魔女の願い事
わたしは北の森に住む魔女。噂が噂を呼び、なんでも願いが叶えられるとささやかれているが、バカ言っちゃいけない。
願いを叶えるのには代償が必要なのさ。代償とは願いに見合うお金、食べ物、呪文、あるいは命なんかもあるのさ。
なんでもそうだろ?
パンひとつ得る為にはお金が必要。魔術もそうなのさ。
それに魔術はわたしと契約している「見えない存在」が動かない限り発動しないもんなんだ。代償を受け取るか受け取らないかも、奴らの気まぐれだったりする。
だからわたしは魔術に頼って願いを叶えようとするなんて、バカだなと思ってる。代償は子孫や家族の命ってこともあるからね。おぉ、怖い。
それなのに、またわたしの家に誰かやってきたよ。願いを叶えてくれって泣きついてくる。
「おまえさんは願いを叶えるために覚悟はあるかい?」
そう静かに語りかけていた。
◇◇◇
わたしはシンデレラって呼ばれてる。家では灰だらけで掃除しているからね。今や誰も名前で呼ばない。
「おい、シンデレラ! さっさと煙突掃除をしな! 全く薄汚い娘だよ!」
今日も血の繋がらないお姉さんから、いじめられている。
涙が出そう。奥歯をかんで我慢するしかないけれど、お姉さんは今夜お城で舞踏会に行くらしい。
華やかなドレスやきらきらした靴も、見てしまった。
「お姉さん、いいなぁ」
もちろん、お父様の連れ子で、死んだお母様の身分が低いわたしは、舞踏会なんて行けない。屋敷の裏階段で、一人、泣くのを我慢していた。
夜空には星がきらきらと光ってる。流れ星なんてない。願い事もできない。灰で真っ黒になった両手をみつめるだけ。
その時だった。とある噂を思い出した。北の森に住む魔女に頼むと、なんでも願いが叶えられるらしい。魔法で綺麗なドレスや靴を出してもらい、王族に見初められた姫もいると聞いたことがある。
「わたしも願いがかなえられる?」
両手を見つめながら、もう泣きたくなくなった。わたしは走って北の森へ。
もう夜だ。森の中も闇みたいだったが、魔女も家には灯りがつき、すぐに見つかった。
「ほぉ、おまえさんはシンデレラという娘だね」
魔女はわたしのことも知っていた。話が早い。綺麗なドレスや靴で舞踏会に行きたいと言う。叫ぶように訴えていた。
一方、魔女は冷静だ。
「おまえさんは願いを叶えるために覚悟はあるかい?」
「え?」
「願いを叶えるためには代償が必要だ。時にはお前さんの命も頂こうか?」
魔女の低い声、全身に絡みつく。鳥肌が出ていた。
「おまえさんの命だけでなく、親や子供、孫の命もいただこうか。そういう契約だわ」
「そ、そんな」
「パンでも得る為にはお金が必要だ。おまえさん、そんな結果だけ都合よく手に入れようとするのは、泥棒というもんさ」
そこまで言われたら、わたしも反論できない。下唇をかんでしまう。
「わ、わかったわ。帰る」
「あぁ、その方がいい。おまえさんは聡明だ。美人だ。魔法に頼らなくても幸せになれる」
「そうかしら」
「せいぜい流れ星に願いを口にするぐらいにしな」
なぜかその魔女の声、とても優しい。綿菓子のようにふわふわしていた。
その帰り道、本当に流れ星をみた。一瞬だった。願い事も言えないぐらいだったけれど、ドレスは型落ちでも十分だと思い始めていた。姿勢、言葉遣い、笑顔、会話などの武器は、魔法や星に願わなくても、得られる?
再び夜空を見上げた。きらきら光る星を見ていると、わたしの願い事、もし叶わなくたって大丈夫な気がする。どんな時も星は輝いてる。永遠に変わらないものと比べたら、小さなこと。
「そうか、わたしは自分で頑張るの逃げようとしてたかも……」
それに気づいたわたし、もう願い事をするのをやめた。その代わり、目の前のできる事、一生懸命やってみる。
◇◇◇
「あのシンデレラって娘、結婚したのか」
わたしは魔女。最近はもう引退状態。北の森に引きこもっていたけれど、以前、会ったシンデレラが事業を立ち上げ、隣国の王族と結婚したという知らせを聞いた。
「魔法に頼らなくても、願いが叶ってよかったな」
ひとりごとをつぶやいた時、誰かが尋ねてきた。
あのシンデレラの姉だった。血は繋がっていないようで、顔は全く似ていない。吸血鬼のような八重歯がやたらと目立っていたが、シンデレラが結婚することが悔しく、王子様と結婚できるように魔法をかけて欲しいと泣いていた。
その姿、芋虫のようだ。わたしは思わず見下げたが、わざわざ願いの代償について説明してやるのも面倒になってきた。
「おまえさんは願いを叶えるために覚悟はあるかい?」
「そんなのなんでもいいから、願いを叶えよ!」
人の話を聞かない。失礼な娘だ。二度とこの娘には願いの代償について話さないと決めた。
「わかったよ。今すぐガラスの靴を出してやろう」
「本当!? すっごいきらきらした靴にしてね!」
わたしは呪文を唱え始めるが、この願いの代償は何になるかは、知らない。知る必要もなさそうだった。




