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ロストユースに青を知る  作者: 志結
第二章
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第二十一話《呉越同舟》


「おい、ちょっと面貸せよ」


会見から数日後、平日昼間の現場が終わった後で、陽七星はそう言って五人を引き止めた。

マネージャーやスタッフがいない状況で、空いている控え室を借り六人だけで席に着く。


「何よ、なんか改まっちゃって」


普段は仕事が終われば即帰宅する陽七星に、何か妙な予感がして海が尋ねる。


「何って、作戦会議だよ。あいつを辞めさせる為のな」


陽七星の言葉に、六人はさすがに驚いた反応を見せた。

しかし、誰も口を開かない。

「本気なの?」とか「そんなことやめた方がいいよ」と、誰かが続くべきだろう。

普通の会話なら、それが自然な流れだ。

詰まるところ、普通ではない。

ここにいる誰一人、普通ではないのだ。

普通ではないからこそ、彼らはここまでやって来られた。


「なんかいい考えあんの?」


ニヤッとほくそ笑んだ海が、頬杖をついて陽七星に続きを促す。

それに合わせて皆が黙って陽七星に視線を向けたのが、全員の答えだった。

俺達は、共犯だと──。


「決まりだな」

「勿体ぶってないで早く教えなさいよ。どうやってあいつを辞めさせるの?」

「まぁ待てって。それよりまず、実際あいつと数日やってみて、おまえらどうだ?」


急かす海を宥めて、陽七星はまず先に全員を促した。


「どうって見たまんまよ。あいつほんっとに生意気でクソガキで、言動にも行動にもそれが出ててまじうざい。礼儀もなってないし、そのくせ頼さんとかにはちゃんと挨拶しててさ、いい子ぶりっ子ってほんっとに無理!」

「それは俺も思ってた。あいつ俺らを毛嫌いしてるし、仕事相手に対しても妙に突っかかるとこあるだろ? でも頼とか、特定の相手にはなんかお行儀良くしてんだよ。人選んでるんだよ、まじきめぇ」


おまえらにだけは言われたくないと、ここに葵瑞がいたら言いそうなものだ。

皆それぞれ接し方こそは違うものの、葵瑞のことを疎ましく思っているのは同じだった。


陽七星と海はひたすら葵瑞に絡み罵声を浴びせては、歯向かって来る葵瑞をボコボコに言い負かした。

この場合勝ち負けをつけられる筈もないのだが、こういうのは基本自分が勝ちだと言った方が勝ちなのである。

自分達の意見が正義であると、勢いと言葉数で相手を押さえつけるそのやり方は、ひたすらタコ殴りにする側がいつだって彼らの中では勝者だ。


「どうっていうか、やっぱりどうしたってファンの反応が良くないよ。みんな新体制に反対してる。六人の僕らを応援してきたのにって。まぁ、これは予想できてたことだけど、正直予想以上ってかんじ」

「美生も、あの子が加わってどう変わったかっていうのかより、新体制になったことと、その子がいきなりセンターに抜擢されたことの方が問題になってるように思う。ブログのコメントも、美生に対してっていうより、事務所のやり方に対して抗議してる人が多いもん」


勇為と美生は、まるで手を差し伸べてあげているかのような恩着せがましい態度で、ネチネチと執拗に葵瑞に絡んでは、自分の正義を思いやりや優しさの類いとして押し付けていた。

これはタチが悪く、一見周りのスタッフや関係者から見ると、とても良好な関係を築いているように見えるのだ。

二人は陽七星と海のように表裏を完全に使い分けているタイプではなく、公でも態度や口調はそこまで変わらない。

遠くから見ていれば、新メンバーを気遣い声をかけてあげている優しい先輩に映るだろう。


「俺は別に話さねぇから、あいつに対してどうとかは特にねぇけど。ただまぁ、まずは第一に今作ってる新曲な。あのキーと声質の奴をどう入れ込むか、全然イメージが湧かん。締め切りもいつもよりはえーし、まじで無茶振りが過ぎる」

「私もあまり喋らないかな。できれば関わりたくないっていうか、ダンスに関してはそんなに口出すことなさそうだし。新しいフォーメーションはとりあえず作ってみたけど、やっぱり違和感すごいし、今までの曲で陽七星と海で組んでたとこをどう変えるかも面倒ってかんじ」


伶と織は、本人達が口にした通りあまり葵瑞と直接絡むことが無かった。

勿論自分から話しかけに行くことは無く、仕事で仕方なく話す時も特に当たり障りのないことを話してやり過ごす。

この二人は基本裏では口数も少なく表情もほぼ無いに等しい為、仕事の時は普段使わない表情筋を必死に使ってなんとか乗り切っている。

その為疲労も人一倍なのだが、この五年間で培った生き残る為の技術はさすがと言うべきか。

基本的に自分から関わりに行くタイプではないが、葵瑞の存在がクリエイター目線から厄介な異分子であることは間違い無かった。


「建前はいい。俯瞰した意見じゃなくて、本音を聞かせろよ。あいつに腹立つだろ?」

「そりゃあもちろん、大嫌いだよ?」

「美生も」

「右に同じ」

「普通にムカつく」


建前を取り払い繕うことを無くした大人達は、容赦無く葵瑞に対する不満を幼稚な言葉で連ねた。


「最初からそう言えよ。めんどくせぇ奴らだな。ま、ここからが本題だ。今ファンの間で何が起きてるか知ってるか?」

「知ってるわよ。署名活動でしょ? 事務所に抗議するってやつ。でもあんなの、本当に実現できるわけ?」

「別に法的に実現させる必要はねぇさ。要はその声を煽ってでかくして、事務所がこれ以上好き勝手できねぇように圧をかければいい。結局は人気商売なんだ。事務所がファンの反感を買い続けてる中、それを無視して強行突破できるほど頼も神経図太くねぇだろ」


それは最早嫌いな葵瑞を追い出そうだとか、自分の立場を守ろうとしているものではなく、頼人に対する仕返しが本音のような気さえする言い方だった。


陽七星にとって、頼人は特別だった。

メンバーの中で陽七星のことを一番大切にしていて、誰よりも贔屓してくれているという自負があった。

そもそもこのグループだって、陽七星の為に頼人が用意してくれたものだと思っていた。

それなのに箱を開けてみればどこぞの知らない女とダブルセンターという形で、そして最近は得体の知れない新メンバーのガキに夢中だ。

そして極めつけは、この前の言い草だ。

陽七星は、ただ許せなかったのだ。

頼人が自分を大事にしていないことを。

自分の思い通りにならないことが。


「ねぇ見て。今調べてみただけでも、既に一万人くらいその署名活動に参加する意志がある人達がいるって」


勇為が差し出したスマホには、その言葉の通り、七人における新体制に反対する意志のあるファン達の書き込みがあった。


「うわ……結構言葉キツ……。本当に暴動が起きそうな勢い……」


そこには『新メンバー死ね』『事務所を許すな』等、強い言葉で書かれた中傷的な書き込みが並んでいた。

あまりの酷さに引き気味な美生に対し、勇為は声を弾ませた。


「『YUIを守れるのは私達しかいない』だって。さっすが僕の彼女達。愛してるよ♡」


気分が良さそうにスマホにエアーキスをしてみせる勇為に、全員がうわっと嫌な顔をする。


「とにかくだ。テレビの発言やSNSでも、そいつらの声を加速させるように仕向けるんだ。ただし、上手くやれよ? 表面上は今の新体制を応援して欲しいという演技をするんだ。俺達は事務所の決定には逆らえずに、言うことを聞いて仕方なく現状を維持するしかない感を出せ。そうすれば、ファン達は勝手に使命感で動いてくれる」


それは応援してくれているファンに対して、非常に失礼な思考と行いだろう。

しかしそれに賛同してしまうくらいには、彼らは今の現状に不満を抱き、なんとしてでも脱したいと考えていた。


「ふーん。まぁ乗ってあげなくもないわ? ヘマすんじゃないわよあんた達」

「心配ないよ海ちゃん。僕の彼女達みんなチョロいからさ」


六人の決意は固まり、彼らの作戦は滞りなく進んでいった。

彼らが葵瑞を庇うような発言をする度、世間はその様子に疑問を抱き、より事務所への不信感が募っていくのだった。


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