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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第一章 エドゥー星系
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9.庶民



 スパイスホエールは人工島。ブロック状のパーツを繋げて敷地を広げて、速度は極めて遅いけど航行能力も備えている。頭が良いのか悪いのかよく分からない施設。何か新しいモノを作ろうとする人ってどこにでもいるわね。


 島の外周にコの字をいくつも並べて、どの艦も外を向いて係留してある。すぐに出港できるようにと意識しているのは立派だけど、乗組員が寝てたらねぇ。


 一キロメートル未満の距離から魚雷投下。水平に直進して外しようがなく水面下の船首に当たり、メインはアルミニウムだけど他のなにかも加えたテルミット反応で燃焼。海の中とか全然関係なく燃えて、衝突の際に魚雷を推進させるスクリュー側が覆って冷却も防ぐ。艦の外側はカーボン主体。音波を吸収とかなんとか。そこを溶かしてからが凶悪。時間にすれば一瞬だけど、外側を溶かして食い込んだ魚雷は、金属を蒸発させる超高温に達する。つまり、敵艦の鋼鉄を材料にした気化爆弾に変わる。


 外からは分からないけど中は地獄でしょうね。着弾箇所は大穴が空き、艦内下層の空気を全て一瞬で消費するほどの爆発が発生したはず。逃げ場のない閉鎖空間の爆発なんて中はグチャグチャかもね。


 私は投下と同時にシャンデル、ちょい上に向けたUターンを二回行い、島との距離を一キロメートルに保ちながら停泊したままの艦に魚雷を撃っていく。もうなんかアレね。横一列に並んだ直立不動のヤロー共を次々ビンタしていく気分ね。まだされていないヤローが横目で被害者を見て涙目になりながら震えていてチョット嬉しそうにも見えるのがムカつく。いや軍隊でそんなイジメしたことないわよ本当よ。


 速度を上昇に変えながらUターンして、下降しながら速度を上げて狙いをつける。峠をドリフトするヤンキーのドラテク(ドライビングテクニック)とは違うのだよドラテクとは。プロは燃費を常に意識する。ただでさえ稼働時間の短い機体だから余計な負荷のかからない機動が必要になる。さらに水平ではなく上下を意識した立体機動(マニューバ)になるのは━━。


 『まだ出港しねぇのかよ全滅してぇのかっ』

 『艦がシュタタッて動くと思うな』

 『んなこと言ってんじゃねぇよ乗組員は動いてんだよな。彼女のお出かけのほうが早ぇわ』

 『てめぇのイマジナリー彼女に興味ねぇよ』

 『はぁ? 実在しますけどっ。てめぇおもて出ろや』

 『出てぇよ。今すぐ陸地に逃げてぇよバカヤロー』

 『ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙、キャンドルタエリーヌちゃーん』

 『ガルパン系コスTUBERじゃねーか』


 あ、違った。オープン回線だからいろんな人が喋って訳わかんないわね。


 『おいトーチカぁ、もっと撃ちまくれよ』

 『狙ってんだよ集中してるから話しかけんな』

 『数撃ちゃ当たるの四連装砲塔でスナイパー気取りかよ笑わせんな』

 『数撃っても当たる気しないから狙ってんだろーが』

 『おいおい下手な鉄砲以下が自慢ですかぁ?』

 『向こうが上手すぎるんだよ見てみろあの機動っ、上下左右に照準が定まらなくて緩急まで変えるから偏差も読めねーんだよ』


 ハイ良く出来ました。これが敵側の視点ね。一キロメートル離れて乱射されても良く狙ってもかすりもしないわよ。さらにトーチカは外周に等間隔に配置されている。それぞれの担当区域というか射角があって、私の機動に慣れたころには私は隣りの区域に移動している。

 そして本来脅威になる、相手にとっては頼りになるはずの兵器はSAM、地対空ミサイルなんだけど。


 『なぁ、ミサイルってこうも当たらないもんなのか』

 『あの女帝、フレアすら撒かねーんだけど』

 『機動が回避しているようにすら見えねーんだけど』

 『高熱に誘導されるんだよな、本当に? 故障してね?』

 『あのさ、ミサイルってケツを追わせるのが当てる基本なんだよ』

 『ほうほう』

 『正面向いてる時に撃っても正面衝突するタイミングじゃなきゃ当たらないし、正面から飛んでくるミサイルを見て衝突しにいくパイロットは下手かアホかゲーマーなんだよ』

 『まぁそれは自殺って言うよな』

 『あぁー、ゲーマーは残機があると思っちゃうかー』

 『以上を踏まえて女帝を見てみ』

 『あ、正面』

 『いや、ケツを向けたぞ撃てぇー』

 『あ、届くころには正面』

 『いや、ケツを向けたぞ撃てぇー』

 『だから正面だって』

 『え、じゃあどうやって当てんの?』

 『基地上空を通る時に全方向から一斉に撃てばワンチャン?』

 『いつ通るの?』

 『ホラもうすぐ……、艦隊が全滅したら……、こっち来るかも』

 『それこまりゅぅ』

 『お前がアホの子になるな』


 SAMなんて抑止力。備えているから攻めて来んなのメッセージであって、対処法を心得たパイロットからすると怖くない。そもそも敵は前進してくるという前提で、基地周辺はトーチカ、上空はSAMの運用が正しい。周辺からチクチク艦を狙われる想定がされていないからこうやってグダグダになっている。

 

 まぁ本来は空母から艦載機が出撃してドッグファイト、の援護射撃にトーチカとSAMが理想なんでしょうけどね。初動がいかに大事かの見本。消防士はサイレンが鳴ってから現場に急行するまでの訓練を徹底する。訓練だけではなく消火活動は日常だから毎日が有事。緊張感を持って勤務してサイレンの中で無駄話なんてしない。軍人もそこが練度になる。おしゃべりだらけのココは論外ね。


 一キロメートル離れて島を一周するのに約四分。ちょっとかかったけど重巡二隻、軽巡四隻、駆逐艦十二隻は前のめりに沈みつつある。機能は死んでるけどまだ浮いてはいる二隻の空母に一発ずつ撃って艦隊全滅を確認。基地戦力のフリゲート艦三隻は停まっているけど、対空能力はしょぼいから無視でいい。残り武装、魚雷四発、投下式爆弾四発、20mmバルカン砲八百発。


 『終わった……』

 『え、艦隊弱くね?』

 『それな。魚雷ワンパンってねーよな』

 『違ーよ。誘導弾じゃねーから普通は当たらねーんだよ』

 『現に当たってんじゃん』

 『止まった的だからだよっ』

 『弱いことに変わりねーだろ』

 『艦が動き回ってっ、コッチも戦闘機が飛んでたらっ、あんなもん当たんねーんだよ』

 『だ、か、らっ、当たってんじゃん』

 『あー、あー、あー』


 張り出し部分に太った灯台みたいに鎮座するトーチカが目障りだから、トーチカ付近の島数カ所に残りの魚雷を撃った。無力化出来るといいな。ブロックを繋いであるとはいえ、おそらく簡単に切り離すとかは無理だと思う。出来るとしても時間がかかるとか多分そんな構造だから、これで島も沈むんじゃないかな。

 通信を聞いてる感じ、随分追い詰められているみたい。あと一押しってとこか。


 『こちらシシドア山岳旅団所属107航空小隊、珍しいチャンネルでエマージェンシーコールを受け取った。経緯は知らんが加勢する』

 『お……、おお、ありがとう、ありがとう』

 『仕掛けるぞ、フォーメーション・シングルバック』

 『パンター了解』

 『ホルダー了解』

 『リターナー了解』

 『ガンナー了解』


 レーダーに反応、高速接近する新手は五機編成ね。私は機首を向けた。待ってたら基地と連携されるから、こちらから向かう。


 『ブルーエンプレス、何故お前がこんな所で暴れているのかは知らんが散れ』

 『あっれぇ、対空ミサイルきらしてんの? ハァーッハ、お前を倒して俺が有名人(ネームド)エースになってやる』


 四機が菱形(スクエア)、後方だけは少し下、さらに離れて後方に一機。隊長は先頭、血の気の多いボーヤは最後尾っぽいわね。

 四機が同時に対空ミサイルを発射してきた。えーとなんだっけ。正面から飛んでくるミサイルに突っ込むのは下手かアホかゲーマー? 私は下手じゃないしゲームはほとんどしたことないから、アホ? まぁ学力は低いけどっ。失礼しちゃう。


 私は気持ち上昇してから機首を数度下に傾けて、アフターバーナーで加速しつつ腹のハッチを開けた。射線上に先頭と後方の二機が重なるように。左右二機からのミサイルは相対速度の急変化による誘導の修正が間に合わず、私の左右を通り過ぎるから気にしなくていい。回避が必要なのは先頭とその後方からのミサイル。ほぼ真正面だから私はバレルロール、中心軸はそのままに翼を回転させながらバルカン砲のトリガーを引く。


 一秒間に百発以上の連射だからトリガーはコンマ二秒くらいで足りる。キャノピー越しに頭上を通り過ぎる白煙を視界に収めながら動体視力と指先に集中。

 スローモーションの世界の中、ヘルメットの遮光シールドを透かし、避けなかった私に驚いて機体を傾けようとする隊長の表情がうっすら見えた気がした。夜だから見えるわけないけどね。


 半回転、機体が天地逆転したころ先頭と後方二機がゆっくり爆散する様を見ると同時に、私はオーロラ気化爆弾をリリースしながら機体を宙返りさせた。感覚としては、相手に背中を見せた状態でバク転する機動ね。

 誘爆した二機を目の前に、私は下へ、最後方のボーヤは慌てて上へ。そうよね。ボーヤから見て正面と下に味方二機が爆発したら上に回避するわよね。でもそこは━━。


 『はぁ?』


 慣性によって斜め上に飛んでったオーロラ気化爆弾とごっつんこ。夜空にまるで本物のオーロラが現れて、遅れて響く轟音と共にすぐ消えた。

 私はスプリットS、そのまま宙返りしきって残り二機の後方下につけた。二機は状況が把握出来てなくて力なく真っ直ぐ飛び続け、トリガーを引くと一機は爆散、そこで残り一機が正気に返って回避行動をとろうとしたけどもう遅い。二機の後ろにつけた時点でフルスロットルの私に簡単に追いつかれてバルカン砲掃射、空中で爆散した。


 『おい、なんだよアレ……、なんなんだよアレぇ』

 『一瞬で小隊全滅。は、ははひ』

 『空中射出(ベイルアウト)も許さねぇってか? 悪魔め』


 雲の近くまで上昇してからオーロラ気化爆弾をペイっと投下。地対空ミサイルが大量に飛んできても雲を盾にしちゃえば熱源感知不可になって当たらない。まぁ明らかに戦意喪失してるか。


 多分宿舎だと思うけど上から見ると学校っぽい建物が虹色に光って大爆発した。あと二発。


 『私はナムソン方面軍司令官、ハープギー・フォン・グラニート中将だ。……降伏する』


 [世迷い言はあの世で言いなさい]


 『なっ』


 [始めの宣言を聞いてなかったの? お前たちを一人残らず灰にしてあげます、と言ったのよ]


 言葉にならないわめき声と悲鳴がいくつも重なった。


 『そっ、そんな非道が許されるとでも思ってるのか』


 [へぇー、数時間後、シアンド区ムリポ市街を二十隻からなる艦隊の砲撃と、百八十を超える艦載機の爆撃によって、少なく見積もっても三万人以上の市民を殺しても許されると思っているお前たちが、へぇー、なんの抵抗手段も持たない市民を大量無差別に殺す前にぐっすり眠れるお前たちが、ほぉー、いざ自分たちが殺す前に殺される側に回ったら哀れな被害者面して非道ですか? もう一度言う、世迷い言はあの世で言いなさい]


 『わっ、私はグラニート侯爵だぞっ』


 [それがどうかして?]


 『私は国を導く大役を背負っている。万人を守るために百人を見殺しにする決断も往々にして迫られる。ムリポはスラム街だ。市民ではない。国民全体を守る使命を担う我々軍人と同列ではない。ましてやこの侯爵とその他大勢を同列にするなど不敬であるぞ』


 [呆れた。権利と義務はセットなの。庶民の権利は王侯貴族に庇護されること。ここに軍人も含まれる。その権利を受けるための条件、義務は、まっとうに生きること。庶民は生きてるだけで偉いのよ。一方貴族の権利は庶民よりあらゆる点で優遇されること。その権利を振りかざすための義務は、庶民がまっとうに生きられる環境を作ること。おつむの出来が悪そうだからもっと噛み砕いて言ってあげると、そもそもスラムなんてない国を作ること。親のない子供が罪を犯さなくても笑って暮らせる国を作ること。侯爵のくせに最低限の義務も果たしてないから主張出来る権利なんて持ってないわよ無能]


 私は舞台に立つヒーローを支える黒子でいい、民の喜ぶ物語の裏方でいい。心から尊敬できる伯爵もいるってのに、ったく。

 苛立ったからつい爆弾投下しちゃったじゃない。

 通信にいくつもの悲鳴が入り、誰かが割り込んで叫んだ。


 『おっ、俺たちは上官の命に従っただけだ。仕方なかったんだ』


 [そう、じゃあ上官に従って死んでも仕方ないわよね。諦めなさい]


 『上官の命令は絶対だからどうすりゃ良かったんだよっ』


 [殺せばいいじゃない]


 『なっ』


 [上官の命令は絶対。た、だ、し、上官が有能だった場合。正確にはこういうことよ。そして普通は上官は有能であるはず。貴族なのだから]


 『その通りだっ、だから』


 [だからじゃないわよ無能侯爵は黙ってて]


 『ぐっ』


 [貴族は生まれながらに有能なのではない。有能になれる資質は持っている。その資質を磨き、いずれ庶民を導ける立派な人物になれるよう幼い頃から努力する。そういう生き方を以て人望を集め、庶民から慕われる貴族が完成するの。貴族に生まれた、ただそれだけで享受できる権利なんてない。権利を行使できる義務を果たしている貴族であれば、有能だから命令を絶対とできる。無能だったら躊躇なく殺せ。無能の王侯貴族は生きてるだけで害悪よ。それが出来なくて無能の上官に従って庶民を殺そうとしたお前たちは、もう貴族でも庶民でも軍人でもない。貴族気取りの無能と、まっとうに生きる義務を捨てた犯罪者よ。国も軍も、大多数は庶民なの。庶民によって支えられているの。その庶民を殺そうとしたお前たちが死ね]


 なにが絶対よ下らない。震える手で銃を握って私に逆らった庶民(ゆうしゃ)もいるのよ。


 『さっきから聞いていれば国家反逆の徒がっ。偉そうに語る貴様はただの煽動者ではないかっ』


 [そうよ、やっと気付いたの?]


 『え?』


 [あらら、まさかまだ気付いてないの? 数時間後に決行予定のゲスな作戦について、お前たち、ただの一言も否定しないどころか無理筋の正当化までしようとするからひょっとしてとは疑っていたけれど]


 『あ、まさか、ちょ』


 [この通信、今結構な数のコリアンテ国民が聞いてるはずよ、ねぇみんな?]


 いきなり膨大な声が重なって通信はただの騒音に変わった。どれもこれも罵っていることは分かる、お下品な言葉だらけ。


 情報を制す者が世界を制す。プー兄さんヤバすぎね? そもそもコリアンテの内部情報筒抜けがおかしいし、スパイスホエールに入る外部からの情報を今まで遮断してたのがデタラメ。そのくせコッチからの情報はコリアンテ中にばら撒いてさ。さっきの航空小隊のようにイレギュラーはあって完璧ではないとしても、この流れを計画してブリーフィングで説明してサラッと実行出来ちゃうとか、これだから天才はなんでもありのお手上げなのよね。


 シンクタップの兄さん経由で通信を一時遮断、周りの声を消して、私の声だけがコリアンテに伝わるように。


 [毎日毎日今日一日歯ぁ食いしばって生きてる全ての国民へ、ブルーエンプレスが命じます。……、あなたたちっ、折角のお祭りに立ち会っていつまで傍観しているつもり? さっさと参加しなさい!]



    『『『『『『『『イエス・マイ・フェアレディ!!!』』』』』』』』



 『こちらイェジュー沿岸防衛航空基地、シルド一等兵。航空部隊五機、いつでもいけます』

 『こちらゼコンティ国際貿易センター守備大隊、アヒム軍曹。クズ隊長を拘束(ぶちのめ)して実権握った。近所だから人手が欲しければ使ってくれ』

 『こちら王都防衛軍ノイマン大将。グラニート中将以下スパイスホエールにいる貴族籍の者共っ、恥を知るなら今すぐ全員自決しろ。他にこの腐った作戦に関わった者も、例え王族だろうとただでは済まさんぞ』


 あらあら、起きちゃいそうね、革命。


 


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