目を開けていられなくなるから──。


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