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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第二章 スキャナー星系
29/33

28.面子



 顔は出さない、出ても口元あたりまでのカットだけど、分かる人には分かる、というアングルの撮影。

 サッカースタジアムにありそうな広々とした更衣室を見下ろすと、各自ロッカーに向いてカメラには背を見せる乙女たち。そこに次々重なるカットイン。


 実用一辺倒の無骨な編み上げロングブーツに足を入れる。縁を支える手は天然の小麦色、ほんのりピンクのマニキュアがお洒落。恥ずかしがってたわりにはしっかり手入れしているこの手はアドラー。


 下半分縁無しメガネをシルクの布でキュコキュコ拭くカットはアビャーナ。


 駆け出しながらPコートの袖に腕を通すこの落ち着きのなさはシーバ。アーミーコートはネイビーブルーにウエストを絞ったシルエットがキュート。


 柔らかくウェーブした銀髪をおさえるように中折れ帽子をセットするナハシュ。色味だけ軍服に合わせたボルサリーノってもうファミリーなマフィア感わざと出してる。いやまぁ軍人イコールこれってギャリソンはお硬い組織っぽくて私たちには似合わないけど。グラタンの皿みたいなヤツ。


 シェファーたちがアサルトライフルのコッキングレバーをガシャコンと引いて肩にかける。まだ生身はロクに撃てないくせに。


 最後にしなやかな指先で襟元を整えつつ、ルージュをひいたぷっくら唇が私の声を出す。


 「さ、仕事を始めるわよ」


 画面奥に小さな長方形の扉がまばゆく光り、暗がりを逆Vの字に並んで歩く私たちの輪郭が逆光に縁取られる。そして大きな字幕。


 “安心・迅速・殲滅 依頼お待ちしております アタナシア・レミングス”


 久し振りに地上に降りて小さなホテルに貸し切りで泊まり、食堂で食後にまったりしながらみんなで鑑賞。照れる娘やなんか得意気な娘など反応は様々。お揃いの制服が完成して、披露したいってだけの理由で作られたプロモーション動画。そう、絶賛暇を持て余し中。私も小さく拍手しながらマーサをリーダーとするドヤ顔の制作陣を褒める。オリジナルな服まで作れるこの娘たちは何科なんだろう? 後方支援でひとくくりにされるけど万能がすぎる。


 「傭兵らしく軍人よりカジュアルにってお題、上手くクリアしたファションね」

 「迷彩じゃない海みたいな網目模様がカッケーっス」

 「まるで美女軍団、て私の仲間は……」

 「ナハシュの元臣下はオッサンだらけじゃん」

 「プロモーション的に男はいらないか」

 「動画収入も派手に稼いでいますしね」

 「舞台裏を知らない人から見たらウチらって華があるだろうな」

 「普段着の地味なスウェット率高めのギャップも需要はありそー」

 「詐欺では?」

 「夢を売っているのよ」

 「お貴族様に口では勝てねーっス」


 戦闘部隊以外は、することはあって周りは忙しそうにバタバタはしている。例によって公爵を潰したあとは怒涛のイベントが続いた。

 ナハシュの臣下とその一族、領民にも深く慕うグループはいて、さらにナハシュの母の貴族家もこの国ってしばらくは終わって、縁者の自分たちは針のむしろになるなと見切りをつけて合流。新雪の荒地に着陸したグリンカンビに全財産を背負った約三千人収容していったん宇宙へゴー。敵対関係にあるらっきょう国に長居は無用。法律? 例えば忠臣蔵の主役たちの最期は、騒乱罪みたいな理由で切腹を命じられた。ナハシュも、そして協力した私たちも同じく犯罪者になるけど、罰に従うのはその国に所属する場合の話ね。忠臣蔵のほうは暴れた武士たちに家族がいて、末永く日本で暮らすしかないから罰を受け入れるしかない。私はどこにも属してないからさっさと逃げればいい。そもそも実家を出てからこっち、前科全てを裁けば懲役数万年とかいくんじゃね? 宙賊や軍人限定とはいえ何万人殺したのやら。


 「いや貴族じゃなくラティシス殿の毒舌は有名だぞ」

 「あらナハシュ、まさか貴女同志?」


 国のほうも、こんだけ戦闘力の高い犯罪者は傍観しちゃうらしい。そりゃ処罰できるならしたくて堪らないでしょうし、勝てるのであれば自分たちが正義だからドレッドノートとか出してきたんでしょうけど、出来ないものはしょーがないよね。

 庶民はともかく貴族関係は法律が緩い。地球が異常だったとも言える。中世くらいの緩さでいいのに、世界大戦からディストピアまでの期間の細かさは凄い。全ての要望に応えようとして、国民の数人にひとりの割合で公務員が混じってたんじゃない? そりゃ破綻するわ。

 現代は、公務員は庶民だけど、その上は貴族だから、無い袖は振れないってハッキリ言える。ひとりひとりに細かいサポートが欲しけりゃ税金アップ(出すもん出せ)、て答えて翌日実行しちゃう。このスピード感が有能の証。デメリットはそんな責任者が無能だと巨大な被害が出る。そして無能は即座に処分されるから貴族だって命懸けではある。


 「ガルル、ナンバーツーの座は譲らないっス」

 「序列になにか意味あるのか」


 だからまぁ今回の騒ぎも、大国が無能、小国が正義とか、そんな分かりやすい構図ではない。基本どこの国も優秀な人材が溢れている。優秀だから私が動きやすい、とも言える。自分好みのルールに従えって副音声を言い換えて法の支配とか叫んで融通の利かない無能な国だらけだったら、今ごろもっと大量の敵と戦っているでしょうね。


 「私は親衛隊NO.59013。貴女今登録したら数億位ね」

 「そんな……、オレの存在意義が……」

 「あ、私の口座に大金が振り込まれてたの何?」


 現在私たちは、やっぱりあったモロヘイヤ国という小国と従軍契約を結んだ。もう野菜名しか認識しないことにした。そんでここ数日は地上に大勢で降りて観光や爆買いを楽しんでいる。フリーズドライの保存食はいくらあっても困らないから買えるだけ買う。人口一千万人いるかどうかくらいの小国だから、そこそこ経済を動かしている気分。

 アテナに大量に受け入れた人たちの面倒はナハシュ、というか辺境伯家で実務を仕切っていた文官たちに丸投げして、今回の買い物で苗や布など足りない物は仕入れたから、自給自足のスタートはきれそう。宇宙を無所属(ボッチ)で渡る集団のリーダーとしては、備蓄を常に心配する必要がなくなるって精神衛生上すこぶる良い。


 「ラッテ様が給料百年分前払いって」

 「赤ちゃんの心くらい考えなし(ホワイト)

 「五つ子は入ってそうな太っ腹」


 不安の種が消えて心置きなく観光。エスキモアは常冬。海はなく、氷った湖がちらほら、そこも生態系はほとんどない、ただの水らしい。地表はまばらな森と剥き出しの荒地を覆う雪、他は鉄とコンクリートの巨大建造物が点在するだけ。人工物はほぼ全て軍事基地か研究施設らしい。

 一般人は地下で暮らす。徹底的に手を加えた、私の感覚だとデパートとマンションと地下鉄駅が合体した『外』のない世界が広がっていた。常春の温度設定にしてあって、空気清浄を兼ねた通風孔がそこら中の壁に散見していて、世界が丸ごと呼吸しているみたい。

 さらに下には下水処理を兼ねた人工の海が広がっているそうな。こういうスタイルがこの惑星のスタンダードらしい。要はアテナやコロニーと大差ない。地表の自然と地下の人工物って分けているから見た目は違うけど。


 「双子の仲間とかそろそろきそー」

 「自分で言いたくないけど濃いメンツが集まるよな」

 「露出多い服着てたらソシャゲみたい」


 道路は一応あるものの、法定速度時速三十キロメートルとか、レース用のコースとか、移動と娯楽のコントロール下にあって、愛車のハムスターで自由にツーリングとかは無理だった。やっぱり星というよりコロニー、なんなら心情的にはアテナより窮屈かも。

 ちびっ子たちはもとより私も含めたエドゥー星系組は、地表に降りて見渡す景色のほうに感動しちゃった。あっちも寒い地域はあったけど行く機会はなく、カダナやコリアンテ辺りは一応四季のある常夏くらいの気候だったから、この記録映像とかでしか見たことのない一面銀世界は素直に心打たれた。まぁ数時間で結構だけど。寒すぎるわよ。


 「姐さんのGスーツは異常にエロいっス」

 「あれ着るだけでも戦闘機は無理だな」

 「実は相当危険な仕様という話を小耳に……」


 モロヘイヤ国に雇われたのは、近々隣りの大国、ジンジャー国に攻める予定だそうだから。野菜どこってアレ? 生姜は野菜じゃ……、いや、止めましょう。大自然に目を背けて何でも作れるはずの地下プランターで特産物を誇る国民性といい、ネーミングも感性もこの惑星には闇の向こうに深淵を感じる。首を突っ込んだらグレープフルーツと同じ気分を味わいそう。もうグレープあるし言われなくてもフルーツだし何考えて名付けたん?


 「ロボットのパイロットスーツはどうしてゴテゴテしているのでしょう」

 「普通のGスーツ、人工筋肉の上に装甲を張って、一兵士としても戦うように、らしい」

 「ナハシュの臣下も何人か撃ってたよね。だから怪我人メッチャ多かったんだけど」


 それはそれとして、今はどこの国も戦争準備に忙しそう。特に小国は世論が後押しして今までの鬱憤を晴らせそうって張り切っている。

 ここで勘違いしてはいけないのは、庶民の知らない裏ではもう筋書きが決まっているってこと。大国は、今は自分が悪役(ヒール)であることを自覚して、負ける前提で備えている。

 もちろん現場の兵士は命懸けだから本気で戦うけど、上は匙加減に頭を悩ませているところでしょうね。小国は今までは出来なかった積極的な攻撃が出来る。大国は大敗は嫌だけど惜敗くらいで世論が落ち着くまで時間を稼ぎたい。更新に備えて旧兵器の処分も計算しているかな。


 「ロボットってなんかツッコミどころが見え隠れするよな」

 「存在自体がロマン兵器の一言でゴリ押ししているしね」

 「多分シリアスに戦争したくないんだよ」


 そこに参戦する空気を読まない私たち。モロヘイヤ国はどうして私を雇ったのか? 普通に戦えば勝ちを譲ってもらえる展開なのに。私というねずみ花火で火遊びしたら先の読めない展開なのに。表に出ない答えは、隣国に大ダメージを与えたいくらい恨みを抱えているか、大国と手を組んで私を嵌めるつもりか、どちらかかな。

 別に後者でも構わない。初対面で信用もなにもない。雇い主に裏切られても勝てる備えをしておくのが傭兵の立ち回りでしょうね。 


 「エスキモアの戦争はスポーツよりお祭りっぽいね」

 「いやボスが来てからずっとおかしくなってんだよ」

 「そうそう。どこの国もいきなり小悪党に変わったの不思議」


 備えに関しては、シュヴァインことボア兄さんが空のもっと上、アテナでどうせ今も寝食を忘れて働いている。三度の飯より仕事好きってあの人も常識人ぶっているだけで大概おかしい。

 先日暴れたナハシュの臣下、ドレスアームズのパイロットは四十六名いて、負傷者は多数いたけど死ななきゃかすり傷だからサクッと治した。手足が吹っ飛ぶくらいは頭じゃなくてセーフって笑い事で済む。

 そんなふうに指揮官目線だと、兵士は生きていればせいぜいリハビリに時間がかかるくらいだから問題なくて、壊れた兵器の修理のほうが大変になる。そしてナハシュたちは派手に壊した。辺境伯領内の秘密基地からスペアパーツも含めて物資をねこそぎもらったとはいえ、普通は廃棄処分の機体多数でしょうね。直せるどころか魔改造を始める兄二人はおもちゃで遊ぶ子供。たちが悪い。


 「本当は各国に有名なエースや部隊はもっとあって、真剣に戦ってたんだけどな」

 「殿が圧倒的すぎて他が下がるのでは」

 「マジラッテ様」

 「コーヒー牛乳とは和解したっス」


 なんせウッドストック家は整備にステ極振りしてきた一族だから、直せないは恥とか独特のプライドがある。私も工具は使えないけど話は無数に聞いて育った。

 兄曰く、整備に天才は必要ない。独創性なんてどこにもなく、普通のことをすればいい。慣れてきたらより早く、より楽に、より手際良くを追求していく。そして対象の正常が分かれば故障の異常も分かるようになる。焦げ付く匂い、錆び付いたすえた匂い、漏れたオイルの匂い、溶けたゴムの匂い、プロペラファンの悲鳴、接続部の緩み、パーツの歪み、傾き。ヒントはあって、いかに早く気付いて正常にするまでの手順をフローチャートに思い描いて実行するかが腕の良さとなる。つまり、整備士は若き天才よりベテランのほうが貴重な人材なのさ、オッサンを大事にしてくれ。結論以外はへぇーって話ね。


 「フルーツ牛乳は正義ね」

 「意義なし」


 構造が複雑なロボットは整備士泣かせだけど、ボア兄さんは嬉々として陣頭指揮を執っている。整備娘たちは頑張ってね、てどうせ同類だから大丈夫か。

 ナハシュたちの加入は非常に大きい。シーバたちはいわゆる回避タンク、前線でちょこまか動いて敵の気をひいて時間を稼ぐ役目であって、ちゃんと軍人の教育を受けたナハシュと熟練兵たちが前線を構築してくれたら地上は安心して任せられる。


 「お客様、プフェート様からのお届け物です」


 話題が目まぐるしく転変していくメンバーを見ながら考え事にふけっていたら、執事っぽいというかバスティンぽいコンシェルジュがテーブルに両手で抱えるサイズの円盤を置いた。プー兄さんのあとをついていく姿を見たことがあるし、どう使われるのかも知っている。でも不用心ね。『敵』が仕掛けた爆弾とか━━。


 『心配無用、このホテルが俺の支配下にある』


 私が何を操作するまでもなく円盤からプー兄さんの声がして、BGMが流れてホログラムのマップが浮かんだ。コンシェルジュはうつむいてそそくさと立ち去った。え、何かされてる?


 『それではブリーフィングを始める』


 「あれ、まさか、いや違うか。エドゥー星系ではこういうスタイルなのか」


 ナハシュ、どうかした? すんごい誤解が生まれた気がするけどメンドイからほっとこう。


 『これは通信ではなく記録だから盗聴はない』


 うわ、悔し。気付かなかった。


 『モロヘイヤ国の御前会議が終わった。宣戦布告は明後日、現地時間で朝九時に進軍開始。対象は生姜国のセンチュリティア基地、カラミショート基地。まずは国境付近の二拠点を同時に落とし、本命はその先のヘキサクルス基地になる。前の二基地はただの飾りだ。生姜国がモロヘイヤ国の顔を立てるために負けてもいいって趣旨のエサだ。しかしヘキサクルス基地は設備投資にかなり力を入れたから、壊されると痛い』


 まぁ金額だけ見れば宇宙戦艦並みにかかるのかな。ピンキリだろうけど。


 『始めの二戦は正規軍のみで行う。メンツとかお前らに説明するまでもないか。そのあとの本命にお前の協力を要請するらしい』


 ナハシュたちの機体は間に合うかな?


 『壊れた機体の修理及び改修は明日までに終わる。全機出撃可能だ』


 チッ、思考を読まれるってなんかイラつくわね。


 『ヘキサクルス基地の推定戦力は、チューバ6Qエンプーサ、マルチロール仕様の十二小隊、四機と五機編成の合わせて五十機。他所からも招集されて、エースのホワイトアウト、セムダント・ディア・ヨーホース大尉率いる2038航空小隊が要チェックだな』


 「うわぁ、ビッグネームがくるのか」

 『そうだエンプーサはあの前進翼だっ。対地もさせるとか全然分かってない』


 良かった。噛み合ってない。


 『地上は主力戦車パンテ千二百両、巡行戦車メーズ五百両、歩兵戦車ゴズィ二式千四百両。敵の出方を見て前哨戦に割く割合が不明だから変動するだろうが、予定はこれくらいだ』


 「結構本気の戦争になるのかしら」

 「ああ、無視されて哀れだが歩兵が数万人は死にそうな規模は珍しい」


 『生姜国のほうは旧式兵器は気前良く使い潰すつもりだな。さらに対空砲に試作のレールガンを用意してきた。十二基は配備されるようだ。レールガン自体は最新でもなんでもないから試作って言い方は変に聞こえるだろうが、暗黙のルールの改変に合わせた試作ってことだ。ハッキリ言うと、コイツが普及したら現在の戦闘機は消える』


 宇宙戦闘の実弾。流れ弾が危なすぎるけど、一般人は地下で暮らすこの星なら問題なし。確かに旧式兵器の象徴、戦闘機の出番は終わるわね。思い切ったことするじゃない。


 『もうお前を倒すためならなりふり構わないって姿勢だな』


 「上等よ。燃えるわ」


 スポーツよりもガチ、お互い面子が命より重い真剣勝負といきましょう。


 『ただ、最大の敵は天候になるかも。明後日の予報は吹雪だ』


 「それは……、確かに一番気をつけなきゃ」


 自然には勝てないから、場合によっては私もロボットで出るか。


 「良し、具体的な作戦はモロヘイヤ国から打診されてから決めましょ。各自そのつもりで英気を養っておくこと」

 「姐さん、そうじゃないっスよ」

 「……、さ、仕事を始めるわよ」

 「「「了解っ!」」」


 こんなルーティンはイヤ。



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