表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロストユースに青を知る  作者: 志結
第二章
16/36

第十五話《邂逅》


「みんなお疲れー! 夏バテしてない!? 今年の夏は特に暑いからねぇ!」


一触即発の雰囲気の中勢い良く扉を開け、頼人がハイテンションで声を上げる。

ただでさえ暑い中、暑苦しい頼人のウザ絡みに、部屋の温度が更に増すのを肌で感じた。


「テンション高……」


海の呟きと同時に、メンバー達も呆れたように溜息を吐く。

確かに、今年の夏は特に暑かった。

まだ六月だというのに気温は既に35℃を越え、連日猛暑日が続いていた。

真夏にはもっと暑くなるだろう。

今思えば、それはこの夏に起きる何かを示唆していたのかもしれはい。

何かが始まり、そして終わることを。

かけがえのない、忘れられない夏になることを──。


「突然だけど、ブルバの新メンバーを紹介します!」


「「……はぁ!?」」


脈略も無い突然の言葉に、六人は驚いた声を上げた。


「入っておいでー!」


そんな六人の動揺もお構い無しに、頼人はその人物を呼び込んだ。

その呼び声で入って来たのは、一人の少年だった。

白みがかった髪に、澄んだ青い瞳。

そして見るからにまだ幼く、まさに見たまま子供だった。


湊葵瑞(みなと あず)くん、13歳でーす! お肌ピッチピチでフレッシュでしょ?」

「13歳!? まだガキじゃねーか! 冗談だろ!?」


陽七星の言葉に、頼人は変わらず満面の笑みで答える。


「大真面目だよ! 俺が見つけた原石! ダイヤモンド! 才能の塊! 次の新曲から七人体制でいくから」


淡々と決められていくグループの大きな変更に、誰もが戸惑いを隠せなかった。


「ふざけんな! こんなガキと仕事できるわけねぇだろ! 13歳って、まだ中坊だろ?」

「大丈夫! まだ若いけど、歌もダンスもみんなに引けをとらないくらい上手いから!」

「俺様と並べる実力って? そんなわけねぇだろ! こんなガキに何ができるっつーんだよ! まだ社会のことなんか何一つ知らねぇガキに! おいおまえ! 黙ってねぇでなんとか言ったらどうなんだ!?」


頼人から標的を変えた陽七星の怒鳴り声に、葵瑞と呼ばれた少年が俯いたままゆっくりと口を開く。


「……うるせぇ……」

「は!?」

「ごちゃごちゃうるせぇ大人だって、そう言ったんだけど」


下から陽七星を睨み凄んだその声は、まだ声変わり前のとても可愛らしいものだった。

彼が完全に子供であることを、その一声で証明してしまうほどの。

緊張で張り詰めていたメンバー達が、その声で一斉に吹き出し大爆笑する。


「はははは! なんだその声! 声変わりもまだのガキんちょじゃねぇか! 中坊どころか小学生なんじゃねぇの!? 毛もまだ生え揃ってねぇだろ!」

「ウケる! こんなんであたし達と並べるって言ってんの? てかこんな青くさいガキと一緒のグループにされたんじゃひとたまりもないわよ。思春期真っ盛りな坊やに欲情でもされたら困るんだけどー」


陽七星に続いて、海も葵瑞を卑下する言葉を投げかける。

その声に、葵瑞も冷ややかに海を見据えた。


「心配すんな。おまえみたいな下品な女、全く興味ない」

「は!? あんた舐めてんの!?」

「ちょ、こんなお子ちゃまに振られてやんの! ダッセー!」

「うっさい! あんたは黙ってなさい!」


二人のやりとりに、再び陽七星が爆笑する。

額に青筋を浮かべた海は、葵瑞の前で腕を組み彼を上から見下した。


「ねぇ坊や。大人への口の利き方がなってないんじゃない? いくら子供だからって、この業界に携わる以上礼儀は弁えてなきゃダメよね?」

「ちゃんとした大人になら、それ相応の礼儀は守るさ。おまえらみたいな中途半端じゃなきゃあな」

「何よ、中途半端って」

「まぁまぁ、ガキには難しいだろ。見たところ業界経験も無い素人同然だろうし。大人の会話は理解できねぇって」


海を宥めるように肩を寄せて、陽七星は葵瑞を煽った。

その様子に気を良くした海も、「それもそうね」と言って再び葵瑞を見下す。

普段仲の悪い二人が、共通の敵を見据えて結託していた。


「おまえらだって、上から見下して優越感に浸ってるだけで、中身は子供のままだろうが。そんな奴らに礼儀もクソもねぇっつってんの」


「は!? 調子に乗んなよクソガキが!」

「まぁまぁ、その辺にしといてさ。これから徐々に親睦を深めていってくれたらいいよ。来週には正式に公表するからさ。新しいアー写も急いで撮らなきゃだし、これから忙しくなるよー!」

「来週って、いくらなんでも早すぎません?」


これまで様子を伺っていた勇為が、黙っていられなくなり声を上げる。


「こーゆーのは早い方がいいからさ」

「ファンは絶対に動揺しますよ。箱推しの人も多いのに新メンバーの加入なんて、ファンが最も嫌がることじゃないですか。それに、こんなに歳の離れた……」

「そうですよ。美生のファンを悲しませるのは嫌。今のままじゃいけないんですか?」


勇為を毛嫌いしている美生も、自分の地位を脅かすこの状況に、居ても立っても居られない様子で彼の言葉に賛同するように続いた。


「この業界、同じことをしていちゃ勝ち残れないよ。常に新しい風を入れていかないと」

「だからって……いきなりこんなの……。今まで美生を応援してくれたファンの人達を裏切るみたいで……」


付き合いが長い陽七星と違って、他のメンバーは頼人に対して強くは言えない。

それでも、ここで退けば大切なものを失ってしまうだろう。

それを防ぐ為に必死だった。


「もちろん賛否両論はあるだろうけど、その辺のファンのケアは美生が得意だろ? よろしく頼むよ。あー、それと織。この後の振り入れで早速葵瑞も入るから、一旦フォーメーションはバラしで、全体の振り写しだけしといて」

「え……。フォーメーション全替えするんですか? 今から?」


名指しからの突然の提案に、織も思わず言葉を濁す。

先程このくだりは陽七星と海の言い合いで既にやっているのだが、それを頼人が知る由もない。


「悪いけど頼むよ。まぁ基本は、今ダブルセンターで空いてるひなと海の間に葵瑞を入れるかんじでさ。次回のリハまでに修正しといてくれる?」

「「はぁ!?」」


頼人に言葉を返したのは織ではなく、陽七星と海だった。

先程までどちらが真のセンターかを争っていたのに、突如そこに割って入ってきた新メンバーにメインを奪われてしまうというのだ。

さすがに黙っては見過ごせない。


「あと、葵瑞のレコーディングが終わり次第歌割りも変更するからね。決まったらまた連絡するからさ」

「ちょっと待てよ。さすがにこんな声の奴が歌う想定で作った曲じゃないぜ? 今から曲まで直せって言うんすか?」


今度はメインで歌う側ではなく、曲を作った側の伶が思わず声を上げる。

今の六人で歌う為に作った自分の作品を、新体制の七人で歌うものに急遽変更しろだなんて言われたら、流石に文句のひとつも言いたくなる。


「本当はそうしたいところだけど、さすがに今から曲まで変更するのは難しいからなぁ。でも、次回からはそれも込みで頼むよ。大丈夫、葵瑞は女性キー余裕で出るからさ、海の歌割りを上手い具合に振り分けるかんじでイケると思うよ」

「はぁ!? 冗談じゃないわよ! なんであたしが減らされなきゃなんないのよ! 陽七星の方から取ればいいじゃない!」


お次は自分に損な役回りが回って来た海が、納得がいかないというように頼人に噛み付く。

このままではセンターを葵瑞に取られるだけでなく、陽七星とも格差がついてしまう。


「キー変えても問題ないところはひなの方からでもいいかもだけど……まぁそれに関してはレコーディングの時にプロデューサーに相談するよ。惇、葵瑞のレコーディングの日程決まったら、他のスタッフにも連絡しといて」

「あ……はい、分かりました。でも俺も今初めて知らされて、正直頭が追いついてないっていうか……。せめて事前に教えておいてもらえれば……」


反対はしないものの、マネージャーの自分には先に知らせておいてくれても良かったんじゃないかという疑念から、惇の返事は歯切れの悪いものになった。

真っ先に浮かんだのは、秘書の幸の顔だ。

もし自分より先に幸に報告もしくは相談をしていたのではないかと思うと、嫉妬でどうにかなりそうだ。


「ごめんねー。なる早で始動させたかったからさ。手続きやらなんやら忙しくって。あとはサプライズでみんなに知らせたかったし?」

「まぁ、頼人さんが決めたことなら、俺は従いますけど……」

「てなわけだから、みんなあとよろしくねー!」


お気楽に手を振って、頼人は葵瑞を残して部屋を出て行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ