第十九話《暴走》
会見終了後、次は各記者の個別インタビューが始まった。
二、三人のグループに分かれ、対談形式で行われていく。
新メンバーの葵瑞は、陽七星と海と同じグループに分けられた。
((よりにもよって……))
二人は心の中で額に青筋を浮かべながら、それでも長年培ってきた芸能人スマイルで記者に挨拶をした。
「ほら、挨拶して」
「……よろしくお願いします」
裏で話す時とはまるで違ういいお姉さんムーブを見せる海から、葵瑞は面白くなさそうに目を逸らした。
「先程新しく上がった動画を見せてもらったんですが、新メンバーのAZUくん、凄くダンスお上手ですね」
「……ありがとうございます」
ストレートに褒められて、葵瑞は素直にお礼を言った。
会見が終わったのと同時に、BLUE BIRTH+の動画チャンネルには、既存曲を七人で踊ったダンスプラクティス動画がアップされていた。
これも昨日、急いでフォーメーションを直し急いで撮影したものなのだが。
歌の部分こそ参加はしていないが、センターで堂々と踊る葵瑞の姿は、決して周りのメンバーから引けをとらなかった。
当然、メンバー達は心底それが面白くない。
「本当にビックリしました! 歳もこれだけ離れているので正直大丈夫なのかな? って気持ちもあったんですけど、まだ子供なのにこんなに踊れて凄いなって!」
「……」
先程は素直に喜んでいた葵瑞の瞳が、すっと光を失くして濁る。
記者の目を突き刺すように、厳しい眼光を向けた。
「まだ子供なのにって、なに?」
「え?」
思いもよらない葵瑞の反応に、記者の女性が固まる。
「俺が子供だから褒めるんですか? それって失礼なんじゃないですか? てか、子供だろうと大人だろうと、そんなの関係無くても、この中で一番上手いのは俺だし」
上手いことトチってくれたらいいなと左右で構えていた陽七星と海も、これにはさすがに口を開けて固まった。
「いえ……そういうわけじゃ……」
「子供でいることって、ハンデかなんかなんですか? 勝手に憐れまれて、子供なのに上手いねって、そんなふうに褒められて喜ぶと思ってるんですか? そんなんだから──」
「待った待った! ストップ! いやー、ほんっとすみません。この子ほんっとにまだ子供で思ったことすーぐ口にしちゃうもので」
「あたし達がよーく言い聞かせておきますから。なんせ思春期真っ只中で変にカッコつけたがっちゃうみたいで」
暴走する葵瑞をさすがにこれ以上喋らせるわけにはいかないと、リングへタオルを投げ込むようにして二人は左右から葵瑞を押さえつけた。
「ちょ、やめろよ!」
「初会見で緊張したんだよな? ちょっと向こうで休憩すっか。あ、ジュース奢ってやるよ」
無理矢理葵瑞を廊下へと引き摺る陽七星に、葵瑞が暴れながら抵抗する。
しかし体格差がある為、その抵抗も虚しく二人は部屋を一旦出て行った。
「すみません……今のくだり、丸々カットでお願いできますか?」
様子を伺っていた惇がこっそりと、記者の女性に頼み込む。
「……えぇ……はい、分かりました。私も配慮が足りませんでした……」
「いえいえ! こちらの不手際なので、どうぞお気になさらず!」
初っ端からこんな記事が出回れば、新生ブルバの未来は早々に閉じられてしまうだろう。
普段の六人の時ですら裏の顔が出ないかハラハラしているのに、ここまでありのままを曝け出す葵瑞の行動は予想外だった。
「ねぇ、新メンバーの子大丈夫?」
「こんなんじゃすぐトラブルになるんじゃない? ただでさえSNS荒れてるのに、新体制うまくいくのかぁ? 最悪解散とかにならなきゃいいけど……」
部屋の奥で、スタッフがコソコソと話しているのが耳に入る。
言うまでもなく、惇が今最も危惧していることだった。
葵瑞のフォローを行うことは当然だが、それよりも葵瑞に対する六人のストレスや精神的負担を考えることの方が実は怖い。
それがもし何かの拍子に爆発してしまえば、公の場で裏の顔を晒してしまったのなら、そちらの方が取り返しがつかない。
「はぁ……胃が痛い……」
惇は鞄から胃薬を取り出し、天を仰ぎながらそれを飲み干した。
絶対に失敗はできない。
六人の為ではない。
何より、彼を拾い重要な仕事を任せてくれた、頼人の為に──。




