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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第一章 エドゥー星系
8/33

8.挨拶



 午後十一時五十五分 イェジュー沿岸防衛航空基地


 パイロット用の更衣室から廊下を渡り、ゴツイ防火扉を開けると目の前は滑走路。誘導灯と管制塔付近が稼働しているおかげで周囲は明るいけど、敷地外、その先は逆に闇が深くなって見えない。潮の香りからあの辺に海があったな、と意識させられる程度。エクスより赤道に近いから温い風が頬をなでる。


 滑走路進入口で待機する戦闘機のもとへ、私は躊躇なく歩く。


 局地戦闘機ブラックパンサー。正式名称は……、どうでもいいでしょ。

 本来局地戦闘機とは対空特化の設計思想。航空基地に対して敵は、まずは爆撃機で滑走路を壊したれ、と考える。成功すれば最もスマート。基地のレーダーで接近がバレてからがよーいドン。爆撃機が基地上空に達して爆弾を落とすのが先か、基地から離陸して爆撃機を撃墜するのが先か。

 

 爆撃機は簡単に撃墜されないよう、特に下側を重装甲にして防御力を高めている。さらに高度を飛ぶことで弾の威力を弱め、地上から対空砲が少しくらい当たっても頑張って飛ぶ。余裕があれば対空装備の戦闘機が護衛してくれる。

 そんな爆撃機と不愉快な仲間たちに対抗するのが局地戦闘機。滑走路から高度までどれだけ早く飛ぶか、ガードの硬い爆撃機をどれだけ早く撃墜するか、護衛機にも簡単にやられてたまるか。


 アプリの話と同じ。万能は悪手。主に予算的に。限られた条件の中で優先すべきは加速性能。次に火力。小回りは……、諦めろ。ダラダラ空戦しないで一度のチャンスで決めろ。防御力は……、そもそも戦闘機にいらないよね? 避けろ。スタミナ? 基地周辺のみの運用だからいらないじゃん。一度飛び立ったら六十分以内に全滅させて降りてこなきゃ墜落するぞ。


 そんな機体だからまぁ、ペーペーには乗りこなせない。ただの棺桶。エースが乗ると、化ける。最高。


 誘導灯の近くに停まってライトアップされている機体を見上げ、私は自然に笑みがこぼれた。

 艶消しの黒に塗装された機体は低いモーター音を鳴らしていて、まるで暖炉のそばでペタンとうつ伏せをしてうたた寝をする大型犬に見える。散歩の気配を感じて時折飼い主を上目遣いする感じ、カワイイ。

 両翼の下にはびっしりと小型の魚雷が並び、絶対に艦を沈める強い意志を感じる。私が頼んでおいてなんだけど物騒にもほどがある見た目ね。


 本来局地戦闘機は対空特化だけど、海岸の多いコリアンテは対艦兵装のオプションが目立つ。というか仮想敵国がエクス王国って分かりやすい。

 久し振りの空を思って期待に胸を膨らませてもう少し機体をチェックしたいのだけど。


 「えっろ」

 「えっろ」

 「えっろ、え? えっろ」

 「おつかれー、間に合った。おー、生女帝……、えっろ」

 「Gスーツってあんなんだった? 絶対違うよな」

 「Gカップスーツだったのか。勉強不足が悔しいです」

 「夢と希望をGで片付けんなアレゃもっと上だぜぇ」

 「おっぱい星人のみなさーん、ここはプリンケツ星系ですよお引き取り下さい」

 「若いねぇ。姿勢が命の軍人長くやってるとあの背筋が天国の扉と気付くのさ。なんまんだぶなんまんだぶ」

 「Gスーツっていくらで買えるっけ」


 暇人(ギャラリー)が集まるのはいいけど声のボリューム落とせ。厚さ数ミリの人工筋肉でムチムチしたライダースーツみたいなもんなのに、そんなにエロいかしら。まぁ事務系以外は軍の大半は男だからね。独身や単身赴任も多そうだし、たまってるんでしょいちいち怒らないわよ。あとGは重力、グラビティな。勉強しろ。


 協力的だから愛想くらい振りまいてやるわよ、と振り返ると。

 横一列に並んだ男全員気持ちほんの少し前屈みやめろ思春期かっ。そして端に並んだカール・シルドっ、嫁にコスプレさせようとしてるの貴様か。


 ったく、ヤロー共に気遣いなんて不要ね。私は手に持つヘルメットを被った。首元がユルユルだけどこれまたエクステに接続するとキュッと締まる。

 タラップを登ってコクピットに入ると、地上の作業員がタラップを取り外して下がり、別の作業員が少し先で二本のライトバトンを構えて待機。そうそう、黙って仕事してる時の連携はカッコイイわよ。


 軽いサービスで地上にサムズアップしてからキャノピーを下ろす。

 さて、エクステに接続。システムオールグリーン。誘導員に従い滑走路に入る。スロットルを上げて揚力を感じながらテイクオフ。

 管制室とのやり取りは最小限。スクランブルだからフライトプランも何もない。てか正直に話すとパニック起こすか。


 ターゲット、スパイスホエールは南東八十キロメートル先の洋上。方位135、ヘッドオン。機体の調子を確かめながらゆっくり飛ばしても十分で着く。

 進みに進んだ文明ならば、爆弾一発で片付かないのか? 

 答えはイエスであり、ノーでもある。


 プロレスって面白いと思わない? 例えば凶器攻撃は反則らしいけど、悪役(ヒール)が凶器で攻撃しても退場にはならない。審判は怒ったジェスチャーはするけど、なにやらカウントしている間に凶器をしまえば許してくれる。なんなら観客は喜ぶ。そして多くの攻撃について、おもいやりを感じる。殴ってるのに優しい。蹴ってるのに寸止めに見える。これなに?


 プロレスラーが本気で殴ったり蹴ったりしてたら殺し合いになっちゃうのよね。それはスポーツでもショービジネスでもない、ただの犯罪。だからルールはないというテイで、ちゃんとルールはある。倒したほうが勝ち、ではなく倒されなかったほうが勝ち。どんなてを使ってでも倒せばいい、とはならない。むしろダサいって評価で観客から捨てられる。全力でじゃれ合って最後まで立ってたタフな人がカッコイイ。それがプロレス。


 現代の戦争もそういうノリに似ている。いや古代からそういうノリはあった。核兵器や毒ガスは使用禁止。使えるけど使ったらダサい、というノリ。

 じゃあ普通の爆弾ならいいだろ、という発想が古代の戦争よね? 普通の爆弾でもアウトになったのが現代なのよ。大袈裟に言うと、もうね、国が本気で普通の爆弾を作って使ったら一国が消えるの。チェンソーで斬っちゃうプロレスラーなの。スプラッタに観客ドン引きよ。


 だから現代の戦争は、ある意味ゲームになった。

 ルールその一、軍は軍人と犯罪者だけに攻撃して良し。もしくは民間人への攻撃ダメ。

 だから軍が攻撃するのは軍事拠点だけであって、他国に侵攻して一時街を占拠、くらいならアリでも街を砲撃して降伏させるとかはナシ。もうこれだけでもゲーム感あるでしょ? 要は破滅しかないルートはやめよーぜ、というノリね。


 ちなみにここで言う犯罪者はマフィアと海賊と宙賊といったグループを想定している。海賊はほぼ聞かないけど宙賊はたくさんいる。最近も王族を誘拐して身代金を要求する宙賊がニュースを賑わせている。コイツらへの攻撃はオーケーむしろ褒められる。


 ルールその二、破壊力が度を超えた兵器は使うな。

 もう核兵器がどうこうレベルじゃないのよね。例えば拳銃一丁にしても自重を捨てたらバキューンと撃って百メートル貫通とか。逆に使いづれーわ流れ弾が怖いどころじゃねぇ。当たれば人ひとり死ぬまでにしろよ、となる。正式名称は知らないし放射線出まくるから使用禁止だけど、本当に都市くらいは消せる対消滅弾ってヤツもある。核兵器も今は反応弾と言って惑星は無理でも小惑星くらいは壊せる。そもそも古代の水素爆弾ですら、理論上は威力の上限なしなのよ危ないわよね。ギャグみたいな威力の兵器で国同士が全てを懸けて戦争したら何も残らない。ダレトク?


 こういうルールはまだ人類が地球にいたころに決められた。原因は大量のクズな天才。二千百年以降に歴史の表舞台に登場したコイツらは、全員ではなくほんの一部だとしても、なんせクズだからルールも倫理も無視して大量殺戮やらかした。プー兄さんに置き換えるのは失礼だけど、天才だから各国の研究機関の中心メンバーになるのよね。どこ見てもマッドサイエンティストだらけという、必然にして最悪の人事。当時の技術力だと最高でも核兵器やバイオ兵器程度だったとはいえ、人類滅亡を実感するくらいには荒れた。もう地球に暮らすの無理ってみんな地下シェルターで泣いちゃうくらいにボロボロになった。


 クズまでは育たなかった天才と、遺伝子コントロールの成功例と呼べる秀才。この人たちが人類の希望となってリーダーシップをとり、少しずつ荒れた世を平らに(なら)す過程で、必然的に王にされた。

 それはつまり、民主主義とやらの終焉でもあった。

 私はわりと不思議に思えるんだけど、何故当時の人類は民主主義が優れていると勘違い出来たのかしら。今も昔も人類の大半はバカ。それはもうしょーがないことでしょ? マッドサイエンティストだらけよりずっと健康的よ。でね、国民の過半数がバカなのに多数決を採用したらその国の代表も方針もおバカ。当たり前じゃん? 一番の実例はヒトラーかしら。


 組織の末端は無能だらけでも問題ないというか無能で占めるのが最適だけど、上に行くほど有能でなければならない。そして能力の優劣は実績を重ねて結果で示すしかないのに、選挙で簡単に上に行けるってヤバ。しかも最高責任者がコロコロ変わる無責任な国って、これのどこが優れていると思っていたのか、千九百年から二千百年までの人類はちょっとおかしかった。やっぱり処理落ちの人だらけだったせいかしら。

 バカに刃物を持たせちゃダメなのに、無責任でトップもバカが確定している国が刃物どころではない威力の兵器を持つって怖すぎる。だから民主主義とやらは破棄された。


 事実、民主主義の時代は平和だったのに、て? 逆でしょ。平和な時代だからどんな無能がトップだろうと、どんな制度だろうと通用するわよ。真価が問われるのは有事の際。そして有事の際の民主主義は、「話し合っていたら滅ぼされました」の小田原評定って言うのよ。


 じゃあ優れた政治形態とはなにか? 二千百年までの時点で、歴史上、もっとも長く続いた形態は古代中国になる。

 革命とレボリューションは同義語とされているけど意味が違う。正確には古代中国は易姓革命。皇帝一族の姓を()えて天命を(あらた)める。

 フランス革命でも明治維新でも、あるいは平安時代から鎌倉時代の間でも、その前と後とで政治形態が丸ごと変わった。「古いやり方は間違っているから新しくする」ってことよね。でも易姓革命は、「お前は人望ないから俺がやる」ってことよ。やり方は否定していない。


 古代中国は何度も何度も革命が起きたけど、変わったのは皇帝一族。トップはそう簡単には変わらない。変えられる時は一族皆殺しだから責任の重さがハンパない。そして簡単には変わらないと言いつつ結構多めに革命は起きてる。言うほど皇帝の権力は絶対ではないってこと。さらに先代皇帝を倒せるなら能力は高いんでしょうよ。科挙によって高官に当時なりの優秀さを求め、トップが無能な時の明確な犠牲者はトップであって末端の民ではない。これ、一番優れてるんじゃない?


 命は平等だの人ひとりの命は星より重いだの、クズな天才の実験(おもちゃ)にされた死体だらけの世界で綺麗事をほざく余裕も知能がおめでたい偽善者も消えて、王政の世が復活した。ただし、パワーバランスは武装出来る庶民のほうが上。王だからってやりたい放題は許されない。貴族だからって調子にノッてたら一瞬で潰す。庶民は普段は王侯貴族をチヤホヤしてやるから身分に見合った責任を果たせ。そんな政治形態に変わって今に至る。


 そして戦争は、外交のひとつ。貿易とか資源採掘権とか交渉を有利にするためのリアル戦略ゲーム、軍人だけが死ぬスポーツに変わった。

 兵器開発は今もどの国も行っている。星を壊す兵器も所有している。でもそれらは人類の外、ルール無用のトンデモエイリアンと戦争する可能性に備えている。今のところは出会ってないけど、いそうなポイントは見つかっているとかいないとか、都市伝説はある。まぁ誰も公に口にしない本音は、勝つためなら手段を選ばず自爆も平気でありえる宗教絡みの他星系を警戒してるんだけどね。ホント宗教だけはエイリアンよりメンドくせー。


 戦争の決まりごと(レギュレーション)はプロレスと同じく曖昧なんだけど、雰囲気としてはルールを改めて決めていった二千百年ごろの兵器を使用しなければいけない。あくまで雰囲気ね。化石燃料は消えてるし、ロボットなんてわりと最新だし。それでも普通に戦うと戦闘機のほうが勝つという(笑)。


 要は攻撃手段が度を超えないこと。そっちがソレ使うならこっちも、なんて破滅に向かわない範囲で戦え、ということ。変な言い方だけど常識的な兵器を使って最後まで立ってたほうが勝者、てことね。それで、常識的な三十ミリガトリングを使ってるから文句ないだろ、て変なロボットが開発されたりするわけ。主にプー兄さんみたいな連中によって。弱いから世間からは失笑気味に見逃されてる。ロマン兵器を作ってるうちは平和だね、て。


 文明が進みに進み、どこの国も一国で世界を滅ぼせる。この環境でルールを破る国おる?


 国が国に攻めるのではなく、軍と軍が戦うことによって、治安が良くはならなくても適度な平和は築かれた。憎しみが憎しみを生んで連鎖する終わりのない戦争、という概念は消えた。完全にではない。そりゃ死人は出るから個人の中に憎しみは生まれるし、政治的信念や逆恨みによるテロリストもいるけど、世界大戦のような昏い未来を憂う人はほぼいなくなった。


 なのに、その一線を越えちゃうとか、フザケた話よね。シンクタップで音声を繋ぐ。


 「シーバ、見えてる?」

 『視界良好っス。これヤベぇー、速ぇー、怖ぇー』

 「フフフ、初めては分からないことだらけで当たり前。今は楽しんで慣れなさい」


 シーバを筆頭に、私に絡んだ少女グループ九人も端末を介してエクステに繋がっていて、私のHUD、ヘッドアップディスプレイに映る景色が脳内に流れている。あいにくの夜間飛行で仄暗い雲の合間に地上の街明かりが通り過ぎるくらいだけど、彼女たちにとっては初めての空。しっかり味わうのよ。半分貴女たちに見せるために飛んでるんだから。


 前方五キロメートル先にものものしい照明の光条が幾筋も空を切り裂いている。レーダーの索敵範囲は優に百キロメートルを超えるからずっと捕捉はされているとして、そろそろ敵機の可能性アリと判断してサイレンが鳴り響いているかしら。通信チャンネルをコリアンテ軍のオープン回線に合わせて高速上限解放(アフターバーナー)。いくわよ。


 『警告! レーダーの敵性反応、突然音速を超えた。方位290』

 『あん? じゃあウチの機体だろ。他国のどこから飛ばせばその方向になんだよ』

 『遅刻か? ハァーッハッハッ、呼びかけろ』

 『所属不明機に告ぐ、身分と目的を明らかにせよ。それ以じょ……』

 『速ぇ!』


 遅い。特殊兵装、腹のハッチを開けてオーロラ気化爆弾投下。本当は原理はオーロラではなく蜃気楼とか聞いた気がするけどどちらも知らない。圧縮金属が超高熱で蒸発する膨張による爆発。疑似太陽風が発生してなんやかんやで周囲が虹っぽい蛍光色に輝く。それオーロラちゃいますの?


 雲を貫き斜めに急降下しながら海上基地、スパイスホエールの手前で二発落とすと、基地上空を通り過ぎてから二隻の空母甲板に着弾。艦橋周りの上半分が死神のマントに包まれて消し飛んだ。これで百八十を超える艦載機はもう飛べなくてスクラップに代わった。スマートね。


 私は回線をオンにした。


 『おいなんだよアレぇー』

 『っざっけんなっ、あー、チクショー』

 『おいまだ寝てるヤツいんのか遅ぇぞ!』

 『いいから総員さっさと艦を出せっ、まだ攻撃くるぞっ!』

 『対空砲ぉー、全然動いてねぇぞおいっ』


 [こんばんは、コリアンテ軍のみなさん]


 『は?』

 『おんな、か?』

 『おいおいいい度胸だなクソッタレぇ、どこのどいつだ言ってみろぉ!』


 [私はラティシス・ウッドストック。それともブルーエンプレスと名乗ったほうが通じるかしら?]


 『う、そだろおい』

 『なんで? なんでー』

 『誰だよアレに戦闘機渡したバカはよぉ』


 [私に用があるのでしょう? 私も用があったから来てあげたわよ]


 『……』

 『……』

 『……けて、タスケテ』


 [今夜は燃えるゴミの日。軍人のくせに私もろとも自国民に手を出そうとしたゴミのみなさん]


 『……』

 『……』

 『……やだぁ、ちがうんです』


 [ひとり残らず灰にしてあげる。お前たちに水葬なんてしてあげない。例え深海に流されても眠れると思うな。グッバイ]


 テルミット魚雷、投下。




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