第二十話《青さ》
「離せって! うぜぇ!」
自販機が並ぶ廊下に誰も居ないことを注意深く確認して、陽七星は葵瑞から乱暴に手を離した。
「おいガキ、調子に乗るのもいい加減にしろよ」
「なにが」
「記者の前であんな発言して、俺らのイメージが落ちたらどうしてくれんだよ。うちは一応表向きは、仲の良さが売りでやってるっつーのに」
自販機のボタンを押して、陽七星はペットボトルを取り出しミネラルウォーターを飲み始めた。
勿論、自分の分だけだ。
葵瑞に奢る気など更々無いらしい。
「はっ、そんなことの為に嘘吐いてまで必死なのかよ。そうでもしねぇと、売れる自信がないんだろ」
「は?」
「本物の自分で勝負する自信がねぇんだろっつってんの。何にビビってんの?」
「てめぇ!」
挑発にまんまと乗って、陽七星は葵瑞の胸倉を掴んだ。
睨んでも怯まない葵瑞の姿勢に、逆に気押されそうになる。
「俺は自分を偽ったりしない。飾らないありのままの俺で、おまえらに勝ってみせる」
生意気な葵瑞の言葉に、一瞬陽七星の目の奥に何かが灯る。
その中に何を見たのか、この時の陽七星が知る由もない。
「……ガキが偉そうに。俺様にナマこいたこと、後悔させてやるよ」
ここで殴りつけたところでどうにもならない。
それよりも、もっといい方法がある。
より辛い、より苦しめるやり方が。
葵瑞を突き飛ばし、陽七星は不敵な笑みを浮かべ戻って行った。
真っ暗闇の部屋の中、布団に包まりスマホを眺める一人の少女がいる。
映るのは、会見で話す陽七星の姿。
他の人なんて全く興味が無い。
何度も何度も、陽七星が喋るシーンを巻き戻しては繰り返し見つめる。
『えっと……正直、僕らもつい先日、事務所の方から聞かされたばかりで、困惑している部分もありますが、皆さんに受け入れていただけるよう、今まで通り精一杯頑張っていきたいと思いますので──』
何度も、何度も、コマ送りにして彼の言動と表情から真意を汲み取ろうとする。
「……あぁ……そっか……。そうだよね……ホントは嫌だよね……。だけど事務所の決定だから、仕方なく我慢してるんだよね……」
何かに取り憑かれたように呟く彼女の部屋の壁は、HI7SEのポスターや写真でびっしり埋まっていた。
それはプライベートのもの等もあり、その様子は狂気を孕んでいた。
「私が……なんとかしなきゃ……。……待っててね。今、助けてあげるから……」




