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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第一章 エドゥー星系
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7.貴族



 イェジューなんとか基地の主任務は領空領海侵犯する者を追い払うこと。つまりスクランブル発進は頻繁にあって、国際関係は呑気だしどっちの国の隊長もアレだったけど、基地で忙しそうに働く人たちは誠実で好感がもてた。


 「へぇー、やっぱり対艦兵装が充実してるのね」

 「有事を想定すると怖いのは空のほうなんですけどね。おっと失礼。エクス王国と揉める想定なんて無神経でした」

 「軍人が、というか人をまとめる側がキツイ未来を想定するのは当たり前のことよ。空が怖いならどうするか? あなたが考えて備えるべきことね。正確には司令官の仕事だけど」

 「……。あ、そちらの通路は整備ドックになります」


 何故かすんなり一日司令官に収まって基地内を巡回視察している私。ワンピ姿がおのぼりさんみたいで少し後悔。軍服も持って来るべきだったか。トランクケースに入れているのは戦闘機乗りには必須のGスーツだからなぁ。

 隣りに付き添って案内を務める青年はカール・シルド一等兵。兵站科のくせに実質副官をさせられている苦労人。航空基地なら通信科か、せめて参謀科に有能な人材いなかったのか、哀れ。

 想像通りというかあるあるなだけだけど、この人物が基地内の人望を集める庶民だった。あんな隊長の元で、ストレスすごそう。いやフサフサだから図太いのか?


 「あらあらHMV(重整備)までこなしてるの? 負担おかしくない?」


 ドック内は戦闘機がバラバラに分解されて並べられていた。数年に一度のガッツリ点検で整備家系の血が騒ぐ光景だけど、小さな基地ですることじゃないでしょ。


 「予算の都合で……、それもじきに改善しそうですが」

 「()・司令官は叩かなくてもホコリしか出ないわね」


 やべぇ軍人はそれなりに見てきたつもりだけど、今から潰す連中も合わせてエクス軍を超えてるかも。

 おっとそうだった。酒場のアイツが目を覚まして騒ぐとメンドイし急ごう。


 「シルド一等兵、管制室に連絡、スクランブル発進します。発進予定時刻は0:00」

 「え?」

 「整備班、出撃準備完了(ハンガーアウト)の機体は?」

 「ブラックパンサーが」

 「いいわね。兵装はテルミット魚雷二十四発、特殊にオーロラ気化爆弾六発……、積めたっけ?」

 「可能ですがいっぱいですよ?」

 「問題ないわ。セットアップ完了次第滑走路へ誘導(タクシーアウト)暖機運転(アイドリング)、お願いね」

 「イエッサー、女帝のエスコートなんて一生自慢できらぁ」


 どうして他国で私がこんなにも有名なのか不思議だけど、整備士のオジサンたちは上機嫌でドックを出て行った。学生時代のあの動画ってそんなに凄いの? まさかね。まぁ軍人だけだとしても有名なら利用するまでよ。

 人が去って二人っきりになってからようやくシルド一等兵が再起動した。


 「どういうつもりですか?」

 「言葉通りよ。私が空を飛ぶのは普通のこと。そしてあなた、軍に何年いるの? 上官の指示は速やかに従いなさい。軍は結果が全て、あなたが納得するしないの過程は誰にとっても意味がないどころか有害よ」


 部下(おまえ)が納得しなきゃ従わないならお前が上官(おれ)に代われよ一秒を争う事態にゴネたせいで死人が出たらどう責任とるつもりだイヤもう三秒無駄にしたから今責任とって死ね、仲間に背中を預けて殺し合う軍隊はままごとやってんじゃねぇんだぞあぁん? てね。軍は体育会系マックスな脳筋にしか見えないし事実そうだけど上意下達の命令厳守にはちゃんと理由がある。ノーは許さんって一年目で叩き込まれる鉄則よ。さりげなく無茶を押し通してる自覚はあるけど。


 なにやら脳内で煩悶しているらしき副官を残して私は司令室に行き、置いてたトランクケースを掴んで更衣室へ。パイロット用のケースは平べったい形ではなく、なんというか宅配荷物のようなずんぐりむっくりとしていてコミカルに感じる。ランドセルの感覚に近いかしら。これ引いて歩くのまあまあ恥ずかしいけどしょーがない。

 蓋を開けると中にはフルフェイスのヘルメットとGスーツ。一応拳銃も。


 下着も脱いでマッパになり、黎明期の宇宙服に似たもこもこの肉襦袢に大きく開いた首の穴から足を通し、エクステを接続してシンクタップ。全身スーツは収縮してピチピチに。ちょっとエロい。レオタードのような薄さではないからエロの方向性は違うかな。それで隠しているつもりか逆に巨乳が強調されてるやんけセーター、の姉妹品。


 にしても着慣れたスーツより薄いわね。プー兄さん開発の新型。不審感しかないけどアレでもモノづくり自体は天才なの。自爆装置が仕込まれていたら流石に縁を切るわ。


 『そろそろ着たよな? 感想早よ』

 「人工筋肉薄いわね。密度上げる研究成功したの? ナントカ賞確実じゃないおめでとう」

 『そんな研究してねーしなんだよナントカ賞って俺も興味ねーけどお前はもっとじゃねーか。密度は上がってない。既成品と同じだからパワーアシストは落ちてる。お前、筋肉いらないってタイプじゃん? その代わりに神経(センス)アシスト上げた。疑似ニューロンネットワークを組み上げてお前の長所、小脳を実質増やしたようなもんだから反応速度は人外いったかも。元から人外かハハハ』


 言われて両手をグッパしたり軽く跳ねてみたけど分からん。


 「反応速度ってどうやって確かめるの?」

 『実戦で良くね? いつもより弾が避けやすいとか? 知らんけど。いつも全弾避けるじゃん意味ねーじゃーん』

 「尻上がりに自分で喋りながらセルフ論破でチャラくならないで」

 『まぁアレだ。俺の構想ではそのスーツを凡人が着ると、「アッチ向いてホ」と言われた瞬間本人の意識を超えて指の方向に首周りの人工筋肉が収縮して病院か棺桶送りになるとんがり(ピーキー)仕様だ。お前しか使えない、はず』

 「わりと本気で脱ぎたい」

 『お前「アッ」て指差された瞬間相手の首を百八十度回すタイプじゃねーか大丈夫だろ』


 失礼しちゃう。敵にしかしないわよ。

 でも神経増えてるのはいいわね。

 貴族が貴族たりえる理由。純粋にスペックが庶民より高い。


 当事者には分からない、後になってからでないと冷静に分析できないことってままある。

 一言で言うと、人類のポテンシャルは地球にいたころの、西暦二千百年辺りが天井だった。渦中を生きる人たちには受け入れがたい話でしょうけどね。


 脳をPCに置き換えてみましょう。千年二千年ではスペックは変わらない。脳に限らず進化は万年単位だからね。西暦換算で紀元前、アルキメデスやピタゴラスは何故常軌を逸して賢かったのか? そりゃ素質があったのは当然として、PCにインストールするアプリが少なくて処理が早かったからよ。二千年後の人間のPCも性能は同じだけど、文明の進歩に従ってアプリが増えてアップロードを繰り返して、容量がパンパンで処理落ちする人だらけになった。


 物理学は分子物理学、原子物理学、核構造物理学、力学、熱力学、量子力学に宇宙物理学、他にも無数。他の学問も同じ。もう単純にフワッと研究できなくなった。アプリを厳選しても処理が重くて、狭く狭く奥の細道綱渡り。もう誰が見るんだよって研究ばかり。経済学は上が見えないから経済心理学って横に? そもそも経済が心理の問題なのにナニ言ってんの? て迷走。学問全体がそろそろ終わりそうな予感に震えた。


 ブレイクスルーはその二千百年の少し前、正確な年数は知らない。そこまで勉強してない。

 人類はついに遺伝子のコントロールに成功して、ハイヒューマン、一つ上の生命体に進化した……、つもりになった。


 プー兄さんを引き合いに出すまでもなく、天才ってクズが多い。私からすると兄さんは身内で愛すべきクズだから文句はないけど、他人から見た兄さんは相当イカれてるわよね。天才とクズの因果関係が分かる? 


 音楽でも絵描きでもスポーツでもゲームでもなんでもいいけれど、幼少期からソレひとつのことしかしない人は、脳の容量が足りなくなって、処理落ちを回避するために、コミュニケーションを司る前頭葉が変質して、ソレひとつの処理用に加わるの。だから凡人から見ると対人能力が壊れてる。


 人類は大量に天才のクズを生み出して自滅した。当たり前じゃん。前頭葉が変質って意味分かった? 生まれつきではなく成長と共に、てことよ。天才は生まれつきだけど、クズはそこから始まって育つの。どう育つのかまでは科学では分からなかった。


 そういうしくじりだらけの長い歴史を踏まえて、人類はほどほどに改造するノウハウを学んだ。その成功例が王侯貴族の原型になる。

 そうねぇ。分かりやすくゲーム風に説明しようかしら。



 遺伝子をいじって壊れなかった子孫のステータス。


 ワシガ=オトコ・ジーク・ジュクチョーデアール(8歳)


 ジョブ 王族


 HP 100

 MP 8


 ちから    S

 たいりょく  S

 かしこさ   D

 すばやさ   B

 きようさ   A


 スキルポイント 83


 コモンスキル

 剣術1 礼儀作法1 忍耐1 俊足1 細工1 大声5

 剛力2 耐久1


 レアスキル

 覇気6 闘気9


 ユニークスキル

 ミンメイ文庫


 備考

 とても元気が良くてリーダーシップもあります。ただ、かしこさがアレで教養スキルが生えてないので政治方面は向いてないかと。軍属が最適に思われます。きようさが高く細工スキルが生えているのでそちらにポイントを振ると化ける可能性がなきにしもあらず。まだ忍耐が1、ストレス耐性が低くキレやすい点が要注意。



 あくまでイメージよ。実際はこんな数値化なんて出来るわけないから。ただ、潜在能力と将来性は結構分かるから、得意分野を伸ばすか、苦手分野を克服するか、ワンチャン新しい可能性に賭けるか、みんな、特に王侯貴族は幼少期からキャラクターメイキングを、進路を真剣に悩むの。ここで注目して欲しいのがスキルポイント。自分の意思で使える。これ、地球を脱出する六千年くらい前までは出来なかったズル(チート)ね。

 そして王侯貴族は庶民よりこのスキルポイントを多く持っている。ちからやかしこさといった基本スペックも庶民より高めな上にそんなのズルいでしょ? だから貴族は優秀で当たり前。そして庶民は諦めがち。あの一等兵のように優秀な庶民は他の庶民の希望の星扱いされるのも納得ってわけ。


 ただししつこいけどゲームと現実は違う。あんな隊長や無能な王が実在することから分かる通り、キャラクターメイキングに失敗する人はいくらでもいる。

 下手の横好きって言葉もあるように、向いてないと判断されても突き進んでコケたり、逆に上手くいく人もいるけどまぁ好きなことするなら本人はそれでいいか。


 スキルポイントに限りはあるから万能なんて器用貧乏な真似は悪手。もう一度繰り返すとアプリを入れすぎて重すぎた時代が始まりだから。PCのスペックを上げつつも、一人一人アプリを見直そーぜ、という時代に変わったの。でも人間って欲張りだから、ついついアプリを入れすぎて失敗するのよ。こればっかりはしょーがないわよね。


 具体的にはウッドストック家は整備士の家系。かしこさときようさ、ちからとたいりょくも重要ね。整備士あるある、腰痛持ちで通院しがち。戦闘スキルはいらない。精密工業製品の頂点と言ってもいい兵器の大半の仕組みを理解するって、知力が尋常ではなく高くないと無理ね。ボア兄さんは記憶力、プー兄さんは演算力を高める手術を受けている。もっと細かくいじってるけど私も詳しくない。手術も例によってナノマシンを注射してどーのこーの。一瞬で変わるのではなく、身体の成長のようにゆっくりと変える。


 そして私は、小脳をいじっている。だから運動能力に特化している。あと気にしたことはないけど滑舌も良いらしい。

 さらに視神経と手足を筆頭に神経網を増大させている。

 タコってね、八本の足のつけねに神経が集まっていて、どの足も小さな脳と呼んでいいほど処理能力が高いトンデモ生物なの。


 私に事務系の仕事は無理。理系も全滅。文系も特には。アプリを詰め込む諸悪の根源、学校で広く浅く暗記させられた教育法はとっくに終わったとはいえ、私にとっての学生時代はただの大喜利だった。「キシリッシュ王に落書きはヤバいって」「ジェシカがAとBを三分で往復した時刻表トリックってなに? 読者への挑戦状やめて」とかテストは教師とラリーを楽しむゲームだった。


 この世の叡智をぶった斬ってタコに魂を売った。スキルポイント極振り、とまではいかないか。


 結果、私は銃弾を普通に見て避けられる。流石に光速のレーザーは見て避けられないけど、射線を予測して避けられる。そもそもレーザー攻撃は宇宙で迎撃専用。それ以外は使えない兵器だし。

 戦闘機に乗るとミサイルなんて鈍い鬼ごっこ。対面のバルカンが一番脅威だったりする。

 地上はもう怖いものがない。絶対に死なない自信が、とかではなく、ここまで特化して死んだらもうしゃーなしよね、の精神ね。


 他の人は真似できないのか。今のところは同レベルの人に会ったことはない。ゲームと違って最適な育て方など分からない。そんなの一万年前も一万年後もそうよね。分かったらもう人生虚しいでしょ。キャラクリ終えて攻略情報に従ってプレイする百年ログアウト出来ないMMORPG、何年耐えられる?


 腰のホルスターに拳銃を収め、化粧ポーチから取り出したルージュをひいてロッカーの扉裏の鏡に向かってンーッパ。ヘルメットを無造作に掴んでいざ出陣。


 廊下に出るとカール・シルド一等兵が待ち構えていた。


 「……管制塔からの飛行許可は下りています」

 「そう、ご苦労さま」


 特に言うこともなくすれ違ってすぐ、背後から声が。


 「自分や司令官のような立場の者はっ、キツイ未来を想定するのは当たり前なんですよね? 上官の足を止めさせるなんて軍人失格だとは思うけど、キツイ想像が消えてくれないんです。貴女は、戦闘機に乗ってナニと戦うのですか?」


 チャリ。微かに金属のこすれる音。フフ、後方勤務の事務方が、震えながら銃を握るか。


 「あんなフル装備を命じておいて、まさか遊覧飛行なんて見え透いた嘘はつきませんよね。他のみんなもただの飛行とは思ってないけど、貴女ならなにか面白いことでもするんだろうって気楽なもんですよ。自分だってみんなと一緒に手を振って見送りたい。なにか裏がありそうだけど、どんなてであれあの人を潰してくれたことに心から感謝します。あんなゲスでも貴族の上官だから、庶民で部下の自分は……、ずっと従うしかなかった!」

 「あなた、軍人失格じゃないわよ。むしろ合格」

 「え?」

 「例えば無能の上官に従って突撃して部隊が全滅して、味方陣営の誰の利になるの? 軍は結果が全て。この場合の正解は突撃前に上官を射殺して帰還することよ」

 「そんなの……、軍法会議にかけられて有罪ですよね」

 「そうよ。()()()()()?」

 「は?」

 「有罪がイヤだから、周りに罵られるのがイヤだから、ルールに従うべきだから、突撃して無駄死にが正解と言いたいの? 下らない。それ思考停止って言うのよ」


 振り返ると副官は、腰のホルスターに収まった銃のグリップを握ったまま、呆然と私を凝視していた。


 「あなた、なんのために軍人やってるの? 上の命令に従うのが楽だから? 庶民に生まれたら貴族に従うしかないから? 違うから今こうやって反抗してるんでしょ? あんなゲスにも従ったくせに。あんな小悪党は放っといてもたいした害にならないけど、私を止めなかったら魚雷二十四発をどこかに撃ってとんでもないことをしでかしそうって不安なんでしょ? それ、守りたい誰かがこの国にいるからじゃないの?」

 「そりゃいますよっ! 自分、三十六歳、アイツのせいで勤務時間がブラックだけど、家に帰れば妻と、今年二歳になる世界一カワイイ天使がいるんですよ。コイツらのためなら命は惜しくない。アイツにも頭を下げてきたし、貴女にも噛みつきますよっ!」

 「そう、それがあなたの原点ってやつね。そこを見失わなければあなたは軍人でいられる。でもね……」


 今まで溜めてた想いを吐き出してちょっと不安定な副官を睨んだ。


 「これから数時間以内にその原点を見失った軍人失格の害虫が暴走するの。自分がなんのために軍人をやっているのかを忘れ、上官の命令にただ従い、あなたが想像する最悪なことをする思考停止の無能。私が攻撃するのはコイツらよ。だから」


 私は背を向けて、明かりを落とした薄暗い廊下をコツコツと足音を響かせて歩いた。


 「安心して見送りなさい」




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