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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第一章 エドゥー星系
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5.原点



 精神的には長いサブクエストをクリアしてヨットハーバーにとんぼ返り、する前にシュヴァインことボア兄さんに連絡を入れる。

 端末つついてプルル。そこ進歩しねぇなおいって? 西暦あるあるネタでブレイクしたお笑い芸人いたなぁ懐かしー。街中を手ぶらで歩いてずっと独り言や突然キレたり笑ったり、意味が分からないけど手首に話しかけたり、そういう時代がホントにあったらしいわよ嘘みたい。

 端末を持って『私は今誰かとやりとりしています』って周囲に示すことは社会性を保つために必要らしい。家中にひとりだったら何しても勝手だけど、街中で自分一人の世界に籠もってる人は不審者という。おまわりさーん。


 「ボア兄さん、ちょっとバタバタしてロリ系住み込み従業員を二十人くらい雇ってみた。連れ帰っても大丈夫そ?」

 『おまっ…………、えもなのか。こっちもバタバタしてるが、まぁいいもういい。なるようになれ。ただ、こっちに着くのは二十分くらい待ったほうがいいな』


 あらやだ帰るのが怖い。そっちもサブクエあったの? 始まりの村から出られないロープレ?


 「というわけで先に貴女たちのアジトとやらに行きましょ。シーバ、案内してちょうだい」

 「ウス。勢いに任せて頼んじゃったけど押しかけちゃっていいんスか?」

 「大抵のことは可能なの。最後の選択肢に万能の暴力が控えているから気楽なもんよ」

 「さっきは煽りからの暴力でしたね思考がラスボスカッケー」

 「そういえば」


 先導するシーバについていきながら後ろを振り返った。スラムの別の住人によって死体は消えている。


 「あんなの金になるの?」

 「端末からキャッシュを抜き取る方法はあるみたいっスね。あとは身ぐるみ剥いで水葬(死体遺棄)っス」

 「逞しい」

 「王の身ぐるみ剥ごうって発想に比べたらカワイイもんスよ」

 「宇宙船がね、条件を満たすのが難しいのよね」

 「へー、オレ縁がなさすぎて分かんねっス」


 ああ、確かに惑星で暮らす人は宇宙に行かないし、スペースコロニーで暮らす人は地上に行かないわね。僅かな例外を除いて二つの世界は遠い。


 「わりと勘違いする人が多いから、こんな例えをだしてみましょうか。海底も運転できる自動車が一家に一台(スタンダード)になると思う?」

 「地上を走るだけでいいから安く作れ、てツッコミっスね」

 「正解。やっぱり貴女地頭良いわね。大気と重力のある惑星と、無重力と真空の宇宙、どっちも運用する乗り物って壮絶にコスパと頭が悪いの。別々に安く作れ、てツッコミなわけ」


 特に巨大宇宙船で惑星上の空を飛ぶ空中要塞なんて無駄の極みね。両手を振って空を飛ぶくらいの力技。SFの定番、反重力というものが存在すれば別だけど、まだ見つかってない。というかはるか昔に非存在が証明されてフィクション用語になってたような。タイムマシンやエネルギーバリアと同じ。


 「人の住む惑星には必ず軌道エレベーターがいくつもある。それに乗って衛星高度まで登るとSS、宇宙ステーションがあって、そこに宇宙船が大量に係留されている。普通宇宙船と言えばコレを指す。惑星に降りられるようには作られていない乗り物ね」

 「へー、じゃー姐さんの求めてる宇宙船って?」

 「ここまでが一般論。壮絶にコスパと頭が悪くても見栄をはるためなら作っちゃう悲しい生き物はなーんだ?」

 「おぉー、だから王様狙うんスね」

 「王かどうかはまだ確定ではないけど、まぁそうね。私はお尋ね者になりそうだから、SSに船を預けて地上に降りてショッピング、なんてのんきな真似はできそうにないの。SS無視して乗り回せる船、当然戦闘力も保有するなんて条件を満たす物件はレアなのよ」


 さらに船をゲットしたって民間人はミサイルなどの軍需物資を買えないわけで、燃料弾薬補給のための人脈(パイプ)も作らなきゃだし、簡単には宇宙を飛び回れないのよねぇ。世知辛い。

 ちなみに軌道エレベーターについて。自転に同期する赤道上の静止軌道に作るのがコスパが良いんだけど、裕福な国は自国の上空に力技で作る。人も貨物も運賃無理してそう。


 少しおしゃべりしてたらアジト到着。考えてみれば当たり前だけど、そりゃ縄張りってあるわよね。


 「あのヨットハーバー、マフィアが経営してるんス」

 「あらやっぱりそうなの」

 「そんで銃持ってイキるはなたれ小僧が近付いても水葬される。オレたちはカツアゲ程度のエンジョイ勢だから見逃してもらえてここらを縄張りにしてるんス」

 「上手くできてるのね」


 エンジョイ勢の守備範囲に感心しながらアジトにお邪魔しまーす。


 「おねちゃんだれ?」

 「今日から貴女たちのママよ」

 

 朽ちて壁も屋根も隙間だらけの廃屋に天使が箱詰め一人、二人、十一人も。一瞬で母性に目覚めたわ気合いで母乳がでるかも。


 「ほんと?」

 「あー、うん。このお姉さんがオレたちのボスになった。メチャクチャつえーから安心しろ」

 「なにはともあれ引っ越してご飯にしましょ。まずはお腹いっぱいにならないと。貴女たち全員ダイエットしすぎよ」

 

 固形物は避けてスープの類いがいいわね材料は……、ヨットハーバーにあるか。お風呂に入れて清潔な服に着替えさせて、忙しくなるわね。


 幼児は抱っこ、十歳に満たないコはテトテトついてきて、気分はカルガモ。電話してから十分もかからずヨットハーバーへ。二十分待てと言われたけど早くてもいいでしょ。

 お洒落なつもりらしい白いアーチの入口をくぐると兄二人がフルフェイスのガスマスクを被っていた。


 「(シュコー)お、ラッテおかえり、早いな何かあったのか?」

 「こっちの台詞よ」


 プフェートことプー兄さんがマスクを外した。ボア兄さんは被ったまま無言でオープンテラスの先の庭、そのさらに先の水際へ行き、脇に抱えたバーテンダーっぽい服装をしたヨットハーバーの従業員らしき死体を放り投げた。ドボン。まぁ大体察したけど。こっちのサブクエも濃かったのね。


 「そうだなぁ、どこから話せばいいのか。うん、見せるのが早いか。俺だって自分が少々変わっている自覚はある。だから世間の声も参考にする努力はしているのさ」


 プー兄さんはそう言うと私の前に端末を突き出した。


  〜当たって砕けろ集合知〜(顔出し)愚民の声に耳を傾けるオブリージュ


 Q.本日のお題。予約したヨットハーバーに船を停めたらマフィアが経営していてソッコー顧客情報横流しされた。処して良し?


 A.ゴー

  良し

  ルイ2861世「呼んだ?」

  そりゃ許せんよなぁ

  電気イス

  昨日亡命したよね

  ロボトミー

  アイアンメイデン

  おい磯野ぉ、パイルバンカー撃とうぜ

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  ライブ希望

  …

  …

  …


 ……兄さん、私も了承するから言わないけど、猿百匹に相談しても返事は「ウキッ?」なのよ。


 「随分痩せ細った娘さんたちだな。食堂がビュッフェだったから連れて行くといい」

 「こっちの事情は聞かないの?」

 「大体分かるし興味ないな」


 まぁそういう人よね。

 お言葉に甘えて後始末は任せて二十人の娘の世話をしていたらあっという間に陽が落ちた。ここ数日殺伐としていたから心が洗われるぅ。このコたちは残飯とか腐った魚とか極薄スープとかロクなものを食べてなかったから、美味しい食事の免疫がなくて無感動に食べ続けて、疲れて早々に寝てしまった。そうよね、本当に貧しい者は美味しさが分かる味覚が育ってるわけないわよね。想像力が足りてなかったわ。


 にしても、無人のヨットハーバーを貸し切りで好きに使ってるけど警察も来ないのね。軍のほうは……、初手をミスって慌ててるのかしら。


 明かりが少なくて隅っこが薄暗い食堂に三人集まって適当に夕食を摂る。ここまでボア兄さんは桟橋に繋がれた他の船も勝手に調べてたみたい。プー兄さんは端末つついて調べ物。この国に知人がいるとか言ってたし、計画は任せた。私は方針を出して現場で活躍する係ね。


 「それではブリーフィングを始める」


 軽く食べ終えて片付けてティータイム、のつもりだったけどプー兄さんがリモコンを押すと天井から光が。テーブルの上に立体マップが浮かんで横回転。同じく天井に埋め込まれたスピーカーからBGMが。このノリ続けるの?


 「コリアンテ王宮筋からの情報によると、エクス王国側からウッドストック一族三名の身柄拘束と引き渡しの要求がきたが、情報の共有がされていない」

 「一枚岩の組織なんてほぼないものね」

 「そういうことだ。それと表向き、コリアンテは親エクスと思われているが、実は反エクスの勢力が増大しているらしい。一例を挙げるとこのヨットハーバーから反社を通じて麻薬がエクスに流れているが、これ大元で糸を引いているのは国だ。長期的な破壊工作の一部ってことだな」

 「これまたベタな手を」

 「つまり俺と兄貴はおまけとして、お前の扱いについてコリアンテは頭を悩ませている。お前を確保したとして、表向きはすぐにエクスに渡したほうがいい。しかしエースを返すなんて敵に塩を送るどころじゃない。方針が決まらないまま、お前を取り込みたい派の軍閥が先走ってご覧の通り失敗。無難に返しとこーぜ派にネチネチ言われてキレて乱闘。子供か」

 「内乱収まらない一点で無能揃いなのは分かっていたけど相当ね」

 「さっき落ち着いて改めてどうするか話し合って出た結論は分かるか?」

 「間をとって暗殺でしょ?」

 「正解」


 この答えが出るまでに一日かかるってマジか。


 「例えば俺たちを非公式の工作員に取り込んで、見返りに陰ながら宇宙船を始めとするサポートを行う。引き受けるかどうかは別として、そういう交渉に臨むのであればこちらも事を荒立てる気はなかった。ラティシス、お前もそういうつもりで外に出て反応を試したんだろ?」


 うーんそこまで明確な意図はなかったかな。この国が好ましいかどうか空気を吸って感じたかった、てとこ。


 「結果は不合格。お前も不快な目に遭ったようだが俺のほうも、マフィアのくせに国に情報売るパシリとかロマンのかけらもない真似されて興醒めだ」


 見えないロマン地雷を踏んで自称ロマン兵器の毒ガス攻撃をくらったマフィアに一秒黙祷。モノによっては国際法で禁じられててかなり危ない橋なんだけど気にしないんでしょうね。


 「とどめに殺そうと決めた以上はこちらも容赦しない。まずは敵の作戦概要」


 マップが超拡大した。ちょっと圧が。


 「ココから直線距離で三十キロメートル離れた、東区湾岸都市ハガンの沖合三キロメートルに浮かぶ海上基地、通称スパイスホエールに現在ナムソン方面軍巡洋艦隊から二個師団が定期訓練巡回航路を外れて向かっている。ザンゴン級空母二隻、トッポ級重巡二隻、マッコ級軽巡四隻、チョゴマテ級駆逐艦十二隻、メイン戦力はこれくらい。艦載機は百八十機を超える。RKb-5cボブキャット、対地対空(マルチロール)仕様、うち一ダースは電子戦仕様。潜水艦や補給艦など足の遅い駒は置いて速度重視で集結中」


 詠唱スゴ。頭に入らないけど安心して、アレひとりで言って悦にいってるだけだから。


 「ちなみにスパイスホエールの基幹戦力はフリゲート艦三隻、偵察機多数、あとはSAM、地対空ミサイルが二十四基、対地対空四連装砲塔が沿岸に五門、トーチカに収まっている。これはまぁ、当たり前だが出撃はしない。全部隊の集結予定時刻は0:00、兵士の休息と各兵器のメンテナンスを挟み、出撃予定時刻は明朝8:00、作戦目標はココ、通称西区、シアンド区ムリポ市街、作戦開始予定時刻は同9:00。お前が他所へ移動しないよう、現在ヨットハーバーへの接触は厳禁、衛星からの監視にとどめている」

 「あらあら、やっと本気でくるのかしら」

 「違う。作戦目標は()()、お前じゃない」

 「あー、そういう」

 「なん…、スか? それなんなんスか?」


 深夜の病院くらい廊下などの明かりも抑えていたから食堂の入口も薄暗く、そこから聞こえるシーバの顔も見えないけど、震える声音でちゃんと理解していることは伝わった。そして腰が抜けたようにヨロヨロと近寄る彼女の顔からは血の気が引いていた。

 プー兄さんは淡々と説明を続ける。


 「原則、軍は国の内外を問わず民間人を攻撃してはいけない。いくらでも抜け道と例外のある噴飯もののルールだが、一応建前はそうなっている。軍がココのような、例え脛に傷持つ人種だらけだったとしても、民間人しかいない街を攻撃したら世界中から非難を浴びるし、革命が起きても不思議はない。だから普通はしない、できない。しかし権力を持っている東区の連中は、常々西区を攻撃したいとは思っている。長年文句を言って足を引っ張る害虫、くらいの認識だろうからな。そこにお前の登場だ。エクス王国の要請を受けたコリアンテ軍は、ラティシスを筆頭とする軍属のウッドストック一家の拘束を試みるも抵抗が激しく、市街戦に発展、逃げ回るターゲットの捕捉は困難を極め、やむなく絨毯爆撃によって処理、巻き込まれた犠牲者の冥福を祈る、諸君、悪いのは厄介事を持ち込んだラティシスとエクス王国であーる。という筋書きだな」


 うわー、セコい。西区に暴力を見せつけて、「あまり国をナメるな」って言いたいついでを詰め込んでいるようにしか見えない。あわよくばエクスに敵意(ヘイト)が向いて国民が団結したら万々歳って? セコー。


 「なんスか、それなんなんスか? オレらだって好きでスラムに暮らしてるんじゃないっ! 物心ついたころにはココにいて、守ってくれる大人なんていなくて、食べられるものはなんでも口にして、同じ仲間と群れてくっついてひもじさに耐えてっ。オレ、姐さんがアイツにきった啖呵に痺れたっス。このコたちに飢えない環境も作れない国が……、て。そっスよね? それができてこその国っスよね? 少しずつでも良い環境を作っていくのがテメェらの仕事なのに、毎日毎日今日一日歯ぁ食いしばって生きてるオレらを害虫呼ばわりしてまとめてぶっ壊してスッキリしてぇ? っザッケンなーっ!」


 シーバはぐしゃぐしゃに泣き腫らした顔で叫んで両手でテーブルを叩いたけど、高級な重い木目調のテーブルは軽く震えただけだった。


 「その悔しさは一生忘れちゃダメよ? この先貴女は私の背中を見て強くなる。今貴女が悔しいのは弱いから。無力だから。なんのために強くなるのか、原点は今のその想い、忘れないでね」

 「……強い姐さんは悔しくないんスか?」

 「全然。むしろ哀れね」


 零れ落ちる涙もそのままにキョトン顔なシーバに微笑んでみせる。ちょっと芝居くさいかしら。


 「だって、明朝8:00に出撃だから…、その前にスパイスホエールを地図から消せばいいだけじゃない」

 「は?」

 「自国民を守る軍人が攻撃するならもう軍人ではない。害虫ね。害虫呼ばわりしてまとめてぶっ壊してスッキリするのはこの私、ブルーエンプレスのほうよ」


 今朝の巨漢と同じ。自分が強者と勘違いしている全員、現実を思い知る悪夢に震えて命乞いして死ね。


 


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